デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

1968年、ホワイト・アルバムを横目にキリマンジャロの娘に誘惑された

2016-10-16 09:20:18 | Weblog
 たまたま映画通の知人と飲んだとき、ロン・ハワード監督のドキュメンタリー映画「ザ・ビートルズ」を薦められた。エピソードを巧みに編集してるので見慣れた彼らの表情が生き生きして見えたという。公開されているのは知っていたもののどうにも気が進まなくてパスしようと思っていた作品だ。ビートルズが嫌いなわけではないが、何本か観たドキュメンタリー物はざっくり分けてラバー・ソウル以降の後期を中心に編集されていた。

 熱心に聴いたのは66年のリボルバー、67年のサージェント・ペパーズ辺りまでで、68年のホワイト・アルバム以降はLP単位でじっくり聴いていない。また解散後のソロ活動に至っては全くといっていいほど知らないのだ。音楽的に変わったから付いていけなかったわけではない。68年はマイルス年で言うとイン・ザ・スカイとキリマンジャロの娘が発表された年で、小生のジャズの聴きはじめになる。高校の授業が終わると自転車を飛ばしてジャズ喫茶に駆け込み50年代の名盤を聴くか、レコード店で当時流行っていた「恋の季節」や「サウンド・オブ・サイレンス」の合間にジャズの新譜を試聴させてもらう毎日だったので、ビートルズは忘れていた。

 私事はさておき、レノンとマッカトニーが書いた曲はジャズの分野でも多く取り上げられ、ジャズ誌で度々特集が組まれるほどだ。数あるカバーからソニー・クリスのエリナー・リグビーを取り出した。テーマを崩すこともなく、大きくはみ出さないアドリブは一般的な受けを狙ったものだが、ビートルズ・ナンバーはこの方がいい。この「Rockin In Rhythm」や先の「Up, Up And Away」、「The Beat Goes On」といったクリスのプレスティッジ時代は硬派のファンからコマーシャルだと批判されていたが、ポップスのジャズ・カバーからジャズの魅力を知った人は意外に多い。その意味でクリスの一連の作品はジャズ人口を増やした傑作だ。

 この映画の原題は「EIGHT DAYS A WEEK The Touring Years」という。ライブ活動に重きを置いていたデビューから66年までを中心に編集されているので、初期のビートルズを愛するファンには堪らない。劇中、関係者がインタビューに答えてシナトラやプレスリー、ケネディ大統領をはるかに超える熱狂だったと語っていた。おそらくはビートルズやマイルスを凌ぐアーティストは出てこないだろう。改めて良い時代に生まれたことを感謝したい。
コメント (8)
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