2021/9/18
・家族を失った男のもとに、失った家族を演じるために、役者や行き場のない人たちが集められる話。
・妻、妹、長男、長女、次女。開幕早々に彼らが本物の家族ではないことが明かされる。
・フライヤーやパンフで事前に告知している内容を作中でどうやって語り直すのかは難しいところ。
・登場人物たちは、そんな不思議な状況をそれほど疑問を持たずに受け入れている。
・一人で掘った穴がやたら深い、なぜかその穴に落ちる人たち、特に説明もなく冷蔵庫に入っているパンダ、その他諸々が自分の知っている現実とは少しずつズレている。
・それらの乖離具合に統一感があるので全体で見ると味になっている。
・ちょっと荻上直子作品感がある。
・疑似家族ものは色々あるけれど、偽物だったものが時間をかけて本物に近づいていく、もしくは本物以上になっていく過程は演劇を作っていくプロセスそのもの。
・話だけ取り出すと疑似家族に希望を持ちすぎているように見えなくもないけど、今回の座組みだと、そのへんの説明をすっとばしても成立している感じ。
・特に終盤近く、棚田さんと足達くんの二人が語らうところ。理想的な親子にも同じ劇団の年長者と若手にも見える。見る側が作品外でもこういう関係性だったらいいなと望んでしまう。そう思わせたら勝ち。
・おそらく初めて劇団怪獣無法地帯の作品を見る人でも、舞台上からそういう関係性の深さみたいなものは感じ取れるはず。
・本作のテーマは、喪失感というか喪失の予感みたいなものだと思うけど、そういう関係性の下地があってこそ活きる。
・作中でも新型コロナの話が出てきたけど、現実にコロナ禍が長引く中の公演ということも、感想に影響してくる。
・最初は男のいなくなる理由がよくわからなかったけど、過去に大切なものを失った男が、新たに大切なものを得た結果、喪失の予感に耐えられなくなったからかなと思って勝手に納得した。
・作中の男に限らず、家族を失う予感って怖いもの。
・あと、教祖が連行されていくときのオロオロ戸惑っている表情が楽しかった。
(9/16 19:30の回)