極東極楽 ごくとうごくらく

豊饒なセカンドライフを求め大還暦までの旅日記

枇杷と休眠遺伝子の覚醒

2009年11月16日 | 新弥生時代

あをによし 寧楽の京師の 浪漫道 おもひでの枇杷 頬張りてゆく

 
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May 2009, Volume 27
Nat Biotechnol 27(5):462-464 (2009)


【休眠遺伝子覚醒の3つの技法】

 Actinomycetes

「微生物の『休眠遺伝子』を目覚めさせ、新たな抗
生物質を発見-世界初、新薬発見に向けた革新的技
術」という
旧聞(食品総合研究所とアステラス製薬
醗酵研究所の研究者らは、土壌から単離した抗菌剤
非産生性の放線菌属の一種ストレプトマイセスの薬
剤耐性株がRNAポリメラーゼあるいはリボソーム蛋白
質21に変異を起こすと、2次代謝産物合成系が活性化
され、抗菌活性を持つ環状デプシペプチドを産生す
ることを見いだした。同ペプチドは新規の抗菌剤で、
ピペリダマイシンと命名)だが、大変興味深いく『
放線菌の「休眠遺伝子」覚醒技術の開発』
バイオサ
イエンスとインダストリー
09/No.08 を参考に考察
することに。

【用語の解説】

・放線菌:土壌に多く生息し抗生物質を作る菌。
・リボゾーム:蛋白質合成器官で全ての生物が有する。
RNAポリメラーゼ:遺伝子発現のための転写酵素
 でDNAを鋳型にしてRNAを作る。
・リボゾーム工学:リボゾームを改造して微生物の
 潜在能力を活性化する技術。
・変異:自然界では約 10 -8  の頻度で起きる。
・3つの覚醒技術:リボゾームエ学技術、天然変異
 系RANP利用技術、希土類元素利用技術

【参考図書の要約】

・微生物(放線菌)には「休眠遺伝子」(潜在遺伝
 子とも言う)が多数存在することを明らかにし、
 これらを「活性化」する技術を確立。
・「休眠遺伝子」を活性化させた放線菌から新たな
 抗生物質を単離した。



「休眠遺伝子」は昆虫、植物では古くから使われて
一般的には昆虫の休眠状態を、植物では種子の休眠
性(発芽抑制)に関わる遺伝子群を指すことが多い。
微生物では休眠現象というものはなく「休眠遺伝子」
という概念も生まれることはなかったが、過去数年
間にわたる世界規模のゲノムプロジェクトの成果で、
微生物には通常条件では発現しない潜在遺伝子が当
初の予想をはるかに超えて数多く存在する事実が明
らかになってきた。



抗生物質の生産は放線菌が顕著であり「休眠遺伝子」
の定義とは異なり、応用微生物学からは「物質生産
を認知させるに到らない微弱な発現」を休眠遺伝子
としてとらえることができる。8割が休眠状にあ
り、二次代謝遺伝子の多くは抗生物質をはじめとす
る生理活性物質をコード(遺伝子暗号)化し「宝の
山」が埋もれているに等しい。休眠遺伝子の活性化
は、微生物・植物の育種、新規抗生物質の探索、環
境改善生物の育成などに直結している。




遺伝子の転写活性にかかわる因子の相互作用を解明


1.「リボゾームエ学」技術

リボゾームエ学は元来徹生物の育種技法だが、休眠
遺伝子の活性化にも極めて有効。リボゾーム攻撃性
の抗生物質に対する耐性変異により“変異型”のリ
ボゾームを付与することを基本で、徹生物の二次代
謝は、正の制御タンパク質によってスイッチオンさ
れる。この制御タンパク質は
閾値を持っている。
生物のタンパク質合成活性は生育とともに低下し、
定常期の活性は対数期のそれに比べて著しく低くな

る。二次代謝発現に必要な初期の正の制御タンパク
質のレベルは闇値に達しない。これが物質生産が認
識できない「休眠遺伝子」でリボゾームエ学は、変
異型リボゾームを保有する細胞は定常期においても
活発なタンパク質合成を行うことができる。


 Streptomyces

一方、バクテリアのリボゾームはアラーモン ppGpp
の合成能を持ち ppGpp のRNAポリメラーゼ(RANP)
への結合は二次代謝誘発に重要である。
RANPに直
接変異導入(例えばRNAP攻撃薬剤であるリファンピ
シンに対する耐性変異rif の付与)することによって
も休眠遺伝子を著しく活性化できる
。これはRANP
改変により転写を制御するが、広義のリボゾームエ
学に取り入れてもいる。通常の培養条件では抗生物
質生産能を示さない Streptomyces mauvecolor 属の菌
株のほぼ半数が、この技法によって活性化される。
希少放線菌では活性化率は6%とやや低いが、これ
は希少放線菌は Streptomyces mauvecolor 属に比べ保
有する二次代謝遺伝子の数が少ないく覚醒された抗
生物質の新物質を例証に、Streptomyces mauvecolor と
回定された菌株から単離・構造を確認。ピペリダジ
ン4分子を包含する新奇な骨格を有しているので

