11月3日、日本筆跡心理学協会の「第8回筆跡アドバイザーマスターズ研究会」に参加してきました。昨年の再開以降、年に1度の筆跡アドバイザーマスターによる勉強会です。全国各地からマスターが集い、それぞれどのように筆跡診断を活用し、また普及のためにどのような工夫をされているのかが共有できる大変貴重な機会であり、ずっと楽しみにしていました。
初めに、同協会会長の根本先生より近況のお話がありました。一つの興味深い事例として、黒板に板書する時の音と筆跡との関係について、地方の高校生から問い合わせがあったということです。これについて確かな研究結果があるわけではありませんが、そうした素朴な疑問についても関連の有無にかかわらずまず受けてみることが大事。それによって自分にとっても新しい視点が加わることがあるというお話でした。
続いて筆跡・印影鑑定人の柳谷さんからは、筆跡鑑定(このブログに掲載されている「筆跡診断」とは異なります)の現場についてのお話がありました。筆跡診断以上に、鑑定は人の人生を左右してしまう可能性があり、責任の重い仕事だと思いました。
マスターによる事例発表。一人目は静岡県から笹川俱充さん。静岡県で筆跡アドバイザーはまだ少なく、普及のためご活躍されています。キャリアカウンセラーとしてのお立場から、藤枝市の労働衛生講習会でお話しされた事例としては、「一日一筆のメンタルヘルス」ということで、「書く」=「今に集中すること」と捉え、過去にとらわれたり未来に恐怖したりするのではなく、今を生きる一助として筆跡を捉えられている視点が勉強になりました。職場で問題を起こしがちだったある女性の字を診たところ、大学ノートの罫線3行ぐらいの字を書いている。これを1行に収めて書くようにアドバイスしたところ、練習の結果周囲が見られるようになり、職場内の人間関係が改善したというフィードバックが得られたというお話は、「書く」という行為が及ぼす影響を示す興味深いものでした。
筆跡診断に関心を持ってもらう入口としては、歴史上の偉人の筆跡を取り上げ、皆さんに誰の筆跡かを考えてもらったり、代表的な「口」という字で心理的側面の一端に触れていただくなどの工夫をされているそうです。また、採用支援では経験上「ハネ」を重視されているそうですが、これは僕自身の経験とも合致していました。
二人目は、大阪府から本山裕子さん。ご自身だけでなく、今年発足した近畿で活躍されているマスターの集まりで共有された事例も併せてお話しいただきました。特に印象に残ったのは、笹川さんと同様、筆跡が及ぼす心身への影響についてです。家庭環境の影響で子供の頃から自殺願望を持っていたという、ある女性。その字を診たところ、まさに押しつぶされそうな、心の悲鳴が聞こえてきそうな字だったそうです。そこで、文字を変えるアドバイスをした結果、それを実践したご本人の努力もあって、自殺を思いとどまったばかりでなく、気持ちが明るくなり、今では自家農園での収穫祭を主催するまでに行動が変容したとのこと。その他にも、書道家でもある本山さんは、書を通じた企業へのアドバイスなどを通じて、看板の文字を変えることでお店の客層を変化させたり、メニューの書き方によって客単価が変化したりという経験をされています。そう考えると、筆跡心理はもっと真面目に研究されてしかるべきなのではないかという気がします。
事例発表の後は、グループディスカッションで様々な情報共有、意見交換が行われました。個人的には、この日のお話を伺い、人の字を診る以前に自分の筆跡をなおざりにしていて良いのだろうかという気がしてきました。文字の癖を変える練習は個人差があるものの、皆さんの体験談をうかがうと概ね3ヵ月要するようです。海外で行われている「グラフォセラピー」も3ヵ月の継続と言われていますので、恐らく妥当な目安になるかと思います。
今回も大変勉強になり、半日の時間があっという間に過ぎてしまいました。また来年も楽しみにしております!(来年は事例発表者なので、頑張ります)
繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした