デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

コニッツとマーシュを笑い測定機にかけてみよう

2008-04-06 07:41:24 | Weblog
 先日の新聞に、健康に良いといわれる笑いを科学的に検証するのに役立てようと、「笑い測定機」を開発した話題があった。研究者の関西大学木村洋二教授の笑顔の写真も載っていたが、実験台にでもなったのだろうか、とても健康そうである。笑いのエネルギーは横隔膜に反映されるという学説に基づき開発されたもので、愛想笑いや作り笑いには反応せず、心の底からおかしい本物の笑いだけを感知するという優れものらしい。

 ジャケット写真撮影のための作り笑いとは思えないほど豪快に笑っているのは、リー・コニッツとウォーン・マーシュである。レニー・トリスターノ門下の二人はクール派として知られるが、このアルバムでは初期の空気さえ切ってしまう尖がった刃物のような音色ではなく、ウォーム・コニッツと評されるほど実に柔らかい。師匠トリスターノ抜きということもありリラックスした雰囲気も窺えるが、テンションは高く、5年前に共演した「サブコンシャス・リー」の兎もすると単調にさえ聴こえる長い水平飛行的なメロディー・ラインは健在だ。音楽理論を探求した師の教えを忠実に守りながら自己を発展させた優秀な門下生だろう。

 「Topsy」「There Will Never Be Another You」「I Can't Get Started」と馴染みのスタンダードに続き、パーカーのサボイ・セッションでの初演が有名な「ドナ・リー」が収録されている。バップの代表的なチューンは、既存のスタンダードナンバーのコード進行に基づいて書かれたものが多いが、「ドナ・リー」はデキシーの名曲「インディアナ」をベースにした曲だ。インプロビゼーションの対象として面白いようで、パーカーは何度も演奏していた。そのパーカーが確立したアドリブの技法を、理論的に解明しようとしたのがトリスターノ一派であった。それはバップの複雑なコードを単純化することで、難解なバップを解り易くする試みだったのだろう。結果的には先に述べたように水平で起伏のない平坦な印象は免れないが、バップ・イディオムの延長であることは、このホットな「ドナ・リー」で証明されたともいえる。

 写真を撮影したのは録音の後だと思われるが、お互いの持ち味を存分に発揮し、十分に納得できる仕上がりともなれば大笑いするほど楽しい。笑い測定機はアッハ(aH)という単位で数値化するようだが、コニッツとマーシュの笑いは完成したばかりの機械を壊すかもしれない。
コメント (26)
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