ロサンジェルス・フリー・ミュージック・ソサエティ(LAFMS)の中核メンバー、リック・ポッツ氏の9年ぶりの日本ツアー。東京はスーデラ9周年特別コンサートの一環でマヘル・シャラル・ハシュ・バズの工藤冬里氏とのデュオ公演である。正直言って最近のスーデラには心惹かれるイベントが少ないのだが今回は白眉の企画。先日素晴らしい共演CDを郵送で販売した二人がどんなライヴを見せてくれるのか興味は尽きない。
LAFMSは1970年代半ばから活動しているアメリカ西海岸のアンダーグラウンド音楽団体で、私家盤で10数枚のレコードといくつかのカセット、会報を人知れず発行してきた。1970年代末に日本に紹介され、吉祥寺マイナーや京都どらっぐすとうあなどで発生した日本の新しいアンダーグラウンド・シーンとの同時代性が語られるとともに両者の交流が始まった。1982年には灰野敬二さんが渡米しLAFMSのドゥードゥーエッツ+リック・ポッツ氏と共演、その演奏はPSFからの「フリー・ロック」というCDで聴ける。以来ことあるごとにLAFMSは再評価され、1996年には集大成と言える10枚組CD BOX「LAFMS: The Lowest Form Of Music」がリリースされている。このタイトル通り「音楽の最低辺の形式」こそがLAFMSのテーマであり、フリー・ミュージック、ノイズ、ミュージック・コンクレートなどをさらに破壊したような音楽以前の音響を垂れ流してきたダメダメ集団(失礼!)である。
まずは客席後ろからけたたましい笑い声。ポッツ氏の笑い袋だった。冬里氏がピアノの調律を微妙に変えながら演奏を始める。ポッツ氏はミューカル・ソー、カリンバ、掃除機のホース、各種おもちゃを駆使して奇妙なパフォーマンス。冬里氏も発振器やモヤット/スッキリ・ボタン(!)などを繰り出し、まさにLAFMSらしいサウンドが再現される。おもちゃ箱をひっくり返したような、子供が習わぬ楽器を見よう見まねで奏でるような、天真爛漫な精神が漲っている。最後は冬里氏がガット・ギターを、ポッツ氏が12フレットあたりでネックが曲がる変なオリジナル・ストラトでギター共演。ネックが曲がるギターはハーフ・ジャパニーズのジャド・フェアー氏も使ってたな~。
第1部で用意してきた楽器/非楽器を使い果たしたので第2部はどうなるかと思ったが、冬里氏の卓越したピアノ演奏と椅子をフロアに擦るノイズ、ポッツ氏の不思議なギターと風船まで使った面白パフォーマンスで飽きることがない。さすが変態音楽道30年を超えるベテランの二人である。最近観ているインプロやノイズの演奏とは質の違う"まじめにふざける"独特の空気が新鮮だった。しかし考えてみれば1980年代初期の日本のアングラ界にはこのようなパフォーマンス的要素を持った演奏が数多く行われていたので、ある意味では懐かしさも感じるステージだった。
ポッツ氏の機材1
ポッツ氏の機材2
「何でも音楽として聴けば音楽になる。」ジョン・ケージ
このふたり
不思議な夢を
醸し出す
この日限定で冬里氏の新曲がSDカードで発売されていたので購入。冬里氏製作の陶器の球の中に入った特殊仕様。私のシリアルNoは1番。