ヘヴィメタ界にとってこれは本年度最大の問題作だろう。今やへヴィメタルの最後の砦といえるメタリカがルー・リードと繰り広げる暴力即興演奏。日本盤のライナーはヘヴィメタの教祖伊藤政則氏だが、冒頭から「本作を聴いて心をかき乱したファンの戸惑い~」と書いている。この作品がいわゆるロックンロールの枠に収まりきらない新たな境界を切り拓いていることを政則氏も認めているのだ。
この異種格闘技的融合が実現したのは2009年10月ニューヨークで開催された「Rock And Roll Hall Of Fame」25周年記念イベントにおいてだった。ロックの殿堂入りを果たしたメタリカがルー・リードと共に「スウィート・ジェーン」「ホワイト・ライト/ホワイト・ヒート」を演奏したのである。その模様は動画をご覧いただきたい。メタリカがリードのバック・バンドに徹しリードの名曲をタイトなハードロックに仕上げている。
このセッションが気に入った両者は一緒にレコーディングする計画を立てる。当初メタリカ側はリードの楽曲をメタル・アレンジでカヴァーすることを提案したそうだ。しかしルー・リードはもっと画期的なアイデアを持ってきた。自らがドイツの古典文学に影響されて作詞/作曲した作品「LULU」をメタリカに演奏させるというものである。人間の葛藤、生命の神秘、人生の不条理などを描いたリードらしい衒学的な歌詞に興味を覚えたメタリカは一切リハーサルせずにスタジオ入りしほとんど一発録りで即興的にバック・トラックをレコーディングしたという。そこにルー・リードの殆ど朗読風の歌が乗り80分に亘る一大サウンド絵巻が完成した。
1994年のWoodstock 25周年フェスティバルでメタリカのステージを経験した。普段ヘヴィメタは殆ど聴かない私でも彼らの風格のあるワイルドな演奏には見入ってしまった。しかしこのアルバムで聴けるような自由度と柔軟性を彼らが持っているとは想像していなかった。まるでベルベッツの「シスター・レイ」のように畳み掛けるルー・リードの歌唱(語り)に鼓舞されるように"2011年型CAN/Yahowa13"とでも呼べるような重量感がありながら想像力に満ち、ある意味サイケデリックなフリーロックに一曲目から惚れこんでしまった。恐らくリードのファンなら狂喜乱舞する作品だろう。しかし様式美に凝り固まったヘヴィメタ・ファンがこのサウンドをどう評価するのか、間もなく発売の「Burrn!」誌の点数が楽しみである。
ルー・リード
メタリカさんと
いいコンビ
ヨーロッパ・ツアーから帰国した中原昌也氏も"興味本位で"このCDを購入したとのこと。彼の感想は「合ってねぇつっちゃ合ってないし(メタリカのリハに、ルーの朗読をテキトーに被せた感じ?)、サウンド上の意外性はまるでなし。」と手厳しい。どうかお手柔らかに!