コタツ評論

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全国民必読の書

2017-07-27 23:30:00 | 新刊本
「障害は個性だ」という言葉があります。「障害に甘えるな」という言葉もあります。物は言いようだなと思っていました。

障害者を美化することで励まし、あるいは一歩踏み込んで叱咤する、障害者に「寄り添う」、障害に「向き合う」言葉だとは思えませんでした。

なぜ、そう思ってしまうのか、そこから先を考えることはしませんでした。この文章を読んで、その思いはあながち間違っていなかったけれど、それ以前に私は何もわかっていなかったと胸に落ちました。

されど愛しきお妻様
http://gendai.ismedia.jp/list/series/daisukesuzuki

夫婦と家事についての物語です。もちろん、ただの夫婦ではありません。発達障害の妻と脳梗塞を患った夫が、ただ普通の、平凡な家庭を営もうとして、「寄り添えず」「向き合えなかった」時もありながら、18年を経て支え合うようになった非凡な記録です。

日々の炊事や掃除などの家事を中心に、妻の言動から気づき、障害について考え抜いて、その正体に迫ろうとする夫のルポでもあります。

障害とは、不自由とは、何かをできないとは、あるいは頑張るとは。それらを考え抜いていく知性とはどういうものか。私たちに問いかけてきます。

言うまでもなく、私たちもやがて老い、あるいは病を得て、不自由や障害と無縁ではいられません。そうした不自由や障害を克服しない克服のあり様を示唆しています。

と小難し気な言い回しになりましたが、社員研修のテキストにしたいくらい汎用性を含む内容を平明達意の文章でつづっています。くすっとする可笑しみの場面の裏側に、それまでの苦しさや哀しさが層を成していることに、夫と一緒に気づいていきます。

そして、愛しいと思うでしょう。パジャマ姿のぼさぼさ頭で微笑む「お妻様」の姿を胸に描きながら。

言葉の綾掲示板でSさんに紹介されました。私にとっても、近年、もっとも心を揺さぶられたテキストでした。ありがとうございます。

長い連載です。読む時間がなかったら、とりあえず、Sさんが勧めたように、「最後の3回分」(じつは4回分ですが)を読むだけでもじゅうぶんです。

注:障碍という表記はあえて使いませんでした。

(止め)




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