2025/1/13
・小説家の佐治が、ランダムに選ばれる一文字とその文字を含むものが徐々に消去されていく小説を書いて、作者自身がその登場人物となり、仕事や日常生活を続けようとする話。
・例えば「あ」という文字が消えれば「朝」がなくなるので、「昼、夕方、夜に続く一定の時間を表現することばでさ、四季を通じて爽やかさ、新鮮さを伴うたいへん好ましい時間のこと」と言い換える。
・文字に余裕のある序盤のうちは、念入りにそのルール作りに充てられている。読者の先手先手を打っている。
・それでも無理はあるはずなんだけど、小説の場合、受け手は書かれていないことに意識が向きにくいという特性があるので、なんとなく押し通されている。
・文字とその文字を含むものが消えていく世界に自分がいたらどう行動するかという見せ方で、現実とフィクションの境界線を曖昧にしている。
・「現実が虚構を模倣し始めた」という視点。
・超虚構というスタイルにつながるらしい。詳しいことはよくわからなかったけど、虚構が現実に影響を与えることはあるし、アバターを使った動画投稿サイトでも似たようなことはできるのかもしれない。
・三人の娘に続いて妻も消滅したときにはちょっと寂しそうにしていたが、そんなに長続きはしていない。
・どんどん文字が減っていくにつれ、世界から物も減っていくが、言葉のプロである佐治は言い換え表現を巧みに利用して語り続ける。冗長な表現からも余裕を感じる。中盤くらいまで不自然さをほとんど感じない。
・作者が作中人物として本小説を書いているというスタイルなので、こちらが読んでいてダレてきたなと思うタイミングで作者も同じような心配をしている。
・佐治は、文字を失い、うまく話せなくなくなった庶民を見て馬鹿にしている。性格が悪い。
・本筋ではないけど、執筆の快楽ゆえに絶頂感が迫ってくるとそれを先延ばしにして愉悦に浸るという、職業作家でもないのに共感できる思考回路。
・最後の一文字が消える時まで、佐治は語り続ける。
・他のことには、そこまで強い関心を持っているように見えない彼が、今際の際まで表現に執着している。
・シメられる直前まで暴れまくる魚みたいだった。