遠藤雷太のうろうろブログ
何かを観たら、とにかく400字または1000字以内で感想を書きつづるブログ。




第24回 文化庁メディア芸術祭 スペシャルサイト マイリトルゴート

2021/9/29

「PUI PUI モルカー」の監督、美里朝希さんが東京芸大大学院での修了制作として作ったストップモーションアニメ。

おとぎ話「オオカミと七匹の子ヤギ」をもとにした、わずか10分ちょっとの映像作品なのに、解釈の幅も広く、なにより怖い。

フェルト素材のかわいらしさと相反する、生臭さを感じるオープニング。

あんなにふわふわした素材であんなに嫌な感じになるのがすごい。

自分の顔に悲鳴を上げて泣いてしまう女の子山羊がいたたまれない。

展開が予想外だったので、初見で内容がうまく内容が呑み込めず、何度か繰り返し見る。

尺の短い話はこういうところ助かる。

ハッピーエンドっぽいけど、半々よりちょっとハッピーくらいの塩梅。

おとぎ話的な世界と対照的に、ヘリコプターの音でまとめるセンスもすごい。

本作を踏まえてモルカーを見返してみたい。



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2021/9/28

・体育の授業で生徒不在になった教室内で、教師たちが勝手に生徒の持ち物検査をする話。

・教室らしく椅子と机が整然と並ぶ舞台。

・床は黒のタイル地。全体的に色味が少なく、落ち着いた印象。具象的なものを規則正しく並べることで、逆に抽象度が増している不思議。単純にかっこいい。

・秘密裏に荷物検査をやっているわりに、作業自体はものすごくダラダラやっていて、会話を聞いているうちにだんだんイライラしてくる。

・セリフの中に複数の情報があると、次の人は高確率で重要度の低いほうを拾う。

・結果、どんどん話が脇道にそれていく。

・木に例えると、枝が幹より太く、枝分かれするたびに元より太くなっていく感じの会話。いびつ。

・あんな感じでソーセージ持っている先生がいたら、何はともあれ、休んでもらった方がいいと思う。

・なので、教室で頻繁にタバコを吸おうとしているにもかかわらず、美術と思われる先生が一番共感しやすかったりする。

・重要なことを後回しにする感覚は、作品全体のテーマとも相似形になっている。

・どう考えても、大人が自分たちの不安を解消するために最初にやることは荷物検査ではないもの。

・「池の水を全部抜いてみた」みたいな感覚で「生徒の鞄ぜんぶ開けてみた」からの「開けてみたらまさかこんなものが!」と言われても。

・案の定、何かが出てきても何ができるわけでもなく、オロオロしているだけ。ほんと何がしたかったんだ。

・神戸連続児童殺傷事件が起きた1997年時の不安感がベースにあるのは明らかだけど、今考えると「14歳ってそんなに特別なものだっけ?」という感じもする。サカキバラが極めて特殊だっただけのでは。

・「大人から見ると不気味」というのは正直な印象なんだろうけど、あんまり中学生を得体の知れないものとして扱うのはよくないのかなと思ったりする。

・演者さんの会話はスムーズで、余計な笑いもなく、不合理なかけあいの薄気味悪さが強調されていた。

・結果、描かれている事象について集中して考えられる作品だった。たしかにストイックだった。

(7/24 19時 A組)



