デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

リー・モーガン、もしくはある銃社会の記憶

2008-04-13 08:30:44 | Weblog
 映画「ベン・ハー」や「猿の惑星」の名演技が光る俳優であり、全米ライフル協会の会長も務めたことがあるチャールトン・ヘストン氏が、5日に亡くなった。銃社会のアメリカでは、この団体が合衆国憲法に定められた「武器を所持して携帯する権利」を根拠に、銃規制に反対している。他国のことはいえ、コロンバイン高校銃乱射事件のような惨劇は見たくないものだが、銃がある限り繰り返されるのだろう。

 そんな銃の犠牲になった一人にリー・モーガンがいる。別れ話の縺れから愛人ヘレンにピストルで撃たれ、死亡したというショッキングなニュースは、リアルタイムで知っただけに生々しかった。弾は心臓を貫通 して病院に運ばれるも即死だったというから、よほど拳銃の扱いに慣れていたのだろう。アメリカにはライフルの分解、組み立てを1分でこなす少女もいるくらいだから、子どもの頃から身近に銃があっても不思議ではない。僅か18歳でブルーノートにデビュー・アルバム「Indeed!」を吹き込み、驚くことに翌日にはサヴォイに「Introducing」を録音した恐るべき早熟児のあまりにも早い33歳の死であった。

 写真のアルバムは「Lee Morgan」というタイトルしかないが、はからずも最後の作品になりラスト・アルバムと呼ばれている。ビリー・ハーパーを初めハロルド・メイバーン、グレシャン・モンカー3世という新世代のミュージシャンを迎え、ファンキーの立役者が新たな道を模索した作品だ。2LPで片面を占める長尺の曲は、この時期のマイルスのアルバムを思わせるが、熱気にあふれる演奏からはマイルスとは違ったスタイルで70年代を牽引していく姿勢が見える。ジャケットのサインのように、その音は真っ直ぐに伸び、途切れのない文字は恰も80年代、90年代へと繋がる新しい方向を示唆しているようで、その早世は70年代という混沌としたジャズシーンの出口であるひとつを失ったのかもしれない。

 全米ライフル協会のスローガンは、「人を殺すのは人であって銃ではない」という。ヘレンが構えた32口径の拳銃も、モーガンが愛用したトランペットもそれ自体、魂は持っていないが、魂を吹き込むのは人であり、引き金を引くのも、ピストンも押すのも人である。
コメント (24)
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