デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

ジャック・ウィルソンの Once Upon A Summertime

2015-07-05 09:28:43 | Weblog
 7月に入ったものの夏らしい気温にならない。地方によっては朝夕ストーブが必要というから驚く。こんなときは音楽で夏気分に浸りたい。「Summertime」もいいが、「Once Upon A Summertime」の方が初夏に心地よく響く。曲名を聞いて誰を思い浮かべただろうか。アルバムタイトルにしているブロッサム・ディアリーがある。甘ったるい声は苦手だという方は、ギル・エヴァンスと組んだマイルスか。

 この曲が収録されている1962年録音の「Quiet Night」は、出来損ないのボサノヴァと批判される方もいるかも知れないが、このトラックはギルのオーケストレーションといい、余分な装飾を取り払ったマイルスのトランペットといい、メロディの美を追求した名演と思う。ミシェル・ルグランが、1954年に書いた曲だ。原題は「La Valse des Lilas」で、「リラのワルツ」という邦題が付いている。フランス語のタイトル、直訳ながら美しい邦題、そして英詞をつけたジョニー・マーサーが命名した英語の曲名、そのどれもが言語が違うのにも関わらず語感がいい。

 チェット・ベイカーやハリー・アレンもアルバムタイトルにしていることからホーンのイメージが強いが、ピアノトリオでもじっくり聴かせるのがあった。ジャック・ウィルソンだ。「The Two Sides Of Jack Wilson」のタイトル通り、A面はアップテンポのファスト・サイド、B面はバラードのスロー・サイドという構成で、この曲は勿論B面に収録されている。ウィルソンといえばリー・モーガンやジャッキー・マクリーンと組んだブルーノート盤「Easterly Winds」が有名だが、リロイ・ヴィネガーとフィリー・ジョー・ジョーンズのこのトリオ盤こそバラード・ピアノの魅力を伝えてくれるだろう。ジャズ喫茶でかかったのはB面である。

 マイルスとルグランは、1958年に共演しているので、その付き合いからこの曲を録音したと思っていたが、何とマイルスはブロッサムの歌を聴いてこの曲を録音したという。マイルスのバンドに一時期参加したボビー・ジャスパーがブロッサムと結婚したので、たまたま耳にする機会があったのだろう。甘い声に惹かれたのか、曲に興味を持ったのか、どちらにしろ選曲の妙である。
コメント (6)
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