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2021/9/22

・高校時代の仲良し男子グループが、同級生だった女子に社会人になってからも延々振り回される話。

・「誰があの子を落とすか競争しようぜ」的な男子のノリが結構苦手なので、おそるおそる見守る。

・舞台はメンバーの一人が店長をしている居酒屋。

・転換が凝ってる。タイミングの取り方、時間の飛ばし方、照明や音響のあおり方、都度いろいろ工夫している。自分の見た同劇団の過去作ではあまり見られなかった感じ。

・題材自体は比較的地味めなので、こういうところでバランスを取っているのかも。

・地味と書いたものの、そんな面々をひとりひとり掘り下げていく過程がおもしろいところでもある。

・当たり前と言えば当たり前だけど、それぞれに考えや悩みがある。話が進むうち、ステレオタイプに思えたメンバーそれぞれに色がついて見えてくる。

・そのあたりから自分の苦手意識みたいなものも解消されて素直に楽しめた。

・どこにでもいそうな男子グループの面々を解像度高めに描く作家が女性というのはちょっと不思議。

・男子の解像度高めの部分は、それぞれ演じた役者さんたちの力も大きい。過去作から一貫して、男性陣の掛け合いはリズムがよく変化もあって楽しい。

・それでも、本作に関しては、その男子たちの中心であり、同時に添え物でもある「彩海ちゃん」が一番面白いところだったりする。

・男性陣を振り回す悪女風に見せつつ、誰よりも生きにくそうにしている。

・特別善人というわけでもないし、自分と重なる部分は何もないけど、それでもちょっと同情できてしまう。

・女の子を物理的に落としてどうする。海岸怖い。後で検索したら事故動画いっぱい出てきた。

・まったく世代じゃないだろうに、スラムダンクの影響力はすごい。

・最後のほうは高校時代の人間関係に戻っていく。

・ちょっと前進したようにも見えるし、後退しているようにも見える。

・砂浜に寄せる波のようだと解釈すれば一応タイトルにもつながるのかな。



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2021/9/18

・家族を失った男のもとに、失った家族を演じるために、役者や行き場のない人たちが集められる話。

・妻、妹、長男、長女、次女。開幕早々に彼らが本物の家族ではないことが明かされる。

・フライヤーやパンフで事前に告知している内容を作中でどうやって語り直すのかは難しいところ。

・登場人物たちは、そんな不思議な状況をそれほど疑問を持たずに受け入れている。

・一人で掘った穴がやたら深い、なぜかその穴に落ちる人たち、特に説明もなく冷蔵庫に入っているパンダ、その他諸々が自分の知っている現実とは少しずつズレている。

・それらの乖離具合に統一感があるので全体で見ると味になっている。

・ちょっと荻上直子作品感がある。

・疑似家族ものは色々あるけれど、偽物だったものが時間をかけて本物に近づいていく、もしくは本物以上になっていく過程は演劇を作っていくプロセスそのもの。

・話だけ取り出すと疑似家族に希望を持ちすぎているように見えなくもないけど、今回の座組みだと、そのへんの説明をすっとばしても成立している感じ。

・特に終盤近く、棚田さんと足達くんの二人が語らうところ。理想的な親子にも同じ劇団の年長者と若手にも見える。見る側が作品外でもこういう関係性だったらいいなと望んでしまう。そう思わせたら勝ち。

・おそらく初めて劇団怪獣無法地帯の作品を見る人でも、舞台上からそういう関係性の深さみたいなものは感じ取れるはず。

・本作のテーマは、喪失感というか喪失の予感みたいなものだと思うけど、そういう関係性の下地があってこそ活きる。

・作中でも新型コロナの話が出てきたけど、現実にコロナ禍が長引く中の公演ということも、感想に影響してくる。

・最初は男のいなくなる理由がよくわからなかったけど、過去に大切なものを失った男が、新たに大切なものを得た結果、喪失の予感に耐えられなくなったからかなと思って勝手に納得した。

・作中の男に限らず、家族を失う予感って怖いもの。

・あと、教祖が連行されていくときのオロオロ戸惑っている表情が楽しかった。

(9/16 19:30の回)



