これも新刊。
(スティーブン・D・レヴィット スティーブン・J・タブナー 東洋経済新報社)
1800円。
すべての言説は嘘っぱち、数字とインディアンは嘘つかない。もとい、すべての言説は俗説、数字(データ)とインセンティブ(誘因)は嘘つかない、という好著。90年代のアメリカで犯罪が激減した理由は? NYのジュリアーノ市長が徹底した軽犯罪取り締まりをしたから? 東京都もそれに倣おうという声も上がった。歌舞伎町浄化だ、がんばれ石原都知事! あるいは、いじめ自殺が激増、どうなる学校と教育! そういう根拠なき言説に激しく同意してしまう前に読むべき本。世の中は悪くなっていない、むしろ昔に比べればずっと平穏で住みやすくなっているのだ、ああよかったな現代に生きてて、と胸をなで下ろせる本、でもない。
90年代、専門家の誰もが犯罪の増加を予測したが、青少年の犯罪は5年間で50%以上も減った。その理由として、さまざまな仮説や通説が取りざたされたが、実は誰も指摘しなかった中絶の合法化がその原因だった。貧しくて若すぎるシングルマザーが、たった100ドルで中絶できるようになり、犯罪に走りやすい家庭環境で育つ子どもを減らしたから、という身も蓋もない調査結果は、中絶賛成派にも反対派にも都合の悪い、つまりヤバい経済学だった。
しかし、現在、アメリカで中絶される胎児は年間150万人。それは、中絶されなかった胎児が成長して殺したかもしれない人間の数をはるかにはるかに上回る。「中絶の増加と犯罪の減少の交換条件は、ひどく非効率」という指摘をレヴィットたちは忘れない。結果オーライでいいわけないのだ。
経済的なインセンティブだけでなく、社会的なインセンティブ、倫理的なインセンティブを併せて、インセンティブをとらえるところに、ヤバさと説得力がある。犯罪減少-中絶増加説が優生学という批判を浴びたように。ほかにも、相撲の八百長立証や勉強ができる子の親についてなど、「面白い質問」への回答が経済学の分析手法を駆使して展開されている。
問題解決型云々とよくいわれるが、なるほど問題解決型思考とは「面白い質問」を提出することなのだなと納得。「専門家」の根拠なき言説と社会の通念を経済学という道具を使って解明していくレヴィットは、たぶん経済学を含めてどの分野においてもアマチュアを自認しているはずだ。専門家の世界には、「面白い質問」が深刻なほど不足しているからだ。
育児パラノイアに悩まされるほど親の子への影響が過大に評価されているが、これも根拠がなく、親より同世代の友人からの影響が子どもにとってずっと強い、など教育に関する「通念」を覆す調査も多い。たしかに、高学歴高収入の親の子が勉強ができる、にはDNA以上に強い相関関係があり、子どもの格差は生まれる前から決まっているが、親が子によい影響を与えられるという相関関係は薄く、その因果関係は調査分析からほとんどないといえるそうだ。
羨ましいのはレヴィットのような経済学者が名声を得ていること。上記のような調査研究が彼の本業であり、本書は経済学の啓蒙のための余技ではないのだ。どのトピックも学術論文として発表され、それが評価されて、レヴィットはアメリカではノーベル経済学賞に匹敵する名誉ある学術賞も受賞しているという。
学者になるために学問を学んだのではなく、自分が知りたいこと、謎に思えること、不思議なことに解答を見つけたいがために学者になり、「面白い質問」を探し考え続けているのだ。もちろん、日本にもそういう学者はいるだろう。しかし、そうではない学者が威張っているし、レヴィットのようにCIAのような政府機関や企業から、問題解決のために招聘されることは皆無だろう。
アメリカには竹中平蔵のような「専門家」が何千人もいて、政策を壟断した結果、レヴィットが出てきたのだろう。
http://www.freakonomics.com/blog/
(スティーブン・D・レヴィット スティーブン・J・タブナー 東洋経済新報社)
1800円。
すべての言説は嘘っぱち、数字とインディアンは嘘つかない。もとい、すべての言説は俗説、数字(データ)とインセンティブ(誘因)は嘘つかない、という好著。90年代のアメリカで犯罪が激減した理由は? NYのジュリアーノ市長が徹底した軽犯罪取り締まりをしたから? 東京都もそれに倣おうという声も上がった。歌舞伎町浄化だ、がんばれ石原都知事! あるいは、いじめ自殺が激増、どうなる学校と教育! そういう根拠なき言説に激しく同意してしまう前に読むべき本。世の中は悪くなっていない、むしろ昔に比べればずっと平穏で住みやすくなっているのだ、ああよかったな現代に生きてて、と胸をなで下ろせる本、でもない。
90年代、専門家の誰もが犯罪の増加を予測したが、青少年の犯罪は5年間で50%以上も減った。その理由として、さまざまな仮説や通説が取りざたされたが、実は誰も指摘しなかった中絶の合法化がその原因だった。貧しくて若すぎるシングルマザーが、たった100ドルで中絶できるようになり、犯罪に走りやすい家庭環境で育つ子どもを減らしたから、という身も蓋もない調査結果は、中絶賛成派にも反対派にも都合の悪い、つまりヤバい経済学だった。
しかし、現在、アメリカで中絶される胎児は年間150万人。それは、中絶されなかった胎児が成長して殺したかもしれない人間の数をはるかにはるかに上回る。「中絶の増加と犯罪の減少の交換条件は、ひどく非効率」という指摘をレヴィットたちは忘れない。結果オーライでいいわけないのだ。
経済的なインセンティブだけでなく、社会的なインセンティブ、倫理的なインセンティブを併せて、インセンティブをとらえるところに、ヤバさと説得力がある。犯罪減少-中絶増加説が優生学という批判を浴びたように。ほかにも、相撲の八百長立証や勉強ができる子の親についてなど、「面白い質問」への回答が経済学の分析手法を駆使して展開されている。
問題解決型云々とよくいわれるが、なるほど問題解決型思考とは「面白い質問」を提出することなのだなと納得。「専門家」の根拠なき言説と社会の通念を経済学という道具を使って解明していくレヴィットは、たぶん経済学を含めてどの分野においてもアマチュアを自認しているはずだ。専門家の世界には、「面白い質問」が深刻なほど不足しているからだ。
育児パラノイアに悩まされるほど親の子への影響が過大に評価されているが、これも根拠がなく、親より同世代の友人からの影響が子どもにとってずっと強い、など教育に関する「通念」を覆す調査も多い。たしかに、高学歴高収入の親の子が勉強ができる、にはDNA以上に強い相関関係があり、子どもの格差は生まれる前から決まっているが、親が子によい影響を与えられるという相関関係は薄く、その因果関係は調査分析からほとんどないといえるそうだ。
羨ましいのはレヴィットのような経済学者が名声を得ていること。上記のような調査研究が彼の本業であり、本書は経済学の啓蒙のための余技ではないのだ。どのトピックも学術論文として発表され、それが評価されて、レヴィットはアメリカではノーベル経済学賞に匹敵する名誉ある学術賞も受賞しているという。
学者になるために学問を学んだのではなく、自分が知りたいこと、謎に思えること、不思議なことに解答を見つけたいがために学者になり、「面白い質問」を探し考え続けているのだ。もちろん、日本にもそういう学者はいるだろう。しかし、そうではない学者が威張っているし、レヴィットのようにCIAのような政府機関や企業から、問題解決のために招聘されることは皆無だろう。
アメリカには竹中平蔵のような「専門家」が何千人もいて、政策を壟断した結果、レヴィットが出てきたのだろう。
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