High Rise / High Rise II
LP : Black Editions BE-002/002
Asahito Nanjo :b, vo
Munehiro Narita :g
Dr. Euro :ds
Side A
1 Cycle Goddess
2 Turn You Cry
3 Cotton Top
4 Last Rights
Side B
1 Wipe Out
2 Pop Sicle
Words by Asahito Nanjo
Music by High Rise
Recorded at Jam Studio Tokyo, 1986
Recording Engineer - Kazuteru Hama
Mixed by - Asahito Nanjo
Produced by - Asahito Nanjo
黒き住処に女神は舞い降りぬ
パンクすきな高校生だった筆者は一浪して1982年に大学に合格した頃にはアヴァンギャルドやフリージャズ、そしてサイケデリックを愛聴していた。『Pebbles』や『Nuggets』などのコンピと共にPsychoとEvaの二大サイケ再発レーベルのレコードを熱心に聴いていた。自分のバンドではネオ・サイケ風のオリジナル曲を作り、ファズとWOWOWで真似をしていたのはジミヘンではなくTerry Brooks & The Strangeだった。大学3,4年の頃音楽雑誌(『Marquee Moon』だと記憶していたが、その頃にはプログレ専門誌になっていて日本の地下音楽をレビューするとは思えないので『Fool's Mate』か別の雑誌かもしれない)のレビューでHigh Riseの1stアルバム『Psychedlic Speed Freaks』を最高のサイケと絶賛していたので、日本にも本格サイケが登場したかと気になって買いに行った。その当時はすでに明大前モダーンミュージックに時々行っていたはずだが、Hsigh Riseを買ったのは下北沢V-SCENEというレコード店だった。聴いてみたら、確かに歪みまくった音色はテリー・ブルックスに通じるが、ひたすら早弾きを続けるギターと爆音で突進するリズムセクション、メロディすら聴き取れないヴォーカルは期待していた酩酊感や陶酔感はなく、ハードコアパンクと同じ覚醒感があるだけに思えた。
当時サイケの専門家?たちは、上っ面のサウンドエフェクトやギミックに惑わされることなく、内面の狂気こそ本当のサイケデリックだと見抜かなければ意味がないと諭すように語らっていた。生悦住英夫がことあるごとに例を出したのはサンフランシスコのThe Charlatansの話。普通のアメリカン・ロックに聴こえるが、何度も聴けば内面に潜んだ本物のサイケデリアを理解できるはず。それと同じ意味合いでHigh Riseの覚醒した爆音も紛れもない本物のサイケデリックなのだろう。LIVE RECORDING BOOTLEG ALBUMと銘打ったのも納得のレアなレコードだとはわかっていたが、聴き返すことは滅多になかった。80年代半ば〜90年代前半の筆者は、自分のバンドの対バン以外の日本のバンドを観に行くことはほとんどなかったので、ライヴで本領発揮するHigh Riseの生演奏を経験したことは無い。21世紀に入って地下音楽の世界に舞い戻った後、後継バンドのGreen Flamesや成田宗弘のギターソロ演奏を何度か観て、往年のHigh Riseのステージに想いを馳せるばかりであった。
⇒灰野敬二、藤掛正隆、成田宗弘他@東高円寺UFO CLUB 2010.8.6(fri)
⇒>GREEN FLAMES/シベールの日曜日他@高円寺ショーボート 2011.9.15(thu)
⇒ボーカロイドはサイケデリックなスピード狂の夢を見るか?~ハイライズとグリーン・フレームス
High RiseのCD/LPは西欧のレーベルから続々発売されたが、PSFからの正規のアナログ盤は『Psychedelic Speed Freaks』(84)と2nd『High Rise II』(86)の2作のみ。その2作目がBlack Editonsからアナログ盤でリイシューされた。オリジナル盤は聴いたことが無いので比較しようがないが、レベルオーバーの歪みのために低音域やギターのエッジまで曖昧になってしまった1stに比べ、音の迫真性はそのままに、重量感と切れ味が鮮烈に刻まれたサウンドは、例えば大阪の奇跡と呼ばれたサバート・ブレイズと比べても遜色がないばかりか、過剰な疾走感とギターの音数は、ある意味でギネス記録に迫るほどの見境のない狂気に貫かれている。歌メロや声質も魅力的で、80年代ポストモダン時代の地下に咲いた暗黒の花の威容を30年の月日を超えて目の当たりにすることが出来る。
蛇足でしかないが、当時就職して2年目の87年に筆者が借りて住んでいた大叔父所有のマンションは「石川台ハイライズ」という名前だった。4LDKひとり暮らしの部屋で毎晩奏でたギターの歪んだノイズは人生で最もサイケに振り切れた瞬間だった。『High Rise II』を聴く度に、サイケの桃源郷に舞い降りる覚醒した女神の幻影が頭の中を駆け巡る。
ハイライズ
天国近くに
棲む処
⇒Black Editions Websiteで限定スペシャル・エディション(スプラッター・シルヴァー・クリア・ヴァイナル+High Rise "Tapes"カセットテープ付き)が購入できる。