先ごろ、朝日新聞は吉田証言と吉田調書について誤報と認め、後者について謝罪した。当ブログでも、朝日の吉田調書スクープを事実と前提して、「私たちのセウォル号 フクイチ」を書いた。
公開された吉田調書の当該部分を読むと、「所員の9割が待機命令に背いて逃げ出した」と直ちに解釈することはできない。これが独占インタビューなら、受け止めかたの違いという強弁もあり得るが、調書というテキストだけを根拠に、なぜ、「9割が逃げた」という解釈を無理押ししたのか、正直よくわからない。
くり返すが、個人の勇み足ならあり得るが、チームで取材した結果なら、考えられない。当然、「フクイチ」の取材経験を買われてチームに参加したはずだから、「所員の9割が逃げた」なんてことがあれば、それまでに多少は見聞きしていたはず。
それとも、ブログに書いたように、マスコミが真っ先に逃げ出したために、やはりわからなかったのか? とすれば、確信もないまま、吉田証言に乗ったのか? いや、調書と証言を間違えたのではない。
吉田証言も吉田調書も、勇気ある当事者の直接な見聞に基づく告発であることへ依存したせいで、間違いを犯したと思える。はたして勇気が問われているのか? 当事者であるのか? 直接の見聞なのか? 「告発」以前に、当然、検証されるべき事実がなおざりにされていたのではないか?
吉田調書の当該部分を読むかぎり、少なくとも、「所員の9割が待機命令に背いて逃げ出した」というのは、「そう聞いた」という吉田所長の伝聞証言である。であるなら、当然、伝聞の裏づけを取らなければならない。それなら、取材のイロハである。
吉田証言と吉田調書の誤報問題を考えているとき、なぜか、アントニオ猪木のコメントが思い浮かんだ。「いちばん弱い奴が行った」というものだ。
1998年10月11日、プロレスラー高田延彦が無敗のヒクソン・グレーシーにPRIDE.4のリングで挑み、1R、腕ひしぎ十字固めであっけなく負けた後、猪木はそう吐き捨てるように言ったものだ。プロレスラーのなかでは、高田延彦はいちばん弱いと断じたのだ。
じつは、マスコミのなかで、朝日はいちばん弱い環なのではないか?
「吉田調書」報道、なぜ朝日新聞は誤ったのか-吉田調書と朝日新聞記事の対比
http://www.iza.ne.jp/kiji/events/photos/140912/evt14091208000002-p4.html
(敬称略)