Creator's Blog,record of the Designer's thinking

フィールドワークの映像、ドローイングとマーケティング手法を用いた小説、エッセイで、撮り、描き、書いてます。

Village Design3. 菅浦

2007年10月13日 | field work
 リゾートという言葉に対して、リトリートという言葉がある。隠れ家という意味だが、奥琵琶湖北端に位置する上図(撮影:2007年4月)の西浅井町菅浦地区は、こうした言葉があてはまる。JR湖西線永原から、日に数本のバスか自転車で、湖岸道路を下ったところに突然現れる唯一の小さな集落である。
 滋賀県立図書館で調べたところ、西浅井町誌が発行されていないので、この集落立地の由来は、類推で述べる他ないだろう。奥琵琶湖自体が日本海側気候の影響をうけるので、冬は、当然地域相応の積雪がある。菅浦は、北側を山に囲まれ南面して立地しているのだが、この山間のわずかばかりの平坦な微地形から察すると、この一角だけ積雪量が少ないと私は推測した。積雪量の少なさと流通路としての琵琶湖が通年利用できるところから、この陸路と海路の接点に集落が発生してきたと推測している。集落には,800年前の古文書が発見されたというのであるからして、歴史は相当に古い。
 菅浦の民家は、瓦屋根、紅殻格子や柱、焼板で囲われた壁と、滋賀県に多くみられる建築様式である。琵琶湖の気候の影響に対応し、紅殻や焼板は防腐剤の役割を果たすなど、この地域の風土に適合した建築様式である。こうした民家が、集落内の路地沿いに並んでおり、妻面を湖に向けて配置している景観は大変美しい。
 菅浦の民家は、釣り客相手の旅館と、農林漁業を生業としているのだろう。生業自体が、そんなに活発にはみられないので、山間に静かに潜むという趣がある。都会人の意識で見れば、世間から身を引き静かに暮らすには、この交通の不便さが幸いし、あまり人が訪れない故に、リトリート性があるのだと考える。唯一のビジター用施設は、国民宿舎つづらお荘があり、ここの地場料理は、地域固有の味覚がある。
 こうした菅浦のような、隠れ家的集落が日本には、今なお数多く存在している。その殆どが交通不便であり、自動車がなければ行くことができない。従って集落で暮らす人々にとっては、自動車は生活必需品である。他方都会人にとっての自動車は、集落ほどの必然性は希薄であり、実際に物臭性、ステイタスないしは見せびらかしの所産でしかなく、その行動も通俗的範囲に限定されている。例えば、未だ知られていない集落を探して林道を4輪駆動車で走り回る等といった体験(本来ならばこうした活用をしてこそ、自動車の価値があるのだが)、活かし方をする人は大変少ない。都会人がやることは、4輪駆動車であっても、売ることを前提としボディに傷がつくことを懸念しているようでは、プロダクト本来の目的を逸脱している。アウトドアといっても、要はセールストークの言いなりされたファッションでしかない。
 菅浦の対岸にある海津大崎は、全国桜100選に選ばれた名所があり、自動車で訪れる観光客が大変多く、そのため交通規制が不愉快なほど厳しい。だが、彼等が菅浦まで足を伸ばすことは、まずない。えてして彼等は、自動車があってこそ訪れることが可能となる未知の体験には、興味がないと言うのが内実であろう。そんな自動車族のメジャー志向と無知・無関心のおかげで、菅浦は今なお隠れ家的たたずまいが持続しているのである。
 菅浦の正面には、三角形の地形がシンボリックなランドマークとなっている、竹生島が眺められる。
 
2007年4月撮影.
FinePix S5pro,NikkorF2.8/35-70mm.
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