【ネクロ魔 瑳里ちゃんの地下音楽への招待 Vol.】ピナコテカレコード編
1978年、吉祥寺に開店した一軒のジャズ喫茶は、その一年後「Free Music Box」を名乗り、パンクよりもっと逸脱的(パンク)な音楽やパフォーマンスが繰り広げられる場となっていく──「Minor Cafe」として海外でも知られるようになったこのスペース、吉祥寺マイナーの“伝説”は近年とみにマニアたちの関心を惹くものとなった。
剛田武著『地下音楽への招待』帯より
吉祥寺マイナーは80年9月28日に閉店したが、オーナーの佐藤隆史は自主レーベル「ピナコテカレコード」を立ち上げ、マイナーに出演していたアーティストを中心に、当時のパンク/ニューウェイヴとは異なる視点で東京の新しい音楽潮流をレコードとカセットテープでリリースした。余りに個性的な音楽自体は勿論、妻の渡辺敏子と二人で家内工業のように制作した作品の手作り感あふれる装丁も素晴らしい。3年余りと短命ではあったが、日本地下音楽の理想型とも言える重要レーベルである。
『愛欲人民十時劇場』
Pinakotheca - PRL#1 (1980)
記念すべき第一弾。マイナー閉店まえの数ヶ月間夜の十時から開催されたシリーズライヴ「愛欲人民十時劇場」の出演アーティストのライヴ音源を収録(十時劇場以外のライヴ音源も含む)。参加アーティスト:白石民夫/佐藤隆史、ヤタスミ、石渡明広、篠田昌巳/ハネムーンズ(佳村+天鼓)/インテンション(横山宏+芝淳子)/板橋克郎+吉沢元治/ガセネタ/灰野敬二/ヴェッダ・ミュージック・ワークショップ/キノ/田中トシ+五井塚良+ニシャコフスキー/マシンガン・タンゴ(工藤冬里+菅波ゆり子+小沢靖+白石民夫+ヤタスミ+佐藤隆史)。有名無名/ジャンル分け不能な異端音楽の奔流は、地下音楽の豊穣な息吹に満ちている。おまけとして乾燥ウ●コが入っていることは瑳里ちゃんには内緒にしておこう。
山崎春美グループ from 愛欲人民十時劇場
NORD 『NORD』
Pinakotheca - Nord #1 (1981)
及川洋と片山智によるノイズデュオ。NORD(北)というバンド名はセリーヌの小説に由来し音楽の極北を目指す意味もある。日本で最初のノイズアルバムといわれる『NORD』のギターとシンセとリズムボックスとエフェクトによる強迫的な轟音は、スロッビング・グリッスルやキャバレー・ヴォルテールなど海外のノイズ/インダストリアルとシンクロしたが、より秘境的な雰囲気が呪われそうな恐怖を誘う。ちなみにジャケットはアウシュヴィッツ収容所で焼かれた胎児の写真。
Nord - Labyrinthe
⇒片山智(NORD)インタビュー:瞑想と見果てぬ夢の内なるサイケデリアを求める地下音楽の先駆者
灰野敬二 『わたしだけ?』
Pinakotheca - PRL#2 (1981)
現在も日本を代表するアーティストとして海外でも高く評価される灰野敬二のデビュー作。レコーディングは二日で完了したが、フォトグラファー佐藤ジンが手がけたジャケット写真に1年かかったという伝説がある。ジャケットも盤面も歌詞カードもすべて黒で統一された漆黒のイメージそのままのギターの弾き語りは、灰野によると「コンテンポラリー・カントリー・ブルース」。去年アメリカで再発されたアナログ盤のジャケットは当時実現できなかった金刷り。瑳里ちゃんに斧の代わりに「金のジャケ/銀のジャケ」をやってもらいました(メイン写真)。
灰野敬二 - うまくできない
⇒灰野敬二インタビュー:デビュー・アルバム『わたしだけ?』を語る
コクシネル 『ライブ』
Pinakotheca - PR17#2 (Apr.1981)
ピナコテカの手作りならではの三角ジャケット。7インチEPと三角形の歌詞カードが入っている。コクシネル(Cock C'Nell)は、野方攝(Vo.Syn)と池田洋一郎(G)を中心とする4人組ロックバンド。凛とした女性ヴォーカルが歌う清廉なメロディが印象的。地下音楽には魅力的な女性アーティストが多い。ジャケットを見て「わあ面白い」と微笑んだ瑳里ちゃんも負けずに素敵です。
一分間 コクシネル
グランギニヨル 『GRAN GUIGNOL』
Pinakotheca - PRL#9 (1982)
吉祥寺マイナーに早くから出演していたロックバンド「グランギニョル」唯一の作品。初期は暗黒舞踏を思わせる白塗りで猟奇的なライヴをしていたというが、アルバム録音時には割と普通のロックバンドに変わっていた。そのため初期を知る人には「これはグランギニョルではない」と評判が悪いが、素直に聴けば捻くれたポップなサウンドは完成度が高く、同時代の日本のニューウェイヴよりずっと面白い。瑳里ちゃんは薄いビニールに天使が印刷されたジャケットを気に入った様子。
タコ 『TACO』
Pinakotheca - PRL#10 (1983)
ピナコテカレコード最大のヒット作にしてレーベル最後のリリース。山崎春美と白石民夫を中心に流動的なメンバーで活動していた即興ロックバンド「タコ」の1stアルバム。制作前に白石が脱退し、山崎が坂本龍一、細川周平、町田町蔵、香山リカなどサブカル系/マイナー系ミュージシャンを集めて制作された企画アルバム。差別に触れる歌詞があったため発売中止になり、それがピナコテカ閉業のきっかけになったと言われている。花輪和一によるジャケットと瑳里ちゃんのツーショット写真を撮影しました。
Taco / 嘔吐中枢は世界の源
ピナコテカ
地下音楽の
源泉湯
▼Specific Recordingsは現代のピナコテカレコードかも。