A Challenge To Fate

私の好きな一風変わった音楽を中心に徒然に綴ったページです。地下文化好きな方は見てやって下さいm(_ _)m  

マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン@新木場 STUDIO COAST 2013.2.8 (fri)

2013年02月10日 00時33分36秒 | 素晴らしき変態音楽


My Bloody Valentine
JAPAN TOUR 2013

昨年のリマスター盤リリース以来マイブラおよびシューゲイザー周辺が異例の活況ぶりを見せている。ここ数年ビートルズ、ストーンス、クイーン、ツェッペリンで食いつないできた洋楽メディアでは何度もシューゲ特集が組まれムック本も複数出版された。前作から20年を過ぎたマイブラも「懐かしロック」に違いないが新世代ニューゲイザーやドリーム・ポップへの影響を考えると他のオヤジロックより断然若いリスナーに身近な存在である。実際アソビ・セクスやビーチ・ハウスなどその影響下にあるバンドの来日公演は2・30代の若者で満員でよく嘆かれる洋楽不況が嘘のような活況ぶりである。

その教祖としてマイブラへの注目度は急上昇。22年ぶりの単独公演は発売早々にソールドアウト、大阪・東京共に追加公演も決まった。また来日直前に突然オフィシャルサイトで新作の完成が発表されDL販売が開始されるという絶妙のタイミング。否応にも熱狂が高まりTwitterなどSNSでは賛否両論の盛り上がりを見せている。大阪から始まったツアーで入場者に耳栓が配布されたことも話題となり音楽サイトのライヴレポートはどれも絶賛。

かくいう私も90年代当時はさほど興味がなかったがこの盛り上がりに便乗する形で再発CDや関連書籍を買い集めブログでも何度か取り上げた。ツイートや雑誌記事を見ると90年代を体験した人と2000年以降後追いでファンになった人が混在し、体験派はブームの背景や影響を語り、後追い派は想像力を膨らませ如何に凄いかを説いている。どちらもマイブラを「伝説の存在」と讃えているのは同じ。捻くれ者は「ライドの方が人気があった」「ダイナソーJr.やソニック・ユースの方が凄い」「ライヴは下手だった」とムキになって反論する。個人的には初来日公演は観ていないし当時CDも買っておらず深い思い入れはないが、比較的マニアックな存在なので例えばキュアーやエコバニやオアシスやブラーを語るよりマイブラについて分析した方が面白いのは確かである。マイブラ以外のシューゲ系バンドの作品を聴いてみたが明らかにマイブラは異色である。同時代インディーロックやハッピーヴァレーと呼ばれていたバンドがどれも既存のロック・スタイルを継承しているのに対し、マイブラはヴェルヴェッツやジザメリの影響があるとはいえ音作りを含め過去の音楽を曲解し捩じ曲げた異形のサウンドを産み出している。シューゲの創始者として若いバンドから多大なリスペクトを得ているマイブラが実は「王道ではない」という事実は注目に値する。

[2/10追記:リリース当時余り評価されず(売れず)後に多大な影響力をもたらした異形の作品ということではヴェルヴェット・アンダーグラウンドの1stと同じである。「ラヴレス」のジャケットがしばしば模倣される現象も「バナナ」に似ている。他に再評価でこれほど影響力をもった作品・アーティストは思いつかない。]

そもそもロックンロール自体が黒人音楽の模倣と曲(誤)解により誕生したのだからマイブラへ憧れは当然のことだし揶揄するつもりは毛頭ない。しかし楽曲の本質を見抜くという意味ではあまたあるマイブラのカヴァーの中では先輩格の少年ナイフによるカヴァーが際立っているのは間違いない。





前日の小春日和が一転いきなり真冬の寒さが戻った冷風の中スタジオコーストへ向かう。会場前はコートを着込んだ若者でごった返している。やはり2・30代中心で男女比6:4。折角だからと普段は素通りの物販の列に並び3500円の質の悪そうなTシャツを購入。会場入口で紅色の耳栓をもらう。色は毎日変わるらしい。左手のテラスのステージ全体が見渡せる場所を確保。お一人様や二人連れの客が多いが会場で出会い意気投合したグループもチラホラ。徐々に客が増え開演10分前には満員。時折スタッフがステージを横切ったりバックスクリーンが光ったりするがニューウェイヴのBGMが流れる中皆平然と大人しく開演を待つ。

10分押しでオルゴール風のSEがPAから流れ客電が落ちる。大歓声に迎えられ4人のメンバーが登場。トレードマークのジャズマスターを構える。「ワンツー......、ハイ。」とMCして演奏スタート。新作も含めiPodで何度も聴いたので聴き覚えはあるが曲名は覚えていない。ギターの音が大き過ぎてヴォーカルが殆ど聴こえずほぼインスト状態。イントロでウォーッと歓声が上がるので人気曲だと分かる。彼らの曲の多くはギターの音量とテンポ以外は変化に乏しくかなり一本調子である。曲が変わってもテンションが同じで"Shoegazer=靴先ガン見"を意識しているのかフロントの二人は全く動かない。その分ベースとドラムが激しいアクションでハードなビートを叩き出し、音だけ聴くとMC5やストゥージズなどガレージロックの影響が濃いことが分かる。バックスクリーンには様々なパターンのサイケ映像が投射され音とシンクロして幻惑的な世界を産み出す。最近ゴティエ、EP-4 unit3、坂田明平家物語と素晴らしいライティング体験が続いているのでヴィジュアル効果の重要性を実感する。しかしメロディーの聴こえない演奏が1時間続くとちょっと飽きてくる。







そこへラスト・ナンバー「You Made Me Realise」投下。「ノイズ・ピット」「ホロコースト」と呼ばれる長時間のノイズ演奏に 突入することで知られる曲だ。数コーラス楽曲を演奏したところでノンビートになりノイズ放射スタート。さっきまでのダレた気分が一気に引き締まる。こりゃ尋常な音じゃない。ラリーズや灰野敬二、メルツバウ、非常階段など轟音ライヴは何度も経験しているので甘く見ていた。大スピーカーから放出される爆音は重量級の厚みで物理的に全身を襲う。震動が足元と耳から脳髄に伝わり頭蓋が共振する音響地獄。耳栓はこのためだと納得。この20分の為だけに8000円払ったといってもいい程の満足感を得ると共に、このメガトン級ノイズに2400人の観客が耐えた事実に感心する。久しぶりにライヴで耳鳴りが残った。アンコールは必要ない。バンドとしての力量はどうあれ20分間本気の演奏をしたことに拍手を送りたい。同時にこのノイズを嬉々として甘受するリスナーがこれほど多く存在することにノイズの未来の可能性を感じる。



<Set List>
1 I Only Said (Loveless)
2 When You Sleep (Loveless)
3 New You (mbv)
4 You Never Should (Isn't Anything)
5 Honey Power (EP)
6 Cigarette In Your Bed (EP)
7 Come In Alone (Loveless)
8 Only Shallow (Loveless)
9 Thorn (EP)
10 Nothing Much To Loose (Isn't Anything)
11 To Here Knows When (Loveless)
12 Slow (EP)
13 Soon (EP)
14 Feed Me When You Kiss (EP)
15 You Made Me Realise (EP)

シューゲ=(イコール)
ノイズではない
ドリーム・ポップ

マイブラは5月TOKYO ROCKS 2013で再来日する。野外スタジアムでのノイズ放射がどうなるのか楽しみだ。
コメント (2)
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