デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

ボブ・ディラン、枯葉を歌う

2016-10-23 09:22:53 | Weblog
 えっ!ボブ・ディランがノーベル文学賞を受賞。これには驚いた。先週話題にしたビートルズほど聴いていないので詩を味わうまではいかないが、ディランの作詞は高く評価されているのは知っている。改めて羽振りのよかったミス・ロンリーが転落する「ライク・ア・ローリング・ストーン」を「読む」と、確かに「転がる石のように」に生きることを肯定すべきか否か聴き手の解釈に委ねられる。文学といえば文学だ。

 ディランは自作曲しか歌わないのかと思っていたが、何と2015年にシナトラのカヴァー集「Shadows In The Night」を出している。それも「My Way」や「Stranger In The Night」、「Fly Me To The Moon」といったオジサンのカラオケ定番ではなく、トップの「I'm a Fool to Want You」をはじめ「The Night We Called It a Day」に「Full Moon and Empty Arms」、「Where Are You?」と渋い曲が並ぶ。余程のシナトラ・ファンでなければ直ぐに収録アルバムを思い出せないだろう。どの曲もシナトラのイメージが強いのでジャズシンガーのカヴァーはそう多くはない。そんな曲を選ぶところがディランらしい。

 そのなかに1曲だけ大スタンダードが収められている。この時期にピッタリの「Les Feuilles mortes」だ。えっ?知らない。おっと失礼、原題で紹介してしまった。ジョニー・マーサーが英語の歌詞を付けた「Autumn Leaves」だ。幻想的なイントロから独特のしゃがれ声で詩を朗読するように歌っている。♪The falling leaves drift by my window・・・侘びや寂びを勝手にイメージするせいだろうか聴きなれた歌詞が違って聴こえた。そして絵が浮かんだ。「風に吹かれて」が収録されている2作目のアルバム「The Freewheelin'」のジャケットである。ディランの声は秋の冷たい風だからこそ感じ取れる肌の温もりに似ている。

 受賞には当然ながら賛否の声が挙がった。映画化もされた「私の中のあなた」で知られる作家のジョディ・ピコーは、「私もグラミー賞をとれるってことなの」と皮肉っている。確かに詩は文学賞に該当するが、それにメロディーを伴うと歌になる。ディランはかつて「シンガーであることも大事だし、曲も大事だが、常に一番最初に来るのは、ミュージシャンであることだった」と言っていた。受賞発表後、本人からのコメントがないのはそこにあるかも知れない。
コメント (12)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする