コタツ評論

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ニュースになっていないというニュース

2013-02-03 02:31:00 | ノンジャンル
警察庁から、昨年の犯罪統計が発表されている。これによると、平成24年1月~11月までの刑法犯総数は、1,279,045件(平成20年の1,674,551に比べて-395,506件)、その内少年が犯した件数は、60,040件(平成20年の82,697に比べて-22,657件)となっている。

殺人や強盗など凶悪犯罪件数をみると、平成24年では6,416件(平成20年の7,858に比べて-1,442件)、その内少年が犯した件数は、809件(平成20年の858に比べて-49件)である(何%減なのかは、ご自身で計算して下さい)。

平成24年1~11月犯罪統計(警察庁)
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001044523&cycode=0

日本の犯罪は大幅に減少している。たまさか、この4年ほどのことではない。下の犯罪統計グラフ(犯罪白書)をみても、平成14年をピークとして、この10年間右肩下がりを続けている。しかし、最低件数更新は平成にとどまらない。


図をクリックすると、少し大きくなります

なんと昭和にさかのぼっても、戦後の最低ラインなのだ。昭和21年の刑法犯総数は、1,387,080件。同年の日本の人口が、7,575万人に対して、平成24年が1億2,595万 人(試算値)だから、当時から5,020万人も人口が増えているのに、犯罪件数は下回っているのだ。

日本の犯罪と治安
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%AE%E7%8A%AF%E7%BD%AA%E3%81%A8%E6%B2%BB%E5%AE%89

オレオレ詐欺の増加や関東連合による六本木クラブ殺人事件など、新聞を開き、TVをつければ、毎日のように殺伐とした事件の報道がいやおうなく目につく。「すぐ人を殺す物騒な世の中」「新手の詐欺に捜査が追いつかない」「少年法を逆手にとった未成年の犯罪」など、あたかも日本の犯罪は増え続けているかの印象をもつが、じつは間違っていたのである。

とはいえ、我々が警察庁の犯罪統計や法務省の犯罪白書をいちいち読むわけにはいかない。たいていの人にそんな暇はない。犯罪動向という国家の治安にかかわる重要な情報を知らしめるのは、マスコミ、ジャーナリズムの役目のはずだ。では、yahooのニュース検索を利用して、「警察庁 犯罪統計」で検索してみよう。

警察庁 犯罪統計(yahoo ニュース検索)
http://news.search.yahoo.co.jp/search?p=%E8%AD%A6%E5%AF%9F%E5%BA%81+%E7%8A%AF%E7%BD%AA%E7%B5%B1%E8%A8%88+&aq=-1&oq=&ei=UTF-8

googleでも同じ結果だが、たった3件しかヒットしない。ちなみに警察庁がこの犯罪統計資料を発表したのは、昨年の12月のことだ。それ以降、たった3件。それも記事らしいのは、下の「yahooニュース」だけ。これでは我々も知りようがないではないか。

日本は安心して暮らせる国か 犯罪件数は減少するも、凶悪化の懸念も
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20121020-00000001-sh_mon-bus_all

一読すればわかるように、ただひとつのニュース記事も、かなり変なのだ。「ここ数年で刑法犯の総数は大きく減少している」としながら、その詳細には触れず、すぐに別の「治安に関する特別世論調査」結果に流れる。

「日本は安全で安心して暮らせる国だと思うか」という質問に、「そう思う(そう思う14.7%、どちらかといえばそう思う45.0%」と答えた人が合計59.7%だとして、「国民の治安意識が改善された」とする。

「どちらかといえばそう思う」を「そう思う」に簡単に合計してもよいものかと思っていると、「ただし、手放しで喜ぶことはできないようだ」とひとり突っ込みがあって、警察庁の犯罪統計資料に戻るのだが、犯罪件数の減少についてはおきざり。

「振り込め詐欺件数は減少する一方で、被害総額は増加した」、「さらに、重要犯罪の件数は、平成16年以降減少していたが、平成24年上半期は前年同期比で増加している」から、「日本の犯罪の巧妙化や凶悪化は進んでいる」とする。

犯罪件数の減少と犯罪の巧妙化や凶悪化を並列してしまうのはひどく乱暴だし、巧妙化や凶悪化の根拠が2例だけでは少なすぎる。にもかかわらず、犯罪の巧妙化や凶悪化が印象に強く残るのは、情報が後出しだからだ。

犯罪件数の減少は入り口に過ぎず、殺人件数や外国人犯罪などの内訳や推移など定量分析などはなく、巧妙化や凶悪化という定性分析が本題のように持ち出される。数字データより傾向分析に読み手はどうしても惹かれるし、それが我が身の危険にかかわるものならなおさらのことだ。

そして、「被害に遭わないためにも、日頃の心構えと対策はしっかりしておきたい」と小学生の下校時の注意みたいな常套句で締められる。

バカにするな! とたいていの人は思うだろうが、これがほとんど唯一の記事なのである。それも昨年の1~9月のデータに基づいた古い記事だ。発表済みの1~11月のデータについては、ネットも含め、どのメデイアも報じていない。警察庁サイトにも、データしか置かれておらず、「巧妙化や凶悪化」など傾向分析の根拠もわからない。

日本の犯罪動向について、著しい減少がみられるのに、まったくといってよいほど、ニュースとしてとりあげられない。これが本日のニュースだ。

日本のマスコミは役所の発表記事を垂れ流すとよく批判されるが、発表されても報道しない場合もあるわけだ。警察庁やマスコミにとって、犯罪件数の減少、つまり日本の安全が、どうしてニュースとして報道される価値がないのか。

それもまた、我々が知ることのない、知らされないニュースである。
コメント
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