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2022/9/12

世界最大のプロレス団体WWEでスターとなったTAJIRIが自身のキャリアとプロレス論を語った本。

プロレスにおける「サイコロジー」という言葉は、わりとよく耳にするんだけど、実のところ、よくわかっていなかった。

筆者がものすごく乱暴にまとめてくれていて「人間、こうなれば、ああする」ということを真面目に研究するということらしい。

たぶん、演劇にもサイコロジーある。観客の目線は動いている者にひきつけられる、とか。

ビンスが両手で四角いフレームを作り、自分の顔の部分を囲んで「マネー・イズ・ヒア!」といった話も面白い。

表情で見せるといいうことは、ビンスはプロレスを映像作品として考えているということなのかな。

日本では独特すぎる立ち位置の筆者のキャリアも素直に面白かった。

最後に光沢のある黒のみのページを配置する装丁が意味深。



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2021/9/10

・盲目で居合の達人、座頭市が病におかされた浪人の平手造酒に対して事実上の介錯をする話。

・初見だった。のちのち長く続く一大シリーズの最初の作品。勝新太郎が若い。肌がツヤツヤしている。

・座頭市が意外と早く居合の達人として認識されている。

・盲目の按摩だからってそんなに侮られているように見えない。早々に侠客たちの中の最重要戦力になっている。人物紹介の効率がいいんだと思う。

・ヤクザの対立が主軸だけど、座頭市も平手も双方の組に世話になりつつ、少し距離を置いているので、二人が仲良くなる余白が生まれている。

・初対面の時のゆったりと時間が流れる感じや、ベタな掛け合いでも達人が達人を見抜くシーンは好き。

・座頭市の付き人を任される蓼吉。親分からの信頼が厚いという人間だから善人枠なのかと思ったら、ほんとロクでもなかった。兄貴も兄貴でそろってしょうもない。

・最後も、クズがクズとして処理されていて、かえってすがすがしい。

・意外と戦闘シーンが少ない。最後の大立ち回りまで溜めている。まさに居合のような一点にかける構成。

・それまでは、それぞれの人間関係をじっくり見せる。

・蓼吉の妹おたねのエピソードは構成的に必要なのかどうかよくわからない。蓼吉と付き合ってた彼女はなんだったんだろう。始めからこういう構成だったんだろうか。

・月夜のシーンが色っぽい。おそらく、4Kデジタルリマスター版はここで効いている。夜にしては明るいんだけど、舞台美術的な美しさだった。

・野暮な話、あの刀だと、刺せば強いだろうけど、斬って致命傷を与えられるもんなんだろうか。

・斬られた下っ端がしばらく苦しむシーンが地味に好き。

・そりゃ物語的には名もない斬られ役だったとしても、斬られれば痛いし、死んでなければ助けなきゃいけない。

・小さなところだけど、そういう命の重みみたいなものを感じられたのがよかった。自分のイメージの中にあった時代劇の大立ち回りとはちょっと違う。

・剣の達人が名もない登場人物をバッタバッタを斬りつけていくのも楽しいけど、座頭市のキャラクターを考えれば、そういう泥臭い描写が適切な塩梅なんだと思う。

(札幌シネマフロンティア 9/10 10時)



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2021/8/28

「へそまがり」をキーワードに、芸術的価値のわかりにくい作品を集めた展覧会。

禅画のほとんどが墨絵で、たしかにはっきり巧いと言いにくいけど、輪郭線もわりとはっきりしているし、デフォルメがきいていると思えば、今のマンガを読む感じと大差がない。

逆に江戸時代の作品なのにその感覚の近さで見られるのが不思議。

白隠慧鶴の「楊柳観音図」は浦沢直樹先生っぽい感じ。

ただ、「竹虎図」の虎がどう見ても猫でかわいい。

音声解説で、「当日の絵描きは虎を見たことがない」と指摘されていて、なるほどと思う。考えれば当たり前なんだけど。

他にはフライヤーにも採用されている徳川家光の「兎図」がかわいい。

徳川将軍の書いた絵がいまだに残っているという事実のほうについては、感覚的に理解できない。すごい。

兎図の絵葉書ほしかったけど、イエロー地の別物感が強くて見合わせてしまった。

※気に入った絵葉書。布袋さん何やってんだ。

 徳川家光《木兎図》(部分) 曽我二直庵《猿図》(部分)春叢紹珠《皿回し布袋図》(部分)



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