【低成長時代の政治意識】
萱野稔人
働けど働けど/我が暮らし楽にならざり/ぢっと手を見る
石川啄木
Work after work, Life never be well, I stare at my hands.
■
昨日のブログの続き。萱野稔人の『低成長時代の政
治意識』から。「構造造改革にもとづいた経済成長
戦略も、ともに破綻してしまったのです。90年代に
低成長時代に入ってから現在までの20年弱という期
間は、それを証明するための時間でした。この時間
を長いとみるか短いとみるかは意見の分かれるとこ
ろでしょう。ともあれ、これで自民党はまったく手
が出せなくなってしまったわけです。小泉政権以降、
安倍、福田、麻生と首相が変わりましたが、誰も新
しい成長戦略を描くことができず、それまでの二つ
の成長戦略のあいだを行ったり来たりするだけでし
た。それが安倍政権以降の自民党政権の混迷につな
がったのです」と。
■
鳩山新政権の政策がどこまで経済成長をもたらすこ
とができるのかについて、萱野稔人はわからないと
という。鳩山新政権がうちだす厳しい環境規制が技
術革新を促進し、新しい資本形成や国際競争力を日
本にもたらすかどうか、あるいは子育て支援や高速
道路無料化が内需を拡大し、経済成長をもたらすか
どうか、まったく未知数だとした上で、新政権が
経済成長ができなければ、支持率は低下し、財政の
設計もままならぬ。根本的に財政を再編することに
民主党政権の歴史的な意義が集約されるのではなか
と結ぶ。
■
【市場競争型デモクラシーへ】
新自由主義が終わったのか?<高度資本主義社会>が
<社会主義社会>に漸近する限り、改良・修正は楽観
的だ。中北浩爾はその手だてに、今日姿をあらわし
つつある民主主義は、複数存在する民主主義の類型
のなかの一つ、しかも選挙における政党間の競争を
重視するタイプの民主主義でしかない。その基本的
な発想は、市場での競争を信奉する経済的な市場原
理主義と多くの点で共通性を持っているとして「も
う一つの市場原理主義」という考え方を投企する。
中北浩爾
■
ミクロな政官財複合体を基礎とするクライエンテリ
ズム(政治的恩顧主義)的な利益誘導政治がいよい
よ終焉を迎える。長期政権が終わって政権交代が行
われたこと、有権者が選挙を通じて政権を選択でき
たことなどは、民主主義のヴァージョン・アップと
して肯定的に捉えられているし、その意義は決して
否定できない。市場原理主義は、経済の領域ではす
っかり凋落してしまったが、政治の領域では遂に勢
いを増しており、しかも民主党の手によって一層強
化されようとしていると指摘する。
※伝統的な政治的クライエンテリズムとは、社会・経済的
優位に立つパトロンが、自分の持つ資源を利用して土地
やお金や農具を貸したり、職の斡旋をしたりし、見返り
に投票で自分の推す候補に投票してもらうという、有力
者と農民との非対称的で互酬的で垂直的で直接的な社会
関係のことである。
■
政党デモクラシーの行方→利益誘導型民主主義を打
破する過程で登場→市場競争型民主主義(大衆動員
型民主主義と参加型民主主義の試みが失敗に終わっ
たという意味で)。そして、市場競争型民主主義は、
競争を一元的な価値とする市場原理主義的な発想に
基づく点で、規制緩和や民営化などの新自由主義的
改革と共通性を有し、実際にもそれとある程度連携
するかたちで、ミクロな政官財複合体の上に立つ自
民党一党支配を解体してきたと説明する。
■
しかし、市場競争型民主主義が完全に定着したのか
というと、それには大きな留保が付く。まず、衆議
院の選挙制度は純粋な小選挙区制ではなく、比例代
表制との並立制である。また、強力な第二院として
参議院が存在し、その選挙制度は比例性が高い。そ
して、それらを主たる足場として、社民党や共産党
