コタツ評論

あなたが観ない映画 あなたが読まない本 あなたが聴かない音楽 あなたの知らないダイアローグ

亀ちゃん、グッジョブ

2009-10-08 02:19:00 | ノンジャンル


中小企業融資や住宅ローン返済を猶予するモラトリアム法案をぶち上げたのに続き、亀井静香金融・郵政担当大臣の発言が注目を浴びている。今年3月、御手洗経団連会長と面談した際、「家族間殺人の増加は、従業員を人間扱いしない大企業に原因がある」「内部留保を雇用のために吐き出せ」と批判したことを最近の講演で明らかにした。

当初、防衛大臣就任をを取りざたされたときも、TVのニュースショーで、「亀井静香がCIAに暗殺でもされない限りアメリカに従属することはない」と発言して話題になった。また、警察官僚出身なのに、「警察は間違う」として、かねてから熱心に死刑廃止運動に取り組んでもいる。

鳩山首相が政権交代前に雑誌に発表した論文で、アメリカ経済を「強欲資本主義」を批判したことが、次期首相発言としては「反米的」で穏当ではないと批判された。鳩山論文は、とりたてて過激というほどの内容ではなく、今日ではごく常識的な批判といえる。また、オバマ大統領自身がすでに「ウォール街の強欲」という言葉を使い、アメリカ経済の管財人をアピールしているから、インパクトにも欠けるものだった。

それでも、鳩山次期首相がアメリカについて「穏当」ではない論文を書いた、という事実によって、アメリカ追従の経済政策以外があり得るのだ、という「事実」を私たちは知ることができた。「日米」から「穏当ではない」という批判を受けることによって、彼らが怖れていることを私たちは知った。ただし、私たちはもうひとつの視点を持つべきだった。批判されるアメリカ経済をこれまで支えてきたのが、他ならぬ日本経済だという視点である。

これに比べ、一連の亀井発言は、はるかに本質的な論点を含んでいる。

第1に、これまではアメリカに従属してきたが、これからは従属しないと言明して、アメリカに対する日本の立場が属国関係であることをあらためて明らかにした。さらに、その従属関係が暗殺を含む恫喝的な手段で維持されてきたことを明示した。つまり、追従という結果ではなく、属国という関係に遡ってみせた。

第2に、大企業と雇用の関係を経済の一要素というだけに限らず、日本社会の不安定要因に拡大し、社会的紐帯を結ぶ直す求心力の再生にまで、その責任を厳しく問うた。つまり、経団連会長に一企業のトップ、一国民としての自覚を求めたわけだ。

第3に、オバマ大統領と同様に、自らも日本経済の管財人であることをアピールしてみせることで、鳩山政権が管財人政権であることを明らかにし、なおかつ、「第一次鳩山内閣」こそ、その管財人性格がきわめて強くあらねばならないことを、連立政権内外に身をもって訴えた。

本質的とは、以上のように、自己遡及がなされているときにいう。自分の主張や批判に対して、まず自分自身が投げ入れられているかどうかに尽きる。

一連の亀井発言をポピュリズム放言と貶め、実現不可能と似非現実主義者はいうだろう。木っ端ジャーナリストやヒョウロンカ、ハンチク経済学者などのインチキテリアたちが、ズブズブの自民党保守政治家だった亀井静香をまるで青二才のように嘲笑する様は、その引き攣った笑顔とともに滑稽というほかはないが、亀井発言が実現しようとしまいと、言葉が政治を変えていくのである。

あるいは、言葉しか世界を改変しないのだ。法制度が変わり、失業率が何ポイント上昇しようがそれは結果に止まり、現在に過ぎない。原因の種子を撒き、未来を獲得するのは、つねに人間が発語主体となる言葉だけである。生活者としての経験を重ねながら、人間と言葉のリアリズムに逢着しない者は、もうどうしようもない。

鳩山とその周辺は、長期政権を狙っている様子がある。国民は民主党を支持したというより、自民党の退場を願った結果として政権交代がある。その認識を踏まえて、民主党が真に政権を担う政党に成長しなければならない、というのが鳩山一派。亀井や小沢、そして菅は、たぶん違う。60年余に及ぶ自民党政治の清算、管財を行うのが「第一次鳩山内閣」。その後は、民主党であるかどうかは不明。少なくとも鳩山民主党の先を見ているだろう。亀井や小沢は新しい保守党を念頭に置いているかもしれず、菅は新しい構造改革派社会党を構想しているかもしれない。

(敬称略)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする