先人の歌をcoverするとき、歌手の実力がよくわかることがある。プレスリーの「LOVE ME TENDER」はcoverするにはやっかいな歌だろう。歌詞もメロディも単調で、プレスリーの甘い声だけでもっているような曲だからだ。
忌野清志郎 LOVE ME TENDER 【放射能はいらねぇ!】
この人がRCサクセションでデビューしたとき、こちらが学生だったせいもあるが、学園祭バンドに毛が生えたくらいの印象だった。いまはなき、「11PM(イレブン ピーエム)」という深夜枠のお色気番組に、サザンオールスターズと一緒にRCサクセションが出演したときを覚えている。
桑田佳祐は「勝手にシンドバット」を、忌野清志郎は「雨上がりの夜空に」を歌った。桑田はくにゃくにゃ腰を振り、清志郎はゆらゆら身体を揺らしていた。演奏が終わると、今日でいう「オヤジ」を代表して、司会の藤本義一とゲストが、「君たちがこれから売り出すためには」と審査員めいた一言を述べるという企画コーナーだった。
藤本義一は小説家らしく、歌については触れず、歌詞についてのみ、二人に苦言を呈した。「勝手にシンドバット」には、「何を云っているのかよくわからない」。「雨上がりの夜空に」には、「言葉の使い方がいまいち」と。なんたる不明と思うかもしれないが、TVタレントとしての藤本義一が発するコメントは、たいてい陳腐であるか、ズレていることが多かった。だが、美女のビキニ姿を目当てに「11PM」を観ていた、桑田や清志郎とほぼ同世代で学生だった俺も、ほぼ藤本義一に同意していた。
藤本義一の寸評を聴く桑田佳祐と忌野清志郎の態度はいずれもふまじめに見えたが、対照的なものだった。桑田は腹をのけぞらして笑い、腕をぶんぶん振り回すギャグマンガ的な身振りで笑いを取ろうとした。清志郎は歌い終わっても身体を左右に揺らしながら、うつむいてあのニヤニヤ照れ笑いしていた。たぶん、藤本義一は「雨上がりの夜空に」の歌詞について、叙情的な気分は出ているが、「まだ稚拙だ」といいたかったのだろう。藤本は『人肉サラダ』という名作をものした優れた小説家である。
この清志郎の「放射能はいらねぇ!」の歌詞を知ったとしたら、やはり藤本義一は同じことを云うだろうし、俺もやはり藤本に同意する。ただし、デビューから40年を経てなお稚拙だとすれば、それは巧拙を越えて選びとった言葉のスタイルともいえる。桑田佳祐も忌野清志郎もデビュー時から、すでに完成形だったのかもしれない。清志郎のLOVE ME TENDERを聴いていると、そうした言葉のスタイルとは別に、この人がとても優れた一人の歌い手だったことをあらためて知る。「反原発の歌」として記憶されていくには惜しい、清志郎のLOVE ME TENDER COVER である。
(敬称略)
忌野清志郎 LOVE ME TENDER 【放射能はいらねぇ!】
この人がRCサクセションでデビューしたとき、こちらが学生だったせいもあるが、学園祭バンドに毛が生えたくらいの印象だった。いまはなき、「11PM(イレブン ピーエム)」という深夜枠のお色気番組に、サザンオールスターズと一緒にRCサクセションが出演したときを覚えている。
桑田佳祐は「勝手にシンドバット」を、忌野清志郎は「雨上がりの夜空に」を歌った。桑田はくにゃくにゃ腰を振り、清志郎はゆらゆら身体を揺らしていた。演奏が終わると、今日でいう「オヤジ」を代表して、司会の藤本義一とゲストが、「君たちがこれから売り出すためには」と審査員めいた一言を述べるという企画コーナーだった。
藤本義一は小説家らしく、歌については触れず、歌詞についてのみ、二人に苦言を呈した。「勝手にシンドバット」には、「何を云っているのかよくわからない」。「雨上がりの夜空に」には、「言葉の使い方がいまいち」と。なんたる不明と思うかもしれないが、TVタレントとしての藤本義一が発するコメントは、たいてい陳腐であるか、ズレていることが多かった。だが、美女のビキニ姿を目当てに「11PM」を観ていた、桑田や清志郎とほぼ同世代で学生だった俺も、ほぼ藤本義一に同意していた。
藤本義一の寸評を聴く桑田佳祐と忌野清志郎の態度はいずれもふまじめに見えたが、対照的なものだった。桑田は腹をのけぞらして笑い、腕をぶんぶん振り回すギャグマンガ的な身振りで笑いを取ろうとした。清志郎は歌い終わっても身体を左右に揺らしながら、うつむいてあのニヤニヤ照れ笑いしていた。たぶん、藤本義一は「雨上がりの夜空に」の歌詞について、叙情的な気分は出ているが、「まだ稚拙だ」といいたかったのだろう。藤本は『人肉サラダ』という名作をものした優れた小説家である。
この清志郎の「放射能はいらねぇ!」の歌詞を知ったとしたら、やはり藤本義一は同じことを云うだろうし、俺もやはり藤本に同意する。ただし、デビューから40年を経てなお稚拙だとすれば、それは巧拙を越えて選びとった言葉のスタイルともいえる。桑田佳祐も忌野清志郎もデビュー時から、すでに完成形だったのかもしれない。清志郎のLOVE ME TENDERを聴いていると、そうした言葉のスタイルとは別に、この人がとても優れた一人の歌い手だったことをあらためて知る。「反原発の歌」として記憶されていくには惜しい、清志郎のLOVE ME TENDER COVER である。
(敬称略)