Zooey's Diary

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暗く冷たい海「君を想って海をゆく」

2011年09月15日 | 映画
愛する彼女の所に行くためにドーバー海峡を泳いで渡ろうとするクルド難民の少年と
フランス人の水泳コーチとの交流を描き、難民についての問題提起した人間ドラマ。
2009年フランス映画。



戦禍のイラクから三カ月かけて歩いてきたクルド人の少年ビラルは
ドーバー海峡を臨むフランス最北端カレーに辿りつく。
どんより重く曇った冬空、風が吹くすさぶ砂浜辺。
難民としてロンドンに移住した愛する彼女(といっても手を握ったこともない、友人の妹)に
どうしても逢いたい。
お金もなく不法入国者である彼は、ドーバー海峡を泳いで渡る決心をする。

フランス人の水泳コーチ、シモンは妻に逃げられ、人生を殆どあきらめている。
難民救済運動に熱心な妻の気を引きたいがために、
市民プールでビラルに水泳を教え始める。
段々に情が移り、冷たい路上に放っておけなくて、
自分のアパートに泊めたりもする。
それを隣人に見咎められ、当局に通報されるのです。



港町カレーにクルド難民が500人もいるということにまず驚きました。
送還される訳ではない、かといって職に就ける訳でもない。
スーパーに入ることもできず、ただ無為な路上生活を送っている。
そしてその難民を助けようとする市民への、当局の厳しさに驚きました。
ボランティア団体が炊き出しをするのは許されているが
個人で車に乗せたり家に泊めたりすると、なんと逮捕されるのです。
この映画の公開後、フランスで難民問題についての大論争が起きたというのも分かります。

ドーバー海峡、最短距離は確か34kmくらいしかないのに
どうしてそんなに泳ぐのが難しいのだろうと思っていましたが
実際にその地に行ってみて納得しました。
速い潮流、冷たい水温、荒く激しい波…
伊豆の海とは訳が違うのですよねえ。
この作品の中でもシモンは、水温10℃以下で10時間以上の遠泳がいかに無謀かと
最初はビラルをあきらめさせようとするのです。
ビラルの熱意に負けて、結局教えることになるのですが。

あきれてしまうほどの少年の純朴な想い。
殆ど自暴自棄な中年男の妻への想い。
暗い天候、冷たい海、暗い世相。
そしてあんな結末が用意されているとは…

悲しい映画です。
ビラルの一途な想いで、遥かな荒海を乗り越えられる訳ではない。
かといって手が届く位置にいる妻に、シモンの想いが届く訳でもない。
「君を想って海をゆく」の原題は「Welcome」。
なんという皮肉であることか。
やられました。

「君を想って海をゆく」 http://www.welcome-movie.jp/
コメント (2)
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