あをによし 寧楽の京師の 浪漫道 おもひでの枇杷 頬張りてゆく
May 2009, Volume 27
Nat Biotechnol 27(5):462-464 (2009)
【休眠遺伝子覚醒の3つの技法】
Actinomycetes
「微生物の『休眠遺伝子』を目覚めさせ、新たな抗
生物質を発見-世界初、新薬発見に向けた革新的技
術」という旧聞(食品総合研究所とアステラス製薬
醗酵研究所の研究者らは、土壌から単離した抗菌剤
非産生性の放線菌属の一種ストレプトマイセスの薬
剤耐性株がRNAポリメラーゼあるいはリボソーム蛋白
質21に変異を起こすと、2次代謝産物合成系が活性化
され、抗菌活性を持つ環状デプシペプチドを産生す
ることを見いだした。同ペプチドは新規の抗菌剤で、
ピペリダマイシンと命名)だが、大変興味深いく『
放線菌の「休眠遺伝子」覚醒技術の開発』バイオサ
イエンスとインダストリー 09/No.08 を参考に考察
することに。
【用語の解説】
・放線菌:土壌に多く生息し抗生物質を作る菌。
・リボゾーム:蛋白質合成器官で全ての生物が有する。
・RNAポリメラーゼ:遺伝子発現のための転写酵素
でDNAを鋳型にしてRNAを作る。
・リボゾーム工学:リボゾームを改造して微生物の
潜在能力を活性化する技術。
・変異:自然界では約 10 -8 の頻度で起きる。
・3つの覚醒技術:リボゾームエ学技術、天然変異
系RANP利用技術、希土類元素利用技術
【参考図書の要約】
・微生物(放線菌)には「休眠遺伝子」(潜在遺伝
子とも言う)が多数存在することを明らかにし、
これらを「活性化」する技術を確立。
・「休眠遺伝子」を活性化させた放線菌から新たな
抗生物質を単離した。
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「休眠遺伝子」は昆虫、植物では古くから使われて
一般的には昆虫の休眠状態を、植物では種子の休眠
性(発芽抑制)に関わる遺伝子群を指すことが多い。
微生物では休眠現象というものはなく「休眠遺伝子」
という概念も生まれることはなかったが、過去数年
間にわたる世界規模のゲノムプロジェクトの成果で、
微生物には通常条件では発現しない潜在遺伝子が当
初の予想をはるかに超えて数多く存在する事実が明
らかになってきた。
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抗生物質の生産は放線菌が顕著であり「休眠遺伝子」
の定義とは異なり、応用微生物学からは「物質生産
を認知させるに到らない微弱な発現」を休眠遺伝子
としてとらえることができる。8割が休眠状態にあ
り、二次代謝遺伝子の多くは抗生物質をはじめとす
る生理活性物質をコード(遺伝子暗号)化し「宝の
山」が埋もれているに等しい。休眠遺伝子の活性化
は、微生物・植物の育種、新規抗生物質の探索、環
境改善生物の育成などに直結している。
■
遺伝子の転写活性にかかわる因子の相互作用を解明
1.「リボゾームエ学」技術
リボゾームエ学は元来徹生物の育種技法だが、休眠
遺伝子の活性化にも極めて有効。リボゾーム攻撃性
の抗生物質に対する耐性変異により“変異型”のリ
ボゾームを付与することを基本で、徹生物の二次代
謝は、正の制御タンパク質によってスイッチオンさ
れる。この制御タンパク質は閾値を持っている。微
生物のタンパク質合成活性は生育とともに低下し、
定常期の活性は対数期のそれに比べて著しく低くな
る。二次代謝発現に必要な初期の正の制御タンパク
質のレベルは闇値に達しない。これが物質生産が認
識できない「休眠遺伝子」でリボゾームエ学は、変
異型リボゾームを保有する細胞は定常期においても
活発なタンパク質合成を行うことができる。
■
Streptomyces
一方、バクテリアのリボゾームはアラーモン ppGpp
の合成能を持ち ppGpp のRNAポリメラーゼ(RANP)
への結合は二次代謝誘発に重要である。RANPに直
接変異導入(例えばRNAP攻撃薬剤であるリファンピ
シンに対する耐性変異rif の付与)することによって
も休眠遺伝子を著しく活性化できる。これはRANP
改変により転写を制御するが、広義のリボゾームエ
学に取り入れてもいる。通常の培養条件では抗生物
質生産能を示さない Streptomyces mauvecolor 属の菌
株のほぼ半数が、この技法によって活性化される。
希少放線菌では活性化率は6%とやや低いが、これ
は希少放線菌は Streptomyces mauvecolor 属に比べ保
有する二次代謝遺伝子の数が少ないく覚醒された抗
生物質の新物質を例証に、Streptomyces mauvecolor と
回定された菌株から単離・構造を確認。ピペリダジ
ン4分子を包含する新奇な骨格を有しているのでピ
ペリダマイシン(piperidamycin)と名付けたという。
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付与したリファンピシン耐性(rif)変異の種類により、
新物質(8種類)のいずれの成分を増すかが大きく
異なり、抗生物質は通常複数の構成分で生産され、
特定の成分のみを増大させたい場合、多彩なrif 変異
の使用は目的に沿った結果を与えるかもしれない。
rif 変異は一次代謝にも影響を与え、おそらくはその
結果生じる細胞内のS-アデノシルメチオニン、アセ
チルCoAなどの量的変化が結果として構成分の量を
変化させると推測(Preferential biosynthesis と呼称)。
■
rif 変異の効果を知るため、表面プラズモン共鳴によ
る解析手法を開発し、変異型RNAPと生育後期に発
現する遺伝子のプロモーター領域への親和性を測定。
休眠遺伝子を覚醒させる変異型RNAP(H437DとH43
