11月8日、第8回ネゴシエーション研究フォーラムに参加してきました。
今回の講師は、東京大学公共政策大学院特任准教授、松浦正浩様。「交渉学からみた社会的合意形成」と題し、交渉学が公共政策でどのように使われているかについてご講義いただきました。
松浦先生の専門は都市工学。マサチューセッツ工科大学で公共政策における紛争を解決するための手段としての交渉学、合意形成の研究をされました。
さて、公共政策における交渉について理解するには、はじめに民間のビジネス交渉とは異なる、公共政策特有の前提をおさえておかなければなりません。その前提とは、
・ステークホルダーが多様かつ曖昧であること
・フリーライダーの存在、外部不経済のリスク
・ガバナンスが必要
・不確実性が高い
・公正性・倫理が絡む
以上を踏まえた上で、立場ではなく利害に着目することで合意形成の糸口を探っていくという点では、それが国家間の交渉であれ、自治体と住民との交渉であれ、民間ビジネスの交渉と同じです。
次に交渉学からみた、公共政策における合意形成について。ここでの「合意形成」とは、関係者による多者間交渉による「共存策」の模索をいいます。自治体政策を例にとると、かつて自治体が政策実施にあたりステークホルダーを巻き込む手法は「市民参加」といって、自治体が住民の多様な意見を聴取するという一方通行のものでした。しかし、一口に住民と言っても立場や意見が様々であり、この方法では合意が困難であるという欠点がありました。そこで今ではステークホルダー間の利害調整を交渉によって行う「協働ガバナンス」(以下、協働)という手法が取り入れられています。
協働は、発議→計画・検討→実施→事後評価という、民間でいうPDCAサイクルと同じプロセスを辿ります。また合意形成までの行程は、計画策定→目標設定→代替案と評価項目の設定→代替案の比較評価→推奨案の選定というステップで進められます。これは一般の交渉プロセスと基本的には同じです(参考:「沼津高架PIプロジェクト・PI実施計画(静岡県)」)
協働においては、ステークホルダー同士が直接対話することにより、全てのステークホルダーが受諾できる合意(コンセンサス・ビルディング)を見つけてもらいます。その際、自治体(第三者機関の場合も)の役割は、対話や利害調整を効率的に行うためのファシリテーター(状況によっては積極的介入を行うメディエーターである場合も)になります。その際、完全にとはいかないまでも、中立性をいかに担保するかが問題となります。
さて、限られた時間の中の非常に駆け足の講義だった訳ですが、交渉学の基本から社会的合意形成に至るまでの解説は、先生の新著にまとめられています。
実践!交渉学 いかに合意形成を図るか (ちくま新書) | |
クリエーター情報なし | |
筑摩書房 |
最後にお話の中で印象に残ったことをひとつ。交渉にはその国の文化や慣習が強く影響すると思いがちですが、先生が日米両国で得られた経験によると、交渉により強い影響を与えたのは文化的差異よりも国ごとの制度的差異だったということです。
繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした
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