GOTYE JAPAN TOUR 2013
Support Act:テニスコーツ
1980年代までは日本に於ける洋楽市場でのアメリカのチャートの影響力は甚大だった。ビルボートやキャッシュボックスといったアメリカ音楽業界誌のチャートがダイレクトに日本のラジオや雑誌露出に反映されレコード帯やジャケットには"全米No.1ヒット!"という文字が踊った。特に80年代MTVの登場で日本でも「ベスト・ヒットUSA」を始めとするテレビ番組で全米ヒット曲のミュージック・ビデオが放映されマイケル・ジャクソンやマドンナなどのビッグ・ヒットを生んだ。
それが変容したのは80年代後半に登場したヒップホップ/ラップがアメリカの主にブラック系若者の多大な支持を得てヒットチャートの上位にランクインするようになってからである。ここでヒップホップの成功について論じる余裕も知識もないので割愛するが、アメリカ白人文化への憧れが大きな動機であった日本の洋楽メディアおよびリスナーにとって黒人カルチャーのコアのコアであるストリートから生まれたヒップホップは容易に受け入れ難いものであった。またチャート変貌の原因にはビルボートのチャート集計方法がそれまでのラジオ・エアプレイからセールス重視に変わったこともある。それによりラジオで如何に大量にオンエアされたロックの楽曲でもシングル発売されていなければチャートに登場しないという現象が生じ日本洋楽界は全米チャートから乖離を余儀なくされる。
さらに2000年代には「アメリカン・アイドル」というオーディション番組出身のアーティストというよりぽっと出の素人芸人がチャートの上位を占めるようになり完全に全米チャートは意味をなくした。それに伴いグラミー賞を始めとするアメリカ音楽賞の影響力も薄れてきた。昨年のグラミー賞で最優秀レコード賞・最優秀アルバム賞・最優秀楽曲賞を含む6部門を受賞したアデルのアルバム「21」が英米その他19か国にて1位獲得しているにも拘らず日本ではオリコン年間チャート35位というパッとしないセールスだったのが象徴的である。
長々書いてきたが決してアメリカや世界のチャートに追従せよと言う訳ではない。日本独自の洋楽ヒットが第2次世界大戦後海外から洋楽が輸入された時からすでに生まれていたことは明白な事実だし日本人ならではの独特の感性は大切にすべきだ。ただし海外との熱量の違いは現在の一般的な洋楽離れの原因のひとつだと思う。
本年度シングルセールス世界ランキング第1位ヒット曲を放ちグラミー賞で3部門にノミネートされたオーストラリアのシンガー、ゴティエはまさに第2のアデル的存在といえる。フジロックなどで数度来日しているにも拘らず世間的知名度は驚くほど低い。実際筆者も若い知人に今回の単独来日公演に誘われるまで名前も聞いたことがなかった。当ブログの読者も知らない方が圧倒的だろう。
ベルギー生まれオーストラリア育ちの32歳。2003年にデビュー、2006年の2ndアルバム「Like Drawing Blood」が地元オーストラリアでダブルプラチナ・ヒット。2011年の3rd「メイキング・ミラーズ」の先行シングル「サムバディ・ザット・アイ・ユースト・トゥ・ノウ ~失恋サムバディ (feat. キンブラ)」が全米8週連続1位、全英4週連続1位とチャートを席巻。アルバムもアメリカをはじめ世界各国でゴールドディスク以上を獲得。音楽的にはポップ、ロック、ダブ・ステップ、ジャズなどの要素を独自のセンスで取り込んだ先鋭的なスタイルでiTunesでのジャンルはAlternativeに分類される。高校・大学で日本語を勉強して三重県の津市にホームステイに来ていたことがあるという。
世界No.1セールスのアーティストのライヴをキャパ1300規模のホールで観られるのは嬉しい。会場を埋めたのは若い観客ばかりで女性が7割。ビーチ・ハウスの客層に比べると5歳くらい年齢が高く普通の雰囲気の人が多く、年配ファンの姿は殆どない。ある意味世代限定アーティストと言えるのか。
東京公演のみサポートにテニスコーツが出演。彼らをこんなに大きなステージで観るのは初めて。いつものように裸足のふたりがアコギとピアニカを鳴らしながら登場しSayaの素朴な歌が響く。マイクがどこにセットされているのか判らないがどこで歌ってもPAが上手く声を拾う。ステージ中を歩き回って演奏するそよ風のようなパフォーマンスは彼らならではだが、客の大半は初めてテニスコーツを観るらしく途中で飽きてあちこちでおしゃベリが始まったりため息混じりのざわめきが起こったりする。同じなのはインディー系ということだけで音楽的にはゴティエとの共通点は殆どない。チケットセールスに結びつく訳でもないのでテニスコーツの起用は恐らくゴティエ本人の希望だったのではなかろうか。その証拠にゴティエがMCで「テニスコーツは素晴らしかったですね」と日本語で褒めていた。
テニスコーツのステージは30分、セットチェンジの必要はないのですぐにゴティエ登場かと思ったらスタッフが何度も楽器をチェックしていていつまで経っても始まらない。満員の中立ったまま待つのはロートルには結構辛い。30分経ってやっと客電が落ちる。待ちかねた観客の拍手に導かれバンドが登場。ステージ真ん中に誰もいないまま演奏が始まったと思ったら左手後方の男性が歌い始めた。それがゴティエだった。頭上にセットされた銅鑼状のパーカッションを時折叩きながら歌う。エレポップ風でペット・ショップ・ボーイズやデペッシュ・モードを思い出す。バックスクリーンに奇妙なアニメ映像が投射される。
曲によってキーボードやサンプラーやドラムを使い分ける様はまさにマルチミュージシャン。シルキーなヴォーカルはとても印象的。4人のバンドメンバーもいくつかも楽器を弾きこなし器用なところを見せる。面白かったのは全員がサンプラーとパーカッションを奏でるテクノ調ナンバー。ポップセンス溢れるメロディー以外は一風変わったアレンジの楽曲が多い。こんなキンキーなアーティストが大ヒットするのだから世界は面白い。王道ポップスもオルタナロックもヒップホップもすべて同列に混合したサウンドはまさにテン世代ならでは。世界の新たな胎動を感じさせるライヴだった。
▼世界No.1ヒット曲
▼映像センスが最高
モダンポップ
演るのも聴くのも
新世代
アデルもゴティエも日本では新進気鋭のレコード会社ホステス所属というのが興味深い。