をはじめ、固定的な支持者を持つ少数政党が生き残
っている。自民党と財界、民主党と連合の関係にみ
られるように、二大政党も支持団体から全面的に切
り離されたわけではない。だからこそ、比例定数の
削減、企業・団体献金の全面禁止など、市場競争型
民主主義への純化を目指す動きが続いている。
■
だが、市場競争型民主主義は、本質的に不安定であ
る。もし比例定数の削減などによって、二大政党間
の競争が一層強められるとすれば、その不安定性は
破壊的なまでに高まるおそれがある。すなわち、小
選挙区での安定議席の比率の少なさに加えて、政党
交付金が議度数と得票率に応じて配分されるため、
総選挙で敗れた方の政党は人的にも資金的にも壊滅
的な打撃を被り、ひいては二大政党制の存続そのも
のが困難になってしまう。市場競争型民主主義は、
その内在的な矛盾ゆえに、一種のセーフティ・ネッ
トとして、比例代表制や政治参加を必要としている
といえるかもしれないと結ぶ。
■
【新政権の経済政策を考える】
本当の効率化は、余った労働力がすべて活用され、
それが生み出す物やサービスが使われて、はじめて
実現され、使い道さえ作れば、あとは何もしなくて
も企業の生産は増え、失業も減って格差は縮まり、
経済全体の効率も改善して国民生活が豊かになる。
好況期には労働資源は民間の自律的な活動によって
すべて使われたが、不況なら民間が十分には使って
くれない。そのため政府が主導して使い道を考える
しかなくその手段が財政政策なのであるとして、新
政権の経済政策を提案してみせる。
小野善康
財政政策の基本原理を整理すれば、次の三つになる
と小野は指摘する。
(1)政府がいくら財政資金を配っても、背景では
かならず同額の取り立てがあるから、お金の総
量は決して増えない。したがって、国民の使え
るお金を増やして景気を刺激するということは、
そもそも不可能である。
(2)消費性向の低い家計から高い家計への再分配
は、国民全体の総需要を増やして景気によい影
響を与える。
(3)お金を配るとき、何か役に立つ物や設備を作
らせるか、サービスを提供させれば、その便益
分がまるまる国民経済への貢献になる。したが
って、何もさせずに配るより、配るときに何か
をしてもらった方がよい。そのさい、これまで
人々が自分で買っていた物やサービスを提供す
るような事業なら、新たな使い道にはならず、
お金を直接配るのと変わりはない。これまで使
われていなかったが、あれば役立つような物や
サービスを提供してはじめて効果がある。
(1)供給側と需要側の景気対策
日本は、成熟社会なので供給側の景気対策は効果が
ないとし、需要側の政策環境政策は関連製品やサー
ビスの購買を刺激し、新たな市場創出の萌芽が見つ
けにくい現状において、非常に有望な産業であり、
大きな新規需要を創出して景気を支えることが期待
される。
(2)公共事業と家計への補助金
需要側の政策として、家計の負担を滅らし、手取り
を増やして内需主導型経済成長を目指す民主党の政
策-具体的には、子供手当、幼児教育無償化、高校
無料化、最低賃金引き上げなどであるが、上記の財
政の第一則に該当し景気対策にはならないと結論付
けるるが、薄く広くても勤労国民の性格の質的(実
質的)向上に繋がり安定しこれが推進力として効く
とみるわたし(たち)の考え方とは異なる。
(3)広く浅い分配政策の非効率性
再分配には一切景気効果がないかと言えば、そうと
は険らないとし、財政の第二則の、消費性向の低い
世帯から高い世帯に再分配すれば、国全体の消費支
出が増えて、景気はよくなる。また、所得や資産の
多い家計の方が、少ない家計より消費性向は低い。
したがって、景気刺激から言えば、家計一般に広く
お金を配るより、豊かな家計から貧困家計への所得
