浜名史学

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【本】井上勝生『明治日本の植民地支配 北海道から朝鮮へ』(岩波書店)

2013-11-05 20:40:58 | 読書
 学者としての、いや人間としての良心が原動力となった研究の軌跡がここには記されている。

 著者は、幕末・維新史の研究者である。勤務している北海道大学から、1894年の朝鮮半島起こった東学党の乱、その指導者のものだと記された頭蓋骨が発見された。なぜ北海道大学にあるのか、どういう経緯で朝鮮半島から持ち出されてきたのか。

 それらを追求する中で、東学党の乱は、日清戦争前の第一次と、日清戦争中の第二次があり、第二次東学党の乱に対して、日本軍が、徹底的な殺戮作戦をおこなったということがわかってきたのだ。

 大本営は、東学の農民たちの殲滅を兵士たちに命じた。その結果、日清戦争中の死亡者は、朝鮮人がもっとも多くなった。兵士たちは、拷問し、焼殺し、家を焼き払った。すさまじい殺し方だ。実際に従軍した兵士の「陣中日誌」はその事実を赤裸々に示している。

 東学党殲滅作戦に動員された兵士たちは、四国の貧しい兵士たちだ。その兵士たちが、朝鮮半島で農民たちを惨殺する。

 筆者である井上氏は、こうした事実を明らかにすべく、殲滅戦が行われた現場に立つ。そして韓国の研究者らと緻密な調査を行う。

 その韓国の研究者たちの心の底にある、憤怒を、井上氏は感じる。その憤怒を、井上氏の良心が受け取り、いかなる者も否定できないような研究にまで押し上げる。

 それだけではない。なぜ北大にという疑問も解き明かそうとする。札幌農学校をめぐる人間像が浮き彫りにされる。そこには、内村鑑三、有島武郎、新渡戸稲造らが登場する。共通項は「殖民学」である。新渡戸は「文明」の側に立ち、アイヌを、朝鮮を徹底的に差別する。

 有島は、父が北海道に繰り広げた薩摩出身の利権官僚(北海道開拓使の黒田清隆も薩摩である!)であるが、有島は「殖民学」に批判的な立場をとる。

 もちろん「殖民学」に心酔する者もでてくる。札幌農学校出身者が、朝鮮で植民者として「活躍」する。そのなかで、東学党の「首魁」の頭蓋骨を持ち出してくるのだ。

 本書は、以上にあげた事実をきちんとした史資料をもとにして明らかにしただけではなく、学問的良心にもとづく研究の方法を示している。

 ボクは、有島も、新渡戸もほとんど読んでいないこと気づく。恥ずかしいことだ。そしてアイヌ民族共有財産裁判も知らなかった。

 過去の日本の不正義だけではなく、現代の不正義にも、しっかり眼を向けなければならないと痛切に思った。

 本書は、昨日の新幹線の往復と、農作業の後の疲労回復のための読書により読み終えることができた。明日、最後の歴史講座である。テーマは「戦争」。そこで展開される話の照準は、安倍政権に向けられているはずである。
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