Creator's Blog,record of the Designer's thinking

フィールドワークの映像、ドローイングとマーケティング手法を用いた小説、エッセイで、撮り、描き、書いてます。

セカンドライフ sonicmart制作記21.

2007年10月05日 | Design&3DCG
 セカンドライフをテーマとするブログも、当初予定の数回を大幅に越えてしまった。今回で最終回としたい。最終回は、シム運営段階に於ける環境の改変について述べておく。
 ファーストライフで環境デザインの仕事をしてきた経験であるが、一般に制作された環境が改変されることを建築家やデザイナーは本質的に嫌う。その理由には肯定できる点があり、環境や建築の完成度やクオリティを持続させようとする意志が働いている故である。実際に建築家がデザインした建物をベースとし、後から類似デザインを用いて第三者が増築したといったケースは実際に起こりえる。結果はどうかといえば、初期の完成度やクオリティは持続されず失敗となる。そうした落差は、制作に関わる人間の、経験、能力、感性、意識、個性、そして創造力の相違に由来する。
 もう一つの改変要因は、利用者である。公共空間に設えられた街具(街灯、ベンチ、サイン、モニュメント、植栽等)は、完成した矢先から、損傷され、落書きされ、そして引き抜かれたりもする。個人の所有物である車に傷をつけられれば、烈火の如く怒りを露わにする利用者も、パブリックの改変には無頓着である。そうした理由は、コモンセンスの欠如に他ならない。
 セカンドライフに話を戻すと、仮想環境であるから改変は、大変容易である。従って完成した矢先からファーストライフ以上の早さで、改変が進むことは必死である。人間の改変意識というのは、実はファーストもセカンドも変わらないといえる。
 ところで、ファーストとセカンドの環境改変には、共通する行動が見られる。何れも最初は部分的なところから、改変が始まるのである。この程度の範囲であれば全体に影響を与えないだろうという潜在的な個人の勝手な意識が働くのだろう。部分的な改変を繰り返しながら、やがては全体を破壊してゆくのである。
 こう考えてゆくと、今の地球環境の姿と似てくる。この程度の改変ならば、影響がないだろうという個人や行政や国家の甘い認識が継続的に蓄積して、今日の地球環境の温暖化を招いてきた。実は、私達の世界は、個別的で小さな数多くの環境構成要素が、システマティックな環境構造全体のなかに、綿密に位置づけられているのである。従って制作場面において、個別要素と全体構造との良好且つ最適な関係性を構築してゆくことこそが、環境デザインの役割になる。同様に建築家やデザイナーも、限定的ではあるが与えられた仕事の範囲内で、個別要素と全体構造との関係性を構築しようと日夜腐心しているのである。そこに建築家やデザイナーの存在理由の1つがある。
 このプログにおける制作記の主旨は、ファーストとセカンドの2つの世界を往来しながら、個別要素と全体構造との関係性の視点から環境形成の意味を明らかにしてゆく点にあったのである。
 セカンドライフの良いところは、 個別要素の改変の仕方で全体環境が変化してゆく様相を、速やかにシミュレーションし体感できる点にある。そして全ての環境構成要素はプログラムとオブジェクトデータとして保存できるのであるから、改変された仮想環境を、復帰してゆくことが容易なのである。セカンドライフの仮想環境での操作と体験を通じ、環境構成要素と環境構造全体との関係性や意味や重要性が、多くの人々に認識されれば、それは大変優れたプラット・フォームといえ、もはやゲームの世界を越えている。そこにこそ仮想環境の現代的或いは社会的価値が見いだせるのである。(結)
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セカンドライフ sonicmart制作記20.

2007年10月04日 | Design&3DCG
 フィールド調査と多忙な仕事が重なったため、このブログも間が空いてしまった。前回は、仲間同士によるセカンドライフ(SL)シムを運営した際のシミュレーションについて執筆した。今回は、企業がシム運営を行う場合に関する、私の気付きを記した。
 例えば企業が、広告媒体の1つとしてシムを運営するのは、コミュニティのそれと比較すると容易である。それは、予算規模が大きく異なるからだ。例えば3分のTVCMを1週間放映すると、朝時間帯120万円/分×3分×7日=2,520万円となり、SLのイニシャルコスト的規模を上回る。言い換えればSLは、それに比べれば低減な金額で扱えるので、シム運営の収支自体を算出する意味は少ないだろう。一般的な広告的視点でみれば、視聴している人間の数が大きなファクター故、SLでもトラフィック数が問われてくる。
 3DCGの可能性は、広告だけではない。それ以外にも、多用なビジネスモデルを考えてゆくことは可能である。例えば全国展開するチェーン店やホテルなどの接遇研修は、SLを使えば、わざわざ出張旅費を支払って社員を集めなくても、日々の営業に即応しつつ、研修や助言が速やかにできるだろう。
 また情報系企業では、3DCGの製品モデルを制作し、 製品の解説や社員研修等で使用するといったビジネス・モデルが提案されていた[注]。製品をあらゆる角度から説明できるので、2D資料では説明できない内容を、容易に伝えることができる。
 製造業や建設業では、製品や建築の紹介やプレゼンテーションをSL上で行うことができる。現在建築設計事務所では、模型や3DCGを多用している。 模型では建物の中にはいることすらできない。そこで予め相当数の時間を費やして、建築空間の見せ方を編集し、アニメーション・レンダリングで制作しているのが現状である。SLでは、クライアント・アバターが直接建物の中に迄はいって自由に見て回れるので、レンダリング制作の必要はなく、建築自体を体感することができる。時間とコストが大幅に節約できるだろう。
 またハウジングやマンションのモデルルームを造るコストにくらべれば、SLでモデル化したほうがはるかに経済的であり、販売住戸すべてを3DCG化できる。購入予定者と一緒に打ち合わせしながら、間取り変更、オプションの追加、インテリアの打合せが可能となる。住宅建具や設備をSL上でライブラリー化しておけば、そうした打合せは実に容易である。さらに販売後には、また別のマンションのモデル・ルームとして使うことができる。
 SLを用いた不動産賃貸ビジネスなど、早晩発生するだろう。パリにアバルトマンを借りたいとする出張予定の日本人商社マンが、わざわざ現地へ足を運ばなくても、日本で居ながらにして、賃貸物件の疑似体験と確認は可能となり、その場で契約だってできよう。SL上では、世界中の不動産を世界中の人間が、疑似体感できるのである。
 このように思いつくままに、SLのビジネスモデル・コンセプトを書き連ねたが、今後企業の必要に応じた企画は、いくらでも考え、そして実現することができよう。要は、企業の必要に応じてSL上の3DCGをどう使うかである。社会全体で見ると3Dという3次元思考型ビジネスに、慣れていな部分が多いように見受けられる。私のように、建築空間を通じて3次元空間と関わってきた人間にとっては、2Dと3Dの違いを如実に感じているだけに、社会よ早く!!3Dに飛び込んで来たまえと、叫びたい。
 現在の2DWEBが、3DCGにとって変わる日も、比較的早い時期に来るだろう。そんな3Dリノベーション自体が、大きなビジネスになるのだろう。

注)日本経済新聞,2007.
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