7L)は、プロモーターとして高い親和力を獲得、こ
のことが休眠遺伝子覚醒の基本原理であることを明
らかにした。さらに、ストレプトマイシン耐性付与
によりリボゾームタンパク質S12に変異が生じると、
定常期でも高いタンパク質合成活性が保持している
ことも確認する。
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本菌が保有する多くの二次代謝遺伝子に対するリフ
ァンピシン耐性(rif =rpoB)変異の効果を検証。ある
種の rif 変異(H437Y)は極めて強力な覚醒能を発揮
し、いくつかの遺伝子は野生株に比べ50倍以上の発
現(転写レベル)を示した。その他多くの遺伝子も10
倍以上の発現が認められ、rif 変異の休眠遺伝子覚醒
の有効性が示された。rif 変異とstr 変異のいずれがよ
り効果があるのかは、rif 変異がその原理的に端的で
あり、rif → str の順で導入していくのが良策という。
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2.“天然”の変異型 RNAP 利用技術
従来、バクテリアには単一種のRNAP のみが存在す
ると信じられてきた。放線菌の一部は複数種のRNAP
の野生型とリファンピシン耐性を与える変異型のrpoB
遺伝子)を保有することが明らかになる。これまで
の既成概念を覆し、応用面でも重大な切り口を与え
る。“天然”の変異型 RNAP は、休眠遺伝子覚醒の
強力な力が解明されつつある。単一種で変異型(リ
ファンピシン耐性)放線菌も多く存在する。これら
天然の変異型RNAP は、従来のリファンピシン耐性
付与により、人為的変異と異なり複数部位に変異を
生じ、変異部位の協調によってリファンピシン耐性
の形質が付与されるのが特徴。
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また、複数種のRNAPは、Actinomadura,Nonomuraea な
どの希少放線菌に偏在している。重要な点は変異型
のみを有する株よりも、野生型と変異型を共存させ
ている株の方が、生育、胞子形成、抗生物質生産の
勝っている。希少放線菌は本来生育が遅く、生存競
争で不利だが、rpoB遺伝子のポリモルフィズムによ
り遺伝子発現を巧妙に制御することが可能になり、
結果として生存競争の不利をしのげると予測する。
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天然の変異型RNAP 遺伝子は、10 種類程度であるが、
さらに探索すれば 50 種以上の変異型RNAP遺伝子が
見いだされるであろう。Nonomraea sp.39727の変異型
RNAP 遺伝子の試みは、多くの変異型の中にはより
強力なものが見つかることを示唆する。特定部位に
3つの変異が生じる確率は、単純計算すれば10-8 の
3乗(=10- 24)であり、これは100万トンのタンカー
に菌を満載した時に1匹いる頻度。変異株を人為的
に作出できず、天然の変異型RNAP遺伝子ぱ自然界か
らの贈り物と言うべきであり、その活用は今後のバ
イオテクノロジーに大きな恩恵をもたらすと期待さ
れる。
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3.希土類元素利用技術
希土類元素とは、その名の通り土壌に合まれる微量
元素(通常1mg/kg以下)、すなわち15種類のランタ
ナイド類にスカンジウムとイトリウムを加えた17元
素の総称であり、古くから工業素材として重視され
てきた。黄土類鉱山の多い中国北支地方の農民は希
土類高含有土を作物に与えると「作物の収率が8~
15%上がる」「作物が干ばつに対して抵抗性を獲得
する」と経験的に知っていた。①微生物に与えた時、
その生理状態を一変させるのではないか?②希土類
元素は、生命全般にわたって「環境応答仲介物質」
または「情報伝達物質」の機能を極微量で果すとの
仮説に対し、希土類元素の微量の添加がS.lividans の
休眠遺伝子を覚醒させて抗生物質を生産。S.coeliclor
ではその生産力が著しく増大する。すべての希土類
元素が有効であったが、逆に近縁元素であるCu、Zn、
Mn、Ni、Feは無効であり、希土類元素の有効性が明
快に示された。とりわけ、スカンジウムが高い効果
を示す。作用メカニズムについては現在のところ全
く不明だが、添加すればよいという簡便さは実用性
を裏付け、微生物はその進化の過程で、土壌中に極
微量存在する希土類元素を、自身の環境応答の道具
利用術を身に付けたのかもしれないとする。
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リボゾーム工学はその他の分子生物学とことなり、
元手を必要とせず、遺伝子工学手法を含まず、利用
規制受けず迅速に産業利用でき、食品微生物、環境
改善微生物が従来通り利用できるという。報告書を
見てこの分野への政府産助政策の優先度は非常に高
いと腑に落とした。
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枇杷(学名: Eriobotrya japonica)は、バラ科の常緑高
木およびその果実。中国南西部原産。英語の「loquat」
は広東語「蘆橘」(ロウクワッ)に由来する。日本
には古代に持ち込まれたと考えられている。またイ
ンドなどにも広がり、ビワを用いた様々な療法が生
まれた。中国系移民がハワイに持ち込んだ他、日本
からイスラエルやブラジルに広まった。晩秋に白い
花が咲く「ビワ」。花言葉は「温和」。
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