風邪気味で気分が乗らぬ中、早朝から山中漆器の生産者である「浅田漆器」へ出かける。
当初は白木地の挽物で、湯治客を対象とした土産物としてつくられていたが、江戸時代前期
の慶安年間(1648~52)から文化年間(1804~18)にかけて全国から名工を招聘。技術導入によ
り、現在に承け継がれている千筋挽(せんすじびき)、そして朱溜塗(しゅだめぬり)、独
楽塗(こまぬり)、色塗漆器など、さまざまな技法が開発されてきたという山中漆器。土産
物から漆器生産へ。山中漆器は本格的な地場産業としてリスタート。昭和33年頃には、木製
漆器を基盤とし、食器類を中心に発展してきた山中漆器にもプラスチックがとり入れられ、
伝統的な木製漆器に加え、低廉価格で多様なデザイン・機能性を持ったプラスチック漆器の
生産により、市場はより一層拡大し、国内外のさまざまな需要に応えている。
ところで、挽物(ひきもの)とは、用材を回転させ、これに刃物を当て、欄干(らんかん)
手摺状や椀、盆状に加工することを言いい、古くから挽物の技法により、縦軸の上下に定板
を付け、下の定板を足で回転しながら、上定板に粘土を盛り上げ、手で円形の土器がつくら
れていた。陶器の世界で言う”ろくろ”がこれで、木工の世界では、横軸の器械が使われ、
挽地(挽物細工の用材)を横にして、遊軸する枠にその両端を挟み、これに縄を巻き付け、
その両端を交互に引くことにより挽地を回転させ、これに刃物を当てながら繰り加工をして
いた。これの発達したものがターニングマシンであり、螺旋形挽出しのコッピングマシーン。
また、横軸の軸先に爪をもった締め木を付け、これに挽地を止め、支台と刃物とを移させな
がら繰り加工するのが”ろくろ挽き”。加工例として、海外では木製家具の椅子やテーブル
などの脚部、階段の欄干、野球のバットなど。また、国内では、主に食器(汁椀や菓子器な
ど)、糸車、こけし、滑車、があり、近年では、ゲートボール用具、ドアの手摺などがある。
山中漆器の挽物技法は全国一と言われている(山中漆器をヒントで明治に自転車用木製リム
がはじめてつくられている。
午前10時過ぎに目的地に到着する。築14年になるという店は新築同然のようにこぎれいだっ
た。早速、「栓 Shikki de Pasta」のクリアータイプのパスタ皿と栗っこスプ-ンとパスタ
用箸を購入し、店内の展示を見学する。なかでも目を引いたのは下の写真の栗の木の手彫り
盆。栗は鉄道の枕木として使われていたほど堅く、耐食性に優れている。栓(せん)の木は
針桐の別名で木肌が深く裂け、黒ずんだ褐色の色をしている木から取れる「オニセン(鬼栓
)」と、木肌がなめらかな木から取れる「ヌカセン(糠栓)」に分かれる。鬼栓は加工には
向かず、沈木に用いられる。一方、糠栓の材は軽く軟らかく加工がし易い為、建築、家具、
楽器(エレキギター材や和太鼓材)、仏壇、下駄、賽銭箱に広く使われる。耐朽性はやや低
い。環孔材で肌目は粗いが板目面の光沢と年輪が美しく海外でも人気がある。色は白く、ホ
ワイトアッシュに似るという。
栗の木の手彫り
商品は圧縮加工し割れ、ソリを防ぎ、加工し磨きウレタン樹脂を塗装、漆仕上げを施す。但
し、パスタ用フォークは加工が難しいということで、角箸を薦められた。漆のクリアは難し
くベージュ色になるとのこと。また、洋食器のフォークだと漆の硬度が小さく傷つくという。
これを解決するには金属フォークに、クリアーのフッ素樹脂(鉛筆硬度で4H程度)などの
保護樹脂を塗装しておくか、木質皿に硬質の保護膜を塗布しておけば良いはずだが、そのこ
とは店主には話さなかった。また、ラッチョンマットはソリがはいるので合板製だという。
1時間ほど展示品の説明など聴き帰ってきた。
帰宅後、早速、彼女が皿にカレーを盛ってくれたのでランチをとるが、クリアー樹脂の表面
に極薄く緑を帯びていたのを見咎めたので、そういえば微かにそのように見えた。やはり総
合的塗りを見直す必要があるということでネットで下調べする。硬度に関しては、下表「特
開2007-320776|硬質膜の製造方法およびゾル」のように処理すれば、プラスチック、金属な
どの表面保護等に有効な硬質膜であって紫外線照射や高温処理を必要としないで高い硬度を
持つ硬質膜の製造方法およびこの硬質膜の製造方法に好適に使用できるゾルで、有機酸と無
機酸とを含むハフニアおよび/またはジルコニアゾルに、好ましくはゾル中のハフニウムお
よび/またはジルコニウム1モルに対して有機酸の存在量が0.1~20モルのゾルを基材に
塗付し、相対湿度50~100%の雰囲気下で存置させることによる硬質膜の製造方法、お
よび有機酸と無機酸とを含みハフニウムおよび/またはジルコニウム1モルに対して有機酸
の含有量が0.1~20モルであるゾル仕上げ、鉛筆硬度9H以上になり傷付きにくくなる
と考えている。木質食器に白磁のような質感をえるにはウレタン樹脂に酸化アルミや酸化亜
鉛など添加するかアルミノ珪酸ソーダガラス(『漆器でパスタ』)などを添加することで可
能だと思えた。いずれにしても、「百聞は一見にしかず」「百見は一触にしかず」という現
場主義はここでも生きているを実感した次第。
なお、天然の漆液は、化学的にはウルシオール(カテコール誘導体)、ゴム質(植物多糖類
及び酵素ラッカーゼを含むタンパク質類)、含窒素物(糖タンパク質)から構成され、油状
成分であるウルシオール中にゴム質の水溶液が乳化分散して、油中水滴(W/O)型エマル
ションを形成している。漆の木から掻きとった漆液から夾雑物を除去した「生漆」は、更に、
ナヤシ、クロメという工程を経て塗装用の精製漆に加工される(製漆工程)。製漆工程にお
いて、ナヤシというのは攪拌操作、クロメというのは加熱攪拌操作のことである。製漆工程
を経た漆液は、「透漆」と呼ばれ、鉄粉又は水酸化鉄で黒く着色した漆液は、「黒漆」と呼
ばれている。
瀬戸物に劣ると不賛同の彼女は「でもね」という。これは子供やお年寄りには良いかもねと。
「そうなんだ、新しいモーニング皿、ランチ皿、ディナー皿として展開すれば軽くて、温も
りがあり、グリーン商品として潜在的な広がりがあるんだよ」と返事したが、もう別のこと
を考えていてそれを明日の考察にスクランブルさせた。