浜名史学

歴史や現実を鋭く見抜く眼力を養うためのブログ。読書をすすめ、時にまったくローカルな話題も入る摩訶不思議なブログ。

【本】宮里良子『生まれてはならない子として』(毎日新聞社)

2012-10-10 17:38:24 | 日記
 ハンセン病と診断された両親をもつ宮里さんがみずからの人生を綴ったもの。今日図書館から借りてきて、すぐに読んでしまった。

 ハンセン病者は、日本では、国家による差別・迫害が長い間行われてきた。強制隔離がそれである。ライ菌は、近代日本ではおそるべき細菌ではなく、そう簡単に感染するものでもなかった。しかし国家は、ハンセン病者をみつけたら療養所に送り込み、子どもができないように断種するなど、人権侵害を平然と行ってきたのだ。

 国家が、公的に差別迫害するとどうなるか。多くの国民も、ハンセン病を恐ろしい病気と認識させられ、差別・迫害する側に立った。

 となると、家族にハンセン病の症状が発見されたとき、その家族はどうなるか。発症したものだけではなく、他の家族も差別・迫害の対象とされるのである。

 宮里さんも、その対象とされたのであった。宮里さんの受けた差別・迫害は、尋常なものではなかった。しかしそのなかで、生きていかなければならない。真実を語れないままに、社会の中で生きていかざるを得ない日々。その苦しさが、この本にほとばしる。自分を偽り、他人に虚偽を語る、そうせざるをえない自分自身の生そのものに耐える生活。

 私は、宮里さんだけではなく、ハンセン病者の家族が、同じような過酷な状況に追い込まれていたと思う。

 そう思うと、国家のハンセン病対策の犯罪性を糾弾せざるを得ない。

 本書は、宮里さんの生の軌跡をたどりながら、他方でそういう生を強制した国家の犯罪性を浮かび上がらせる。

 ハンセン病を語る上で、読んでおかなければならない本だと思う。


 
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和泉真蔵さん

2012-10-10 06:35:23 | 日記
 “静岡県におけるハンセン病史”を研究しようと、今準備を進めている。ハンセン病関係の本を次々と読んでいるが、ハンセン病に関わる人々の中に、善良で正義感があり、誠実で勇気のある、それでいて謙虚さをもった人がいて、本当に人間って信じられる存在なのだとおもう。

 そのなかの一人に、和泉真蔵さんがいる。ハンセン病研究と治療に長年携わってきた方だ。和泉さんがかかれた『医者の僕にハンセン病が教えてくれたこと』(CBR)を今読み終えたところだ。この本は和泉さんがどういう人生を送ってきたか、なぜハンセン病治療と研究に従事してきたか、またハンセン病の国賠訴訟で原告側証人としてどのような証言をしたのか、今どういう研究をしているかなどが書かれている。

 日本のハンセン病史における絶対隔離がいかに誤った犯罪的な政策であったか、その政策を是正する学説や実態があったにもかかわらず、それを無視して隔離を続行したことに対する和泉さんの怒りが本書や裁判での証言や書証で明らかにされているだけでなく、和泉さんは現在のハンセン病対策を、疫学的調査研究から修正しようとしてる。

 ハンセン病を引き起こすライ菌の研究は途上にあることがよくわかる。「世界のハンセン病対策は、未治療の多菌型患者が唯一の感染源」として考えられているが、それだけではなく、環境中にライ菌が存在し、それに何らかの形で感染するのだと、和泉さんは指摘する。

 日本ではすでにハンセン病は退治したが、インド、ブラジル、インドネシアなどではまだまだたくさんの患者が発生している。ハンセン病を克服するために、和泉さんはインドネシアで研究を進めている。

 本書の最後のことばを引用する。

 数千年前に日本列島に侵入したハンセン病は、皮膚と末梢神経を侵すという医学的特徴のために、偏見や差別を生み、肉体的のみならず社会的にも人びとを苦しめてきた。しかし、その長い歴史もまもなく終わろうとしている。1世紀になんなんとするわが国の誤った近代ハンセン病対策は、数万の患者と家族に言語に絶する未曾有の「人生被害」をもたらしたが、被害者たちは「国賠訴訟」に勝利して、病気や障害を理由に人間が人間を差別することのない新しい日本社会への扉を開く偉業を成し遂げた。そしてその成果を、地球的規模で人類をハンセン病の病苦から解放する事業に活用している心の優しい人びとがいる。やがてこの闘いは周辺諸国にも波及し、北東アジア地域において、社会的弱者の人権を守る国際的な運動に発展しつつある。
 ハンセン病は、専門医である私に医の基本を教え、社会の中の少数者と共に生きる喜びを教えてくれた、かけがえのない教師であった。
コメント (1)
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