コタツ評論

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いいじゃないの大泉洋! 

2012-10-21 00:43:00 | レンタルDVD映画
松田龍平が探偵で大泉洋がその運転手かと予想していたら、逆であったという嬉しい展開。

探偵はBERにいる
http://eiga.com/movie/55983/



誰でも思いつくだろうが、大泉洋には実写版の「ルパン3世」とか、映画化された「狼男探偵・犬神明」を演らせてみたい。あるいは、日本を舞台に翻案したフィリップ・マーローやルー・アーチャーでもいいのだが。ポール・ニューマンのように、腕っぷしは弱そうにみえてやっぱり弱い、けっして気弱ではないが心弱い、そんな弱さの可笑しみが大泉にもある。

探偵像としては、映画版「ロング・グッドバイ」のエリオット・グールドに近い。自虐的なコメディ風味と母性をくすぐるキュートな加減、これにペーソスの塩梅がくわわれば、セクシー ONE NIGHT STAND というわけで言うことなしだが、まだ大泉は若い。これから年齢を重ねれば身についてくるだろう。人生を捨てた苦味や生き抜こうとする凄みとともに。

ハードボイルド探偵映画の見所のひとつは、ハードボイルド探偵小説を読むのと同様に、一人称の探求と情動の世界に浸ることだ。そこでは台詞(セリフ)はなく、独白(モノローグ)する壁打ちと会話(ダイアローグ)のラリーが息づいているものだ。原作のものなのか、シナリオで加えられたのか不明だが、笑ってしまったいくつか。

これから雪中に生き埋めにされようかという探偵(大泉洋)。猿轡をかまされてモゴモゴ云っている。サディストのヤクザ(高島政伸!)が配下の一人に命じる。
「はずしてやれ」
猿轡をはずされるや否や叫ぶ探偵。
「誰かー、助けてえー!」

別口から拉致されて椅子に縛りつけられている探偵。手ひどく殴られ蹴られたあげく、「殺すぞ」と脅される。
「いまやっていることから、手を引けと云ってるんだ!」
「いまやっていること?」
「そうだ、いまお前がやっていることだ」
「はて、北方領土返還運動のことか?」

こんな減らず口が、大泉洋によく似合う。だから、いたじゃないの「寅さん」の後継がさ。寅さんもああ見えて、家庭の安寧秩序に背を向けるハードボイルドの人。減らず口で世間をしくじりながら、減らず口叩くのを止められない。それは含羞を覆い隠す殻だからだ。この映画、シリーズにすれば化けるかも。

「アマルフィ 女神の報酬」とか「アンダルシア 女神の報復」なんてつまらん映画で商売するより、ずっとヒットやロングセラーを狙える素材じゃないか。日本映画界に払底しているのは、監督でもなけりゃ俳優でもなく、そういう狙って当てる「商売気」を持て余しているプロデューサーなんだよな。街の匂いがするような、札幌ロケが効いている。

(敬称略)
コメント
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