ペリダマイシン
piperidamycin)と名付けたという。



付与したリファンピシン耐性(rif)変異の種類により、
新物質(8種類)のいずれの成分を増すかが大きく
異なり、抗生物質は通常複数の構成分で生産され、
特定の成分のみを増大させたい場合、多彩なrif 変異
の使用は目的に沿った結果を与えるかもしれない

rif 変異は一次代謝にも影響を与え、おそらくはその
結果生じる細胞内のS-アデノシルメチオニン、アセ
チルCoAなどの量的変化が結果として構成分の量を
変化させると推測(Preferential biosynthesis と呼称)。



rif 変異の効果を知るため、表面プラズモン共鳴によ
る解析手法を開発し、変異型RNAPと生育後期に発
現する遺伝子のプロモーター領域への親和性を測定。
休眠遺伝子を覚醒させる変異型RNAPH437DとH43
7L
)は、プロモーターとして高い親和力を獲得、こ
のことが休眠遺伝子覚醒の基本原理であることを明
らかにした。さらに、ストレプトマイシン耐性付与
によりリボゾームタンパク質S12に変異が生じると、
定常期でも高いタンパク質合成活性が保持している
ことも確認する。



本菌が保有する多くの二次代謝遺伝子に対するリフ
ァンピシン耐性(rif =rpoB)変異の効果を検証。ある
種の rif  変異(H437Y)は極めて強力な覚醒能を発揮
し、いくつかの遺伝子は野生株に比べ50倍以上の発
現(転写レベル)を示した
。その他多くの遺伝子も10
倍以上の発現が認められ、rif  変異の休眠遺伝子覚醒
の有効性が示された。rif 変異とstr 変異のいずれがよ
り効果があるのかは、rif 変異がその原理的に端的で
あり、rif  → str の順で導入していくのが良策という。



2.“天然”の変異型 RNAP 利用技術

従来、バクテリアには単一種のRNAP のみが存在す
ると信じられてきた。放線菌の一部は複数種のRNAP
の野生型とリファンピシン耐性を与える変異型のrpoB
遺伝子
)を保有することが明らかになる。これまで
の既成概念を覆し、応用面でも重大な切り口を与え
る。“天然”の変異型 RNAP は、休眠遺伝子覚醒の
強力な力が解明されつつある。単一種で変異型(リ
ファンピシン耐性)放線菌も多く存在する。これら
天然の変異型RNAP は、従来のリファンピシン耐性
付与により、人為的変異と異なり複数部位に変異を
生じ、変異部位の協調によってリファンピシン耐性
の形質が付与されるのが特徴。



また、複数種のRNAPは、Actinomadura,Nonomuraea
どの希少放線菌に偏在している。重要な点は変異型
のみを有する株よりも、野生型と変異型を共存させ
ている株の方が、生育、胞子形成、抗生物質生産の
勝っている
。希少放線菌は本来生育が遅く、生存競
争で不利だが、rpoB遺伝子のポリモルフィズムによ
り遺伝子発現を巧妙に制御
することが可能になり、
結果として生存競争の不利をしのげると予測する。



天然の変異型RNAP 遺伝子は、10 種類程度であるが、
さらに探索すれば 50 種以上の変異型RNAP遺伝子が
見いだされるであろう。Nonomraea sp.39727の変異型
 RNAP 遺伝子の試みは、多くの変異型の中にはより
強力なものが見つかることを示唆する。特定部位に
3つの変異が生じる確率は、単純計算すれば
10-8 
3乗(=
10- 24
であり、これは100万トンのタンカー
に菌を満載した時に1匹いる頻度。変異株を人為的
に作出できず、天然の変異型RNAP遺伝子ぱ自然界か
らの贈り物と言うべきであり、その活用は今後のバ
イオテクノロジーに大きな恩恵をもたらすと期待さ
れる。



3.希土類元素利用技術

希土類元素とは、その名の通り土壌に合まれる微量
元素(通常1mg/kg以下)、すなわち15種類のランタ
ナイド類にスカンジウムとイトリウムを加えた17
素の総称であり、古くから工業素材として重視され
てきた。黄土類鉱山の多い中国北支地方の農民は希
土類高含有土を作物に与えると「作物の収率が8~
15%
上がる」「作物が干ばつに対して抵抗性を獲得
する」と経験的に知っていた。①微生物に与えた時、
その生理状態を一変させるのではないか?②希土類
元素は、生命全般にわたって「環境応答仲介物質」
または「情報伝達物質」の機能を極微量で果すとの
仮説に対し、希土類元素の微量の添加がS.lividans 
休眠遺伝子を覚醒させて抗生物質を生産。S.coeliclor
ではその生産力が著しく増大する。すべての希土類
元素が有効であったが、逆に近縁元素である
Cu、Zn、
Mn、Ni、Fe
は無効であり、希土類元素の有効性が明
快に示された
。とりわけ、スカンジウムが高い効果
を示す。作用メカニズムについては現在のところ全
く不明だが、添加すればよいという簡便さは実用性
を裏付け、微生物はその進化の過程で、土壌中に極
微量存在する希土類元素を、自身の環境応答の道具
利用術を身に付けたのかもしれないとする。



リボゾーム工学はその他の分子生物学とことなり、
元手を必要とせず、遺伝子工学手法を含まず、利用
規制受けず迅速に産業利用でき、食品微生物、環境
改善微生物が従来通り利用できるという。報告書を
見てこの分野への政府産助政策の優先度は非常に高
いと腑に落とした。




枇杷(学名: Eriobotrya japonica)は、バラ科の常緑高
木およびその果実。中国南西部原産。英語の「loquat
は広東語「蘆橘」(ロウクワッ)に由来する。日本
には古代に持ち込まれたと考えられている。またイ
ンドなどにも広がり、ビワを用いた様々な療法が生
まれた。中国系移民がハワイに持ち込んだ他、日本
からイスラエルやブラジルに広まった。晩秋に白い
花が咲く「ビワ」。花言葉は「温和」。


 

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