かつて映研に籍を置いていた人間とはとても思えないようなことですが、実に10年ぶりに映画館へ行ってきました。午前中に話題のアバターを観て、その後1時間半ほどの間をおいて表題のインビクタスを鑑賞するという少々ハードなスケジュール。
27年に及ぶ投獄生活から釈放され、1994年に南アフリカ大統領に就任したネルソン・マンデラは民族協調と和解を呼びかけ、アパルトヘイト撤廃後の黒人と白人が団結した新しい国家建設を目指します。そして国の団結と将来への希望を象徴するものとして、1995年に南アフリカで開催されたラグビーW杯における南アフリカ代表、スプリングボックスの優勝に期待を寄せます。
ラグビーは南アフリカで最も盛んなスポーツの一つですが、白人によるスポーツと見なされ、当時の南アフリカの黒人にとってスプリングボックスは「アパルトヘイトの象徴」でした。そのスプリングボックスは、アパルトヘイトに対する国際的非難の高まりにより国際試合から締め出され、弱体化していました。黒人政権の誕生で被支配層に転落することを恐れていた白人にとって、スプリングボックスの弱体化はやはり自分たちを象徴する存在であったかもしれません。
注)先日Jスポーツで1995年のW杯決勝を再放送していましたが、実際のスプリングボックスは92年の対外試合復帰後、かなりチーム状態を回復し、優勝候補の一つとなっていたようです。ただし、当時のオールブラックスが圧倒的に強かったことは事実です。
マンデラ大統領は自国で開催されるW杯を機に、そんなスプリングボックスを国を挙げて応援することで、新政権が目指すものが白人に対する復讐でも黒人による独裁でもなく「人種間、民族間の協調と団結による一つの祖国」であることを示そうとします。そして主将のフランソワ・ピナールとスプリングボックスも「チームと祖国の団結」によってW杯の優勝を目指します。そして、雨中の準決勝ではフランスを19vs15、決勝では圧倒的な攻撃力を誇るニュージーランドを15vs12で破り、奇跡的とも言える優勝を成し遂げるのです。
1995年、南アフリカW杯ダイジェスト
ジョナ・ロムー
↑
映画中でもスプリングボックス最大の脅威として登場するニュージーランド、オールブラックスのジョナ・ロムー選手(当時20歳)。当時の映像に見る、その圧倒的なスピードとパワーは映画以上の迫力です。
映画では政府職員に柔らかい口調で"Sir"と呼びかける謙虚な物腰。黒人主体の国家スポーツ評議会がスプリングボックスのチーム名とエンブレムを廃止しようと決定した時、自ら説得に赴いて彼らを不承不承ながらも納得させてしまう信頼感。静的だが己の信じる道に対する確固たる意思を感じさせるマンデラ大統領のカリスマ性を名優モーガン・フリーマンが見事に表現しています(フランソワ・ピナールを演じたマット・デイモンも良かったです)。
27年もの間投獄生活を強いられていた人間が権力の座について、復讐ではなく「赦しと和解」を訴えるなど並の人間にできることではないと思います。しかもそれは薄っぺらな博愛主義などではなく、そうすることが唯一、南アフリカを発展させる手段であるというプラグマティクな認識にもとづいていたがゆえに長年虐げられてきた大多数の黒人から(心から納得はしていなかったでしょうが)支持を得られたのでしょう。
実際、マンデラが投獄された1960年代初め、アフリカでは多くの国が植民地からの独立を果たしましたが、それらの国々で次に起こったことは軍事独裁政権による大虐殺であったり、あるいは黒人同士による泥沼の内戦といった状態でした。マンデラは恐らくそういったアフリカの実情をつぶさに観察し、一方獄中という極限生活の中で自らを鍛え、復讐心を律して、祖国が発展するためには黒人と白人が和解し、団結するしか方法はないとの結論に至ったのではないかと思われます。
それはマンデラが獄中で心の支えにしていたという詩、”INVICTUS(インビクタス)”の中に表れています。
激しい怒りと涙の彼方には
恐ろしい死だけが迫る
しかし、言うは易けれども行うは難しです。映画でも描かれているように、マンデラの主張は実の娘でさえ受け入れることができていませんでした。それでも揺るぎない確固たる信念は、同じく”INVICTUS(インビクタス)”の中でこう表現されています。
私は我が運命の支配者
我が魂の指揮官なのだ
マンデラ大統領が直面したのとは比べようもないほど小さな課題であってさえ、このような揺るぎない精神を保つことは難しい。それが僕の現実であるからこそ、なおさら映画に感動しました。もう一度観に行きたいですね。
繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした![](https://blogimg.goo.ne.jp/img_emoji/ny_kimono_m.gif)
