窪田恭史のリサイクルライフ

古着を扱う横浜の襤褸(ぼろ)屋さんのブログ。日記、繊維リサイクルの歴史、ウエスものがたり、リサイクル軍手、趣味の話など。

ものも言いよう-第45回燮(やわらぎ)会

2020年09月23日 | 交渉アナリスト関係


 2020年9月18日、昨年11月以来となる燮会が開催されました。燮会は交渉アナリスト1級会員のための交渉勉強会です。

 久しぶりですが、いつものように理論編と実践編の二部構成。僕が担当させていただいている「交渉理論研究」の今回のテーマは、決定分析の6回目「不確実下の意思決定(ベイズ的意思決定①)」。不確実下の意思決定の規範的モデルである「ベイズの定理」を理解するため、有名な以下の問題を考えていただきました。

1.モンティホール問題
2.三囚人問題

 1990年に大騒動を巻き起こした「モンティホール問題」は、人間が直感的に正しいと考える解答と確率的に正しい解答が異なる例として有名です。実際、最初の内は説明されてもなかなか納得しにくいと思います。つまり、それだけ人は「確率的に思考することが苦手」とも言えます。だからこそ、より良い意思決定のためには、不十分であっても確率的に物事を考えることが必要ではないかというのが今回のテーマです。



 続いて、同じく「確率的に考えることが苦手」の例として、「基準率の無視」と呼ばれる、人が陥りやすい錯誤についてお話ししました。これは、前回お話しした「プロスペクト理論」を唱えたカーネマンとトヴェルスキーが、人間の推論が規範的でないことを説明したものです。これにまさに当てはまるのが、昨今の「希望者全員にPCR検査を受けさせるべきか?」という議論であり、「基準率の無視」という観点からとらえると、どのようなことが言えるのかについてお話ししました。最後に、今年巻き起こった新型コロナウィルスを巡る一連の騒動を題材に、交渉アナリストの皆さんが2級講座で学習している、A.ジャニスの「グループシンク」と呼ばれる集団的バイアスについても考えていただきました。



 第二部は、中止になってしまった4月燮会担当の末永正司さんがスライドする形で登壇されました。恐らく燮会最多登壇の末永さん、毎回様々な角度から理論と実践を結び付ける興味深い問題提起と考察をお話しいただいています。

【参考:過去の末永さんの回】
第8回燮会:分配型交渉における定跡と統合型交渉への移行について-交渉テーブルの向こう側-
第11回燮会:剣豪に学ぶ交渉
第18回燮会:駆け引きと交渉について
第24回燮会:ロールプレイング・ゲームの研究
第33回燮会:交渉における親密度について~物理的距離と心理的距離~
第36回燮会:『交渉テーブルの向こう側』~ 苦悩する購買担当者たち ~
第41回燮会:交渉現場で交渉理論がどう使われているか-実践から交渉理論へ、交渉理論から実践へー

 今回のテーマは、「ものは言いよう」ではなく、「ものも言いよう」。取引先との取引条件を巡る短いケースを元に、人が相手に物事を伝える際、意識的か無意識かを問わず、頭の中でどのようなプロセスを経ているのか?仮説と共にそのプロセスを詳細に分析し、実際の検証と共に「価値を生み出す伝え方」についてお話しいただきました。

 まず、思考プロセスについて、以下のような仮説を立てます。

1.情報の整理(必要な情報、不要な情報を整理する)
2.情報の組み立て(話す順序を整える)
3.言い方の工夫

 次に、それぞれのプロセスについての分析を行います。初めの「情報の整理」ですが、驚いたのは、わずか400字程度の与件の中から、整理すべき情報が11個も導き出されたことです。参加者である我々も与件に目を通して考えてはいたのですが、遠く及びませんでした。言い換えれば、普段いかに曖昧なまま話をしているかを思い知らされました。

 二番目は「情報の組み立て」。整理された同じ情報でも、経緯から先に話すか、結論から話すかによって相手の受け止め方が変わってくるということを実例と共にお話しいただきました。

 三番目は「言い方の工夫」。これは話し手がどのような意図を持っているか、短期的、長期的、一方的、双方向的、分配的、統合的、どのような成果を指向しているかに左右されます。

 以上の思考プロセスは、いわば我々が学ぶ膨大な交渉理論のミニチュア版。しかし、検討すべき必須の要素が含まれており、日常の瞬間的、連続的な意思決定、交渉のプロセスはむしろミニチュア版の方が多く使われるはずです。しかし我々はそのミニチュア版でさえ、どれだけ掘り下げて考えることが日頃できているのでしょうか?末永さんがいつも提起されている「理論と実践のサイクル」、つい回すことを疎かにしていないか、そのために交渉の質を下げていないか、そこから点検してみたいと思います。



 今回は、新たに1級会員になられた皆さんも多数ご参加されました。講師の末永さんにかけてというわけではありませんが、これからも末永くおつきあいをお願い申し上げます。

 最後に、日本交渉協会顧問で、コンフリクトマネジメントの専門家でいらっしゃる鈴木有香先生が新たに翻訳された本が出版されましたのでご紹介します。



繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした

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