デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

ハービー・ハンコックの欲望

2007-09-09 07:24:05 | Weblog
 「太陽はひとりぼっち」や「砂丘」でも知られるイタリアの映画監督ミケランジェロ・アントニオーニが、フィルムによる映像の時代に別れを告げるかのように7月末に亡くなった。傑作のひとつにデイヴィッド・ヘミングスがカメラマンに扮した「欲望 Blow-Up」があり、ファインダーから覗いた現実とも幻想とも思える不条理な世界は何度観ても飽きない。当時台頭してきたニュー・アメリカン・シネマとは違う形で人間関係の不確かさを描いた66年の作品は、カンヌ映画祭でパルム・ドールを獲得している。   

 アントニオーニがジャズファンであったことからハービー・ハンコックに白羽の矢が立ち、「欲望」のスコアを手掛けた。66年というとハンコックが前年に傑作として誉れ高い「処女航海」を発表し、翌67年にはイージー・リスニング・ジャズの代名詞ともいえるウェス・モンゴメリーの「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」に参加し、意気揚々としていた頃である。その時期であることからモードかと思いきやポップ・ミュージック寄りの曲が多く、既にフュージョン志向を窺えるのが興味深い。この音楽がごく自然に映像に溶け込み、40年経った今も、これから先も衰えることはないであろう。

 映画の官能的なワンシーンを切り取ったジャケットはサウンドトラック盤で、映画にも出演していたヤードバーズの曲も収録されていてロック・ファンの間でも人気が高い。ヤードバーズで売ろうとしたのだろうか、「Featuring The Yardbirds」とシールを貼ってあるのは国内盤に付いている帯のようなものだろうか。ロック・ファンが注目するのは、この時代のヤードバーズで、ギタリストのジェフ・ベックとジミー・ペイジが、ツイン・リードとして同バンドに参加していたことにある。映画と切り離すとサウンドトラック盤は音楽性に欠けるとも言われるが、このアルバムは画像抜きでも遜色がなく、ハンコックの作曲家としての非凡な才能を知ることができる。

 フィルム時代にアントニオーニが生み出した多くのものはデジタル時代の若い映画作家に受け継がれ、ハンコックもまたヘッドハンターズでフュージョンの雛形を作りジャズの流れを変えている。斬新な創造には時代の趨勢を見極める敏感な感覚が必要であり、飽くなき欲望こそがその感覚を研ぎ澄ませるのだろう。
コメント (46)
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