静岡と言えば、お茶?富士山?サッカー?うなぎパイ? 次郎長?楽器?バイク?....実は静岡は変態音楽のメッカかもしれない。
緊縛ピアニスト・上原ひろみ、浜松の轟音サイケ・UP-TIGHT、Shock Pop,Venom Rock・原子力牧場等のブログ常連たち。アメリカに飛び出した上原は別にして、地元で自らの音楽性を育む個性派である。東京と名古屋の中間に位置し、大阪からも日帰りできる、適度な距離感、楽器作りや鰻の養殖に適した温暖な気候と豊かな水。自給自足の居心地の良さを求めて大都市や地方から人と文化が流入し、ジモティとのアマルガム交配が進み、他には見られない独特のカルチャーが生まれた、と勝手に想像する。というのも筆者は就活で某大手楽器メーカーの面接のため日帰りで浜松を訪ねた以外、静岡県に滞在したことはないからである。
●UP-TIGHT×庭 『UP-TIGHT×庭-SPLIT CD-』
浜松の伝説的ライヴハウス「LUCREZIA」に何度も通っていた知り合いが数人いる。いつか連れてってケロ、と言っていたが、2011年4月に惜しくも閉店してしまった。LUCREZIAの店長だったUP-TIGHTのリーダー、青木智幸は浜松ZOOT HORN ROLLO、静岡騒弦を核に活動。そこでしばしば対バンしているのが、静岡で最もうるさいバンド、庭である。望月公喜を中心に2002年活動開始、数年の中断を経て2009年から本格再始動。自らのレーベルAXXE Recordsから様々なコンセプトのCDRを連続リリース。"日々音が変化するメンバー不定のノイズユニット"と自称する通り、望月以外のメンバーは流動的で、音楽性も多種多様。共通点は大音量で耳障りな騒音を含有すること。ちなみに静岡には望月姓が多いので要注意。
UP-TIGHTと庭、ジモティには浜松と静岡じゃ全然違うよ、と言われるのを覚悟で「静岡アンダーグラウンドの代表アーティスト」と呼びたい二者がスプリットCDを限定300枚でリリースした。EPサイズのポスタージャケに包まれた銀盤に庭9曲、UP-TIGHT1曲(5パートからなる長尺ナンバー)収録。The CORE of a boiling CHAOS=「沸騰するカオスの中心核」=庭の参加メンバーは望月(electro,vo)を始めシンセ、ギター、ベース、ドラム、ラップなど11名がクレジットされているが、サウンドは強烈なハーシュノイズとクラスター音響が渾然一体となり爆発するカオスの連続で、Play It Loudとの指示通りに再生したら隣近所から苦情殺到間違いなし。混沌の中からポエトリーリーディング・ラップが浮き出るトラックは新機軸。今までのCDRで提示された「あらゆる表現との接触によりその場その瞬間に存在する全ての事象をノイズとして肯定する」というプロパガンダが増殖していることが脅威的である。
UP-TIGHTのトラックは沈み込むダークなサウンドにリリカルなフレーズが漂う桃源郷サイケデリック。庭の影響か、ノイズ・ギターや効果音エフェクトが飛び交い、連打されるピアノがミニマルな浮遊感を醸し出す。ドローンもしくはポストロックっぽく聴こえるが、青木らしい文学的情感が篭められた狂気の淵に意識を染み込ませるのが正しい聴き方。
レコ発2マン・ツアーを是非とも体験されたし。
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●K2『311-365+1』
K2=草深公秀は静岡在住だが、がんセンターの医長という重職に就いて転勤しただけなので、庭と同郷と言うのは語弊があるが、おそらく自宅でレコーディングされたと思われるので、静岡の風土が多少なりとも影響している筈。タイトルから判る通り、3.11東北大震災と福島原発事故の被害者に捧げられた作品。曲のタイトルは「人の鎖」「沸騰」「原子力偏執狂への鎮魂歌」「毎時0.2ミリシーベルト」(0.2nSv/hとなっているが0.2μSv/hのプリントミスと思われる)「マスゴミに死を」。サウンドは残虐な音響脳外科手術と呼びたい情け容赦ない轟音ハーシュノイズの嵐で、ひとりで執刀しているだけに、コレクティヴノイズの庭以上に偏執狂的音圧が高い。はじまって15秒で脳幹が麻痺し、大脳皮質にメスを入れる準備完了。狂人とはいえ医者としての腕は確かだから、と諭されても人造人間キカイダーに改造されるジローの気持ちになってしまう。
限定50枚のCDRは2008年設立のイギリスのノイズ専門レーネルQUAGGA CURIOUS SOUNDSからのリリース。大震災の生写真付き。ジャケットのイラストは札幌在住イラストマシーン、Fumics Pyoshifumix。
K2が静岡アンダーグラウンドとリンクするようになれば面白い。
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お茶を飲み
サッカー観ながら
ノイズする
他生の縁で大阪の.es(ドットエス)と庭=望月公喜がリンクしたそうだ。大阪と静岡の交配に期待したい。