デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

アーヴィング・バーリンに小僧呼ばわりされたコール・ポーター

2011-10-02 08:32:00 | Weblog
 ピーターの法則で知られる教育学者ローレンス・J・ピーターの著書「Peter's Quotations」に、アーヴィング・バーリンの「Listen kid, take my advice, never hate a song that has sold half a million copies.」という言葉が引用されている。「坊や、覚えておいたほうがいい。50万枚売れた曲はバカにしちゃいかんよ」とでも訳すのだろうか。アメリカのシューベルトと呼ばれたソングライターに小僧呼ばわりされたのは誰か・・・

 コール・ポーターである。いきさつが書かれていないので推測の域を出ないが、ポーターが先輩のバーリンに自作曲がミリオンセラーに届かなかったことを愚痴ったので、嗜めたものと思われる。バーリンといえばユダヤ移民でアメリカに渡ったときは靴磨きで生計を立てていたという。一方、ポーターは大金持ちの家に生まれ、大金持ちの未亡人と結婚している。ミリオンセラーが大ヒットの目安とされ、如何にその曲を書くのかが作曲家としてのステータスとプライドなのだが、形になるのは印税収入であり、その形を量る二人の価値観の違いが出たものであろう。さて、更に推測だがその曲は何か・・・

 What Is This Thing Called Love? ではなかろうか。1929年にミュージカル「ウェイク・アップ・アンド・ドリーム」のために書かれた曲で、ポーターの出世作であり、初ヒット曲である。「恋とは何でしょう」という邦題通りロマンティックで美しいメロディだ。名演は数知れずで、そのほとんどは美しく演奏されるが、無骨なタッチでバップ・ナンバーのように弾いたのはバリー・ハリスである。注目すべきはエルヴィン・ジョーンズの参加で、多彩なドラミングに刺激を受けたのだろうか、やや内向的なハリスにはみられない積極性が前面に出ており原曲を忘れるほどアドリブは激しい。それでいて美しいラインを損なわない名演である。

 数々のヒット曲を世に送り出したポーターの総売り上げ枚数は算出不可能だが、一曲でバーリンの「ホワイト・クリスマス」に匹敵するほど売れた曲はない。ビング・クロスビーだけで5000万枚のシングル盤を売ったとされ、あらゆるカヴァーを入れるとその数は1億枚といわれるが、毎年クリスマスに間違いなく売れるから将来天文学的数字になるだろう。偉大なソングライター、コール・ポーターを小僧と呼べるのはアーヴィング・バーリンだけかもしれない。
コメント (18)
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