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27年に及ぶ投獄生活から釈放され、1994年に南アフリカ大統領に就任したネルソン・マンデラは民族協調と和解を呼びかけ、アパルトヘイト撤廃後の黒人と白人が団結した新しい国家建設を目指します。そして国の団結と将来への希望を象徴するものとして、1995年に南アフリカで開催されたラグビーW杯における南アフリカ代表、スプリングボックスの優勝に期待を寄せます。
ラグビーは南アフリカで最も盛んなスポーツの一つですが、白人によるスポーツと見なされ、当時の南アフリカの黒人にとってスプリングボックスは「アパルトヘイトの象徴」でした。そのスプリングボックスは、アパルトヘイトに対する国際的非難の高まりにより国際試合から締め出され、弱体化していました。黒人政権の誕生で被支配層に転落することを恐れていた白人にとって、スプリングボックスの弱体化はやはり自分たちを象徴する存在であったかもしれません。
注)先日Jスポーツで1995年のW杯決勝を再放送していましたが、実際のスプリングボックスは92年の対外試合復帰後、かなりチーム状態を回復し、優勝候補の一つとなっていたようです。ただし、当時のオールブラックスが圧倒的に強かったことは事実です。
マンデラ大統領は自国で開催されるW杯を機に、そんなスプリングボックスを国を挙げて応援することで、新政権が目指すものが白人に対する復讐でも黒人による独裁でもなく「人種間、民族間の協調と団結による一つの祖国」であることを示そうとします。そして主将のフランソワ・ピナールとスプリングボックスも「チームと祖国の団結」によってW杯の優勝を目指します。そして、雨中の準決勝ではフランスを19vs15、決勝では圧倒的な攻撃力を誇るニュージーランドを15vs12で破り、奇跡的とも言える優勝を成し遂げるのです。
1995年、南アフリカW杯ダイジェスト
ジョナ・ロムー
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映画中でもスプリングボックス最大の脅威として登場するニュージーランド、オールブラックスのジョナ・ロムー選手(当時20歳)。当時の映像に見る、その圧倒的なスピードとパワーは映画以上の迫力です。
映画では政府職員に柔らかい口調で"Sir"と呼びかける謙虚な物腰。黒人主体の国家スポーツ評議会がスプリングボックスのチーム名とエンブレムを廃止しようと決定した時、自ら説得に赴いて彼らを不承不承ながらも納得させてしまう信頼感。静的だが己の信じる道に対する確固たる意思を感じさせるマンデラ大統領のカリスマ性を名優モーガン・フリーマンが見事に表現しています(フランソワ・ピナールを演じたマット・デイモンも良かったです)。
27年もの間投獄生活を強いられていた人間が権力の座について、復讐ではなく「赦しと和解」を訴えるなど並の人間にできることではないと思います。しかもそれは薄っぺらな博愛主義などではなく、そうすることが唯一、南アフリカを発展させる手段であるというプラグマティクな認識にもとづいていたがゆえに長年虐げられてきた大多数の黒人から(心から納得はしていなかったでしょうが)支持を得られたのでしょう。
実際、マンデラが投獄された1960年代初め、アフリカでは多くの国が植民地からの独立を果たしましたが、それらの国々で次に起こったことは軍事独裁政権による大虐殺であったり、あるいは黒人同士による泥沼の内戦といった状態でした。マンデラは恐らくそういったアフリカの実情をつぶさに観察し、一方獄中という極限生活の中で自らを鍛え、復讐心を律して、祖国が発展するためには黒人と白人が和解し、団結するしか方法はないとの結論に至ったのではないかと思われます。
それはマンデラが獄中で心の支えにしていたという詩、”INVICTUS(インビクタス)”の中に表れています。
激しい怒りと涙の彼方には
恐ろしい死だけが迫る
しかし、言うは易けれども行うは難しです。映画でも描かれているように、マンデラの主張は実の娘でさえ受け入れることができていませんでした。それでも揺るぎない確固たる信念は、同じく”INVICTUS(インビクタス)”の中でこう表現されています。
私は我が運命の支配者
我が魂の指揮官なのだ
マンデラ大統領が直面したのとは比べようもないほど小さな課題であってさえ、このような揺るぎない精神を保つことは難しい。それが僕の現実であるからこそ、なおさら映画に感動しました。もう一度観に行きたいですね。
![]() | 自由への長い道―ネルソン・マンデラ自伝〈上〉ネルソン マンデラ日本放送出版協会このアイテムの詳細を見る |
繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした
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