蒲田や東大阪の工員のスナップ写真ではない。堀江謙一青年だ。
やがて日本中の街角で、「てっぺっぺっ!」と吐き捨てるように云う日が、必ずくるだろう。
安倍首相、来月上旬にも正式表明=TPP参加、自民役員会が一任 時事通信 2月26日(火)0時31分配信
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130226-00000003-jij-pol
TPPは "Trans-Pacific Strategic Economic Partnership" 、あるいは、"Trans-Pacific Partnership" の頭文字である。新聞など活字メディアでは、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)と訳されている。だが、環太平洋の訳語なら、ふつう "Pan Pacific" が使われる。環太平洋産業連関分析学会(Pan Pacific Association of Input-Output Studies)があるように。
環太平洋とは、字義通り、太平洋をとりまく国や地域を対象とする。アメリカをはじめ、オーストラリア、中国、ベトナム、フィリッピン、シンガポール、そして日本などだ。
環太平洋には他に、"Rim of the Pacific" という用例もある。わたしたちは、 "Rimpac" (リムパック)と略称する "Rim of the Pacific Exercise" (環太平洋合同演習)を知っている。
アメリカ海軍がハワイ沖で実施する、カナダやオーストラリア、ニュージーランド海軍などが参加する合同軍事演習のことで、日本の海上自衛隊も1980年から加わり、憲法9条違反ではないかと論議を呼んだ。
では、 "Trans-Pacific" も同様に環太平洋を指すのだろうか。ネット辞書を引いてみると、<太平洋の向こう側><太平洋横断>という意味とある。"Pan"(鍋)や"Rim"(輪)に対して、"Trans"(横切る、貫く)だから、「環」とは明らかに違う。
太平洋の向こう側や太平洋横断といえば、日本と日本人にとって、どの国を指さすかは明らかである。まず、「太平洋戦争」を想起するのはもちろんのことだが、堀江謙一の「太平洋ひとりぼっち」を連想する人もいるだろう。
堀江謙一が小型ヨット「マーメイド号」に乗って、西宮-サンフランシスコ間の太平洋単独横断航海に成功した冒険である。堀江謙一にとって、世界とは、太平洋のこちら側の日本と太平洋の向こう側のアメリカだけだった。
だが、それは1962年当時、大多数の日本人が共有した世界認識だった。問題はそれが、50年を経た現在も続いていることだろう。
ちなみに、 "Pan" や "Rim" や "Trans" などが掛かる、Pacific(太平洋)に関する最近のギャグ(Gag)がある。小島よしおの「そんなのカンケーねえ」連呼を終わらせる「おっぱっぴー」のことだ。「なんだ、そりゃ?」と尋ねられたとき、小島よしおは(そんなことも知らないのか!)とばかりに憮然と、「オーシャン・パシフィック・ピース(太平洋に平和を)ですよ」と云うのだ。
"Trans-Pacific" を検索してみると、Transpacific Groupという会社がヒットした。その会社説明には、<インポートドレス&ブライダルグッズの輸入代理店『トランスパシフィック・グループ』は アメリカ・フランス・イタリアより最新でザインのブライダル関連商品を輸入販売しており ます総合商社です>とある。
"Trans-Pacific" は環太平洋を示さない。太平洋を横断して貫く日米間、いや米日間の関係性を表す言葉だ。アメリカが日本へヒト・モノ・カネの輸出を拡大する、日本にとっては輸入拡大を迫られる、一方通行で非対称を示す記号だ。それ以上、それ以外の目的は考えられない。
というわけで、 "Trans-Pacific Partnership" を訳するなら、環太平洋戦略的経済連携協定ではなく、太平洋横断米国企業戦略的経済協定が適切である。英語発音は、もちろん、「てっぺっぺっ!」。アメリカ人が、「ティピィピィ」と発音したら、すかさず「ちっちっちっ」と人差し指を振ってネィティブな発音をするよう訂正を求めよう。
(敬称略)