車から田園の終の棲家を眺めれば 遠き旅路の萩の花かな
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【新制度派経済学とは】
Elinor Ostrom
自由市場原理が崩壊した場合の経済協調を探求した
米国のエリノア・オストロム(Elinor Ostrom)教授とオ
リバー・ウィリアムソン(Oliver Williamson)教授が、2009
年のノーベル経済学賞を受賞した。フランスのある
大学教授は、昨年の経済崩壊を考慮すると、2人の
受賞は「タイムリー」だと話す。伝統的な市場理論
が、昨今の金融・経済の混乱には当てはまらなかっ
たために信頼を失ったと考えられているためだと評
価する。両氏とも「統治(ガバナンス)」に関する
業績が評価。オストロム氏は共有財産の管理に関す
る研究、ウィリアムソン氏は企業と市場による問題
解決の研究が受賞につながった。
Oliver Williamson
ウィリアムソン教授は、「欠陥を生み出す企業の構
造」に焦点を当てた研究で受賞した。ロンドン(Lon-
don)のシティ大学(City University)のクラウス・ザウナ
ー(Klaus Zauner)教授(経済学)によると、ウィリア
ムソン氏はその取引費用理論で経済学に「革命」を
もたらし、その理論は今や世界中のビジネススクー
ルで教えられているという。
取引費用理論によると、企業は市場主導のオプショ
ンの方がコスト安に見える場合でも、スポット市場
での取引とは異なり、長期的な経済協力関係による
コスト節約の方に重きを置くと考えられている。経
済を良くするのは市場ではなく「人」とする。一方、
オストロム教授は、共有財産をめぐる争いで最良の
解決をもたらすものは市場の力ではなく人間である
と結論付ける研究を行った。
フランスのエコノミスト、マルタン・アントナ(M-
artine Antona)氏によると、誰にも属していない共有
財産を集団で管理すべきと唱えた学者は、オストロ
ム教授が初めて。そして、「炭素も生物多様性も人
類の共有財産」だと世界中の人々が唱えるようにな
った昨今では、こうした考えはますます重みを持っ
てきているという。例えば、世界中で乱獲されてい
るマグロのような共有資源は、各当事者が自己の利
益しか考えない場合、過度に使用してしまうことになる。
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その解決策は、当事者間で競争するのではなく、協
力することだ。「市場によらない非公式な協力関係
がすべての人々にとってより良い解決策になる場合
もあることを示してくれている」という。言い換え
れば、この「非公式な協力関係」は、市場の失敗を、
エコノミストたちの予想以上に、そして政府の介入
を必要としないほどに、修正できる可能性を秘めて
いるという。
Douglass Cecil North
彼らの立脚する経済学系譜は、主としてアメリカで
19世紀末から1930年代にかけて展開された経済学の
流れの「制度学派」(創始者であるTh.ヴェプレン、
さらにW.C.ミッチェル(W.C.Mitchell,1874-1948)、
J.R.コモンズ(J.R.Commons,1862-1945)、J.M.
クラーク(J.M.Clark,1884-1963)など)の理論を
転倒させた経済学派で「新制度学派」「現代制度学
派」など呼ばれている。
Thorstein Veblen
制度学派の特徴は、経済現象を歴史的に進化・発展
する社会制度の側面からとらえる点にあり、古典派
経済学の功利主義とホモエコノミクス概念を批判し、
人間の習慣や思考様式などの社会心理学的側面を重
視し、経済現象を累積的因果の関係として分析し、
演繹的・理論的分析よりもむしろ帰納的な歴史的研
究を重視した。
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この学派が成立した時代背景として、独占の成立と
農民・労働者階級の貧困化があり、彼らは社会改良
主義を主張し,ニューディール政策にも影響を与え
たが、1930年代にはケインズ経済学の影響により学
派としての意味は次第に薄れた。
Geoffrey M. Hodgson
ジェフリー・ホジソン(G.M.Hodgson)は、新古典派
経済学の特徴の次の三点を批判し(『現代制度派経
(1)あらゆる経済主体が合理的な最大化行動をと
るという考え。外生的に与えられた選好にした
がって最適化を行うと想定する。
(2)深刻な情報問題が発生しないとし、将来につ
いての根本的な不確実性、複雑な世界の構造や
媒介変数についての無知の広がりや、共通の諸
現象を認識時の個人ごとの相違は存在もしない
とする。
(3)歴史的時間で進行する変化の連続的過程より
も、動きのない均衡状態或いは、それに向かう
運動に理論の焦点をあわせる。
済学宣言』)、人間の「合理性の限界」を認識し、
現実には不確実性があるため、すべての経済制度は、
その経済制度が機能するために少なくとも一つの構
造的に異なった部分制度に頼らなければならない。
社会構成が全体として変化に対応できるためには構
造的な多様性が必要であり、それには常に複数の生
産様式の併存が必要であるとする。いわば「制度が
経済を決定」→「経済が制度を決定」へ転換させた
のが新制度学派である。
八木紀一郎
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【混成性の原理:inpurity principle 】
各システム(あるいはサブシステム)には、システ
ム全体を支配はしないとしても、そのシステムが機
能するためには不可欠な『非純粋性』が含まれてい
るという考え方(『現代制度派経済学宣言』)で、
経済過程が自己調整的ではなく「累積的因果」の過
程にあると考える。この「累積的因果連関」は、
神野直彦
ミュルダール(K.G.Myrdal)によって不均等発展が深
化する過程を説明するのに使用された概念で、カル
ドア(N.Kaldor)によって規模に関する収穫逓増と結
びつけられ、製造業が成長と生産性上昇との相互促
進的関係を通して「成長のエンジン」としての役割を
演ずるモデルへと発展して行く。
金子勝
このように、不確実な環境下の合理的な個人の行動を
理論化することで、人々の経済活動を支える社会的規
範や法的規則などの制度的側面を解明し、経済学の対
象と方法を拡張しようとする現代経済学の潮流(→新
帝国主義の補完→ポスト世界分業交易資本主義?)で
あると腑に落とす。
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【注釈:プリンシパル=エージェント】
プリンシパル=エージェント関係(principal-agent rela-
tionship)とは、行為主体が、自らの利益のための労
務の実施を他の行為主体に委任すること。このとき、
行為主体をプリンシパル(principal)、行為主体をエ
ージェント(agent)と呼ぶ。
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エージェンシー・スラック(agency slack)とは、エ
ージェントが、プリンシパルの利益のために委任さ
れているにもかかわらず、プリンシパルの利益に反
してエージェント自身の利益を優先した行動をとっ
てしまうこと。エージェンシー問題(agency problem)
とは、プリンシパル=エージェント関係においてエー
ジェンシー・スラックが生じてしまう問題のこと。
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プリンシパル=エージェント理論(principal-agent the-
ory)とは 経済学においてプリンシパルがエージェ
ンシー・スラックを回避するために、どのようなイ
ンセンティブ(誘因)をエージェントに与えれば良
いのかについて、主として報酬を対象に考察する研
究のこと。また、政治学においては、主として、プ
リンシパル=エージェント関係にありながらプリン
シパルの利益に沿ってエージェントが行動している
政治現象を、エージェントに対するインセンティブ
や監視の形態などから説明するアプローチのこと。
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遠い昔の出来事を語り合いランチ帰り車中、良き集
落形成に一役を担えたかなと歌う。秋の七草のトッ
プ「ハギ」。花言葉は「思い」「清楚」。
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