再分配に限った方が、小さな財政規模で大きな景気
刺激効果を生み、消費性向の高いところに重点的に
お金が行くようにすることが重要であるとするが、
現場・現物・現実主義徹した例証を増やす必要。
(4)雇用対策
雇用条件の改善や中小企業支援のための政策-具体
的には、最低賃金率の引き上げ、製造業への派遣の
禁止、正規と非正規労働者の待遇の均等化、手当付
き職業訓練、中小企業支援の補助金、などである。
これらは、困難に直面した個々の企業や労働者に対
する緊急避難として意味があるが、最終需要とは無
関係であり、最終需要が増えないかぎり雇用全体を
引き上げることはできない。現在起こっている格差
や貧困問題は、需要不足によって引き起こされる歪
みであり、それが解決されないかぎり、いくら個別
の対策を行ってもかならず別の弊害が出るので、こ
れらの政策を生かすには、環境規制や政府事業など
による新規需要の創出を同時に行う必要があると指
摘する。
(4)地方支援
新規需要につながる地方支援と環境政策-地域活性
化の、高速道路無料化や自動車関連税の減税、およ
び農家への個別補償を打ち出している。公共事業を
やめ、他方で高速道路無料化や農家への所得補償を
しても、地方の受け取るお金も変わらず景気への影
響もないとするが、これも例証をこなすのが一番と
思われる。渋滞だから効果ないという議論は本末転
倒で、道路を建設するか、通行を条例規制するのが
本筋で、議論が錯綜しているので整理が必要だ。
(5)環境と市場創出
環境規制は大きな市場創出に結びつく有望な産業政
策だが、家計や企業への負担増ととられる傾向があ
り、環境負担分だけ各製品の価格は上昇するが、そ
の分を機械設備が食べて消えてしまうわけではなく、
太陽光や風力で電力を作った人、環境設備を作った
人がすべて受け取ることになる。つまり、これによ
って新しい市場が生まれ、別の家計の所得になるだ
けである。昨年秋の金融危機で一時的に赤字に転落
したトヨタが持ち直している理由も、環境への関心
が高まったことにより、エコカーの売れ行きが好調
だからである。その結果、一時解雇した従業員が呼
び戻されて所得を得ていることを指摘。環境負荷で
価格が上がり、国際競争で負けるという懸念が、経
団連のメンバーの中でも特に環境負荷の高い業界か
ら強く表明されているが、国際マクロ経済学と為替
調整のメカニズムを無視した、目先だけの議論→輸
出が減り→経常収支が悪化→円安が起こって国際競
争力は調整→経常収支はもとに戻る。環境を多く使
う産業とそれによって新たなビジネス・チャンスを
生かす企業との違い。日本の産業全体が衰退するわ
けではない。かつて繊維産業やおもちや、食器産業
が衰退したときに、それらの業界が保護を要求した
のと同じで環境負荷産業で働いている。環境負荷産
業がすべて打撃を受けるかと言えば、かならずしも
そうとは限らない。たとえば鉄鋼などは、環境税で
打撃を受けると心配しているが、それによって環境
設備への投資が増えれば鉄鋼需要も拡大するから、
大きなビジネス・チャンスと、財政政策の第三則に
照らしても望ましい特徴を持つとする。この他の介
護事業などをあげているが同感である。
■
ナナカマド(七竈、学名;Sorbus commixta)はバラ
科の落葉高木。赤く染まる紅葉や果実が美しいので、
北海道や東北地方では街路樹としてよく植えられて
いる。「ナナカマド」という和名は、"大変燃えに
くく、七度竃(かまど)に入れても燃えない"とい
うことから付けられたという説が、広く流布してい
る。その他に、"七度焼くと良質の炭になる"という
説や、食器にすると丈夫で壊れにくい事から"竃が
七度駄目になるくらいの期間使用できる"という説な
どもある。晩秋に紅葉の「ナナカマド」。花言葉は
「用心」「慎重」。
伴奏「七竃の秋」
■