浜名史学

歴史や現実を鋭く見抜く眼力を養うためのブログ。読書をすすめ、時にまったくローカルな話題も入る摩訶不思議なブログ。

森崎和江の文

2012-01-20 13:43:24 | 日記
 昨日、図書館から『いのちへの旅』(岩波書店)を借りた。しかしどうも、森崎の文と相性が悪いと分かった。

 森崎の『からゆきさん』(1976年)は読んだことはあるが、こういうエッセイめいたものははじめてだ。

 森崎は詩人だという。だからなのか、文が時空を越えてあちらこちらに飛翔する。こういう文に、私はついていけない。

 ぱらぱらと後を拾い読みする。森崎の交友関係が記されている。しかしそれにいかなる意味があるのだろうかと思ってしまう。

 また不可思議な文と、ときにぶつかる。たとえば、「現在の世界情況は前世紀の強者支配の文明へと、きしみつづけている。その物質化による自然界への影響は、そして個々の身体や心理上の不安定さも、世代を超えた共通の問題であると、痛感させられている。」という文。前後にこれを説明するものはない。

 主観的そのものの文である。詩人だから・・・?

 しかし、書かれた文というのは、他者に理解されてこそ生きるのではないか。これでは、自分が自分自身だけに向けて表出されたことばを綴っただけにすぎないのではないか。

 おそらく、森崎の文を以後読むことはない。理解力がない私には、あまりに高等な内容だ。
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色川大吉『昭和へのレクイエム』(岩波書店)

2012-01-20 08:38:22 | 日記
 昨日借りた『昭和へのレクイエム』を読み終えた。昨日、その途中までを紹介した。

 次の項目は、1981年の自由民権百年全国集会について書かれている。私は、静岡でのこの集会に主催者側の一員として関わり、さらに全国集会にも参加したので、たいへん興味深く読んだ。

 この集会開催について、色川氏が八面六臂の活躍をされていたことを、もう一度再認識した。この集会に間に合わせようと『自由民権』(岩波新書)を刊行し、全国各地の自由民権運動研究、顕彰の動きに参加し、全国集会では主催者として関わられた。氏の存在なくして、この頃全国各地で推し進められた自由民権運動研究・顕彰はありえなかっただろう。色川氏は、研究者だけではなく、組織者としても、活動家としても、一級の人間である。

 現在のような時代閉塞の状況を打破するためには、もう一度自由民権運動の掘り起こしに取り組む必要があるのではないかと思う。というのも、中江兆民、植木枝盛など頂点的な思想家だけではなく、この頃在野でつくりあげられた憲法草案などをみると、100年以上経過しても実現していないことがたくさんあるからである。

 さてこの本のおもしろいところは、至る所に、人物評がさらっと書かれていることだ。大石嘉一郎氏については「周到で手際よい鋭利な総括」、「何という頭脳であろうか。この明晰さと、この緻密さに学ばなくてはならない」。大石氏の著書も同様である。その明晰さと完璧さ。家永三郎氏、「内容は平凡だが、その話し方、その情熱、その史実の紹介と論理の運びは見事というほかない」。家永氏の話を何度か聴いたことがあるが、情熱的で、内容をびしっと決める。色川氏の言うとおりである。

 私は歴史を研究する中で、その著書だけという場合もあるが、すごい頭脳をもった研究者に何人にも会っているが、その知性、明晰さ、論理性など、私にはとても追いつけないことを知った。自分よりもすごい人間がたくさんいるという自覚は、私にとって努力するエネルギーにもなったし、さらに謙虚さを持つことの大切さをも教えられた。私が個人的にお会いした第一級の研究者は、ほとんどがきわめて謙虚で、常に他者から学ぶ姿勢を堅持しておられる。私のほうが恐縮してしまうほどだ(私の最後の職場の人間には、自らを最高の人間だと錯覚していた人々がたくさんいたなあと思う。彼らの傲慢さには辟易した。第一級の人間を、おそらく知らないのだろう)。

 人物評で驚いたのは、鶴巻孝雄氏ら、東京経済大学の色川ゼミのOBに対する評価である。鶴巻、新井勝紘氏など、「五日市憲法草案」を発見したメンバーで、その後研究者の道を歩んだ。私の認識は、彼らは色川氏の弟子、というものである。ところが、彼らが色川氏に「反抗」したことが、ここに書かれている。謙虚さを失った鶴巻氏らの言動を知り、ある意味納得したところもあった。

 次が「日本はこれでいいのか市民連合」のこと。これにも私は少し関わった。だからこれもおもしろかった。

 なお最後に司馬遼太郎評。「非常に才気のある作家だけれど、兵士や人民の視点を欠いた英雄史観の限界によって損をしている」。そしてこういう格言を司馬に重ねる。「名声は川のようなもので、軽くてふくらんだものを浮かべ、重くてがっしりとしたものを沈める」。


 
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