湖西地方の地図をみると、琵琶湖に円形状に突き出た特徴的な地形がある。長年安曇川によって運ばれてきた土砂や礫が堆積して形成されてきた平野部、デルタファン(三角州)である。現在もなお安曇川によって土砂や礫が琵琶湖湖底に堆積し続けていることを安曇川町誌[注1]は記している。
同町誌によれば、このデルタファン(安曇川デルタと呼ぶ)が、この地域の人々の暮らしや生態や景観を形成してきたことがわかる。暮らし面では、安曇川の支流と扇状地特有の伏流水とが、田畑のかんがい用や生活用水として利用されてきた。このブログでも前述した新旭町針江地区の「かばた」における豊富な湧水も、こうした伏流水によるものである。通例扇状地は、農作物の生産にとって良好な土壌にも恵まれているので、水利と合わせて、この地方有数の穀倉地帯となっている。まさに安曇川デルタの上に、この地域が成立しているのである。
生態面では、比良山系の北端から河口まで約15kmと、短い範囲で高低差があるため、限られた環境にミズナラ林やコナラ林を中心とする山地帯、アカマツ林やシイ林で構成される低山帯、平地林であるハンノキ林、ヤナギ林、落葉低木林などの低地帯とに区分された植生帯がみられる。湖岸には、比較的規模の大きいヨシ原、ススキ葦原が広がり、陸地と水系との境界域に広がるエコトーンは、この地方の湖岸景観の特徴となっている。こうした陸と湖水とによる多彩な環境は、他方サギ、チドリ、ユリカモメなどの野鳥の生息地となっていることが記されている。
こうした植生を、代償植生という。代償植生は、人々が住みつき、様々な人為的干渉によって、本来の自然植生が破壊された後に、人々の生活と自然との相互関係性の中で、長い時間を経て形成されてきた人為的植生である。社会的には、代償植生帯を里山と呼んでいる。滋賀県に住みついたフォトグラファーが制作した作品集[注2]をみると、安曇川を含む湖西地方が日本有数の豊かな里山地域であることがわかる。
安曇川の河口部分、琵琶湖の湖岸沿いに川を挟んで、北舟木、南舟木という集落地区がある。これらの集落を尋ねてみたいと思ったのは、国土地理院の地形図[注3]を見ていたときであった。何故こんな湖の際に、集落が立地しているのだろうと思った。湖岸に立地している2つの集落配置は、環境デザインの視点から見れば、創造力をかき立てるとても新鮮なサイトプランに思われた。こうした立地形態には、この地域固有の風土的必然性があるのだろうと類推した。それがこの地区を訪れるきっかけだった。上図は、安曇川橋上から撮影[注4]した北舟木の集落である。この地域は、観光ガイドブックには記されず、およそビジターが訪れることが少ないであろう。だが実際に舟木の集落を歩くと、Village Designのエッセンスが凝縮されていることを、私は体感した。これが人々が、暮らしている環境なんだという実感を。
注1.滋賀県市町村沿革史編さん委員会編:安曇川町誌,非売品,1967.
注2.今森光彦:里山物語,新潮社,1995.今森光彦:里山の道,新潮社,2001.を始め多数.
注3.国土地理院地形図1/25,000,勝野.
注4.2007年6月撮影.
2007年6月撮影.
FinePix S5pro,NikkorF2.8/35-70mm.
同町誌によれば、このデルタファン(安曇川デルタと呼ぶ)が、この地域の人々の暮らしや生態や景観を形成してきたことがわかる。暮らし面では、安曇川の支流と扇状地特有の伏流水とが、田畑のかんがい用や生活用水として利用されてきた。このブログでも前述した新旭町針江地区の「かばた」における豊富な湧水も、こうした伏流水によるものである。通例扇状地は、農作物の生産にとって良好な土壌にも恵まれているので、水利と合わせて、この地方有数の穀倉地帯となっている。まさに安曇川デルタの上に、この地域が成立しているのである。
生態面では、比良山系の北端から河口まで約15kmと、短い範囲で高低差があるため、限られた環境にミズナラ林やコナラ林を中心とする山地帯、アカマツ林やシイ林で構成される低山帯、平地林であるハンノキ林、ヤナギ林、落葉低木林などの低地帯とに区分された植生帯がみられる。湖岸には、比較的規模の大きいヨシ原、ススキ葦原が広がり、陸地と水系との境界域に広がるエコトーンは、この地方の湖岸景観の特徴となっている。こうした陸と湖水とによる多彩な環境は、他方サギ、チドリ、ユリカモメなどの野鳥の生息地となっていることが記されている。
こうした植生を、代償植生という。代償植生は、人々が住みつき、様々な人為的干渉によって、本来の自然植生が破壊された後に、人々の生活と自然との相互関係性の中で、長い時間を経て形成されてきた人為的植生である。社会的には、代償植生帯を里山と呼んでいる。滋賀県に住みついたフォトグラファーが制作した作品集[注2]をみると、安曇川を含む湖西地方が日本有数の豊かな里山地域であることがわかる。
安曇川の河口部分、琵琶湖の湖岸沿いに川を挟んで、北舟木、南舟木という集落地区がある。これらの集落を尋ねてみたいと思ったのは、国土地理院の地形図[注3]を見ていたときであった。何故こんな湖の際に、集落が立地しているのだろうと思った。湖岸に立地している2つの集落配置は、環境デザインの視点から見れば、創造力をかき立てるとても新鮮なサイトプランに思われた。こうした立地形態には、この地域固有の風土的必然性があるのだろうと類推した。それがこの地区を訪れるきっかけだった。上図は、安曇川橋上から撮影[注4]した北舟木の集落である。この地域は、観光ガイドブックには記されず、およそビジターが訪れることが少ないであろう。だが実際に舟木の集落を歩くと、Village Designのエッセンスが凝縮されていることを、私は体感した。これが人々が、暮らしている環境なんだという実感を。
注1.滋賀県市町村沿革史編さん委員会編:安曇川町誌,非売品,1967.
注2.今森光彦:里山物語,新潮社,1995.今森光彦:里山の道,新潮社,2001.を始め多数.
注3.国土地理院地形図1/25,000,勝野.
注4.2007年6月撮影.
2007年6月撮影.
FinePix S5pro,NikkorF2.8/35-70mm.