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今夜はストレンジャー・イン・パラダイス

2014-01-09 22:27:00 | 音楽
1954年といえば、28歳の録音です。若い頃から甘いだけでなく渋い声だったんですね。

Tony Bennett 1954


トニー・ベネットがコンサートやディナーショーで歌うときは、ジャズアレンジがほとんどです。トニー・ベネットのバックバンドならもっとスマート&シャープですが、ホテルのラウンジバーでマティニでも舐めながら聴くようなへろへろなのもわるくありません。

Tony Guerrero Quintet


「ストレンジャー・イン・パラダイス」は、もとはミュージカル「キスメット(kismet)」(1952)の挿入歌でした。ミュージカルはアメリカのオペラですから、朗々と歌い上げられました。CM音楽に使われたサラ・ブライトマンの歌唱でよく聴きますね。次は、ギリシャのテノール歌手マリオ・ファンゴリスです。

mario frangoulis


「ストレンジャー・イン・パラダイス」の歌詞は以下。

Take my hand
I'm a stranger in paradise
All lost in a wonderland
A stranger in paradise
If I stand starry-eyed
That's a danger in paradise
For mortals who stand beside
An angel like you


最後の行は、「天使ようなあなたの傍らに僕が立っていることは死を免れ得ぬほど(mortals)危険なのです」くらいでしょうか。

I saw your face
And I ascended  
Out of the commonplace
Into the rare!
Somewhere in space  
I hang suspended  
Until I know  
There's a chance that you care

Won't you answer the fervent prayer
Of a stranger in paradise?  
Don't send me in dark despair  
From all that I hunger for
But open your angel's arms  
To the stranger in paradise 
And tell him that he need be
A stranger no more


未知の人ですが、美しい容姿と声ですね。

Kim Brown


人生の悪夢のひとつに、メタボ腹をワッペン付けた紺ブレに包み、マイクを握る腕に金のロレックスを光らせ、歌うカラオケは「マイ・ウェイ」というおっさんに出くわすことがありますが、どうか県立高校合唱部の頃に戻って、初々しく「ストレンジャー・イン・パラダイス」でも歌ってほしいものです。

さて、「ストレンジャー・イン・パラダイス」には、さらに原曲があります。ボロディン作曲のオペラ『イーゴリ公』の「韃靼人の踊り(Polovtsian Dances)」場面で、この旋律が流れます。

ボリショイ劇場


韃靼人とは中国からの呼称、西欧ではタタール人と呼びます。タタール人とは、モンゴル人のことです。13世紀、ロシア帝国以前、諸公国に分かれていたロシアは、モンゴルに侵攻されました。戦いに敗れて捕虜となったイーゴリ公が、モンゴルの陣営で異族の宴を見せつけられる屈辱の場面です。イーゴリ公こそ、「楽園のよそ者」なわけです。

でたらめの珍妙な踊りに見えますが、強大な支配者モンゴルの威勢に圧倒される場面です。モンゴルの間接支配は16世紀まで250年間も続き、ロシア側はこの臣従の時代を「タタールの軛(くびき)」と呼んで記憶しました。1951年のボリショイバレエの振り付けと踊りは、禍々しいほど生命力溢れる異形の躍動美を描いて、現代版とは比較にならぬ凄さです。

1951年のボリショイバレエ


したがってロシアでは、「ストレンジャー・イン・パラダイス」のような甘美な恋歌ではあり得ません。ナターシャ・モロゾヴァが本来の歌詞でエキゾチックに歌っています。「風の翼に乗って遙か遠い故郷を思う」という内容のようです。

Natasha Morozova


(敬称略)

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