都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「花鳥 - 愛でる心、彩る技<若冲を中心に> 第1期」 三の丸尚蔵館 4/9
宮内庁三の丸尚蔵館(千代田区千代田1-1 皇居東御苑内 大手門側)
「花鳥 - 愛でる心、彩る技<若冲を中心に> 第1期」
3/25-4/23
伊藤若冲の代表作「動植綵絵」全30幅が、6幅ずつ、5回に分けて、皇居東御苑内の三の丸尚蔵館にて公開されています。若冲ファン必見の展覧会です。
今回出品されていた「動植綵絵」は、展示順に並べると以下の通りです。修復が施された後だからか、ともかくこれでもかと言うほどに彩色が鮮やかでした。ジッと見つめていると目がクラクラしてきます。
「芍薬群蝶図」(作品番号2-1)
ひらひらと舞い降りて来た色とりどりの蝶と、地面から湧き上がって来たような紅白、それにピンクの芍薬(しゃくやく)。蝶がどれも見事に描かれているのはもちろんのこと、芍薬の花びらの透き通った味わいが絶品です。また、蝶よりも芍薬の描写の方が、不思議と生き生きしているように見えます。まるで蝶を食べようとする食虫植物のような芍薬。爛れた花びらに、ざわめく茎と枝。特に後者の生々しさは、草花にないはずの意思すら感じさせます。あたかも動物の手足のようになって、蝶を捕まえようと頑張っているのでしょうか。
「老松白鶏図」(作品番号2-11)
白く輝く二羽の鶏。鷹のように鋭い嘴と目を持っています。大輪の花のように咲き誇る背景の松はやや荒く見えましたが、砂金をまぶしたような黄金色が交じり合う鶏の羽は実に見事です。画面右上の真っ赤な陽と鶏は喧嘩をしているのでしょうか。鶏冠が、煌煌と照る陽の赤みに負けないほどに赤らんでいます。また、鶏の目がしっかりと陽を見据えている様子も構図に緊張感を与えます。思わずこの鶏の視線を追っかけてしまいました。
「南天雄鶏図」(作品番号2-14)
今回出品されていたものの中で一番インパクトのある作品です。どっしりと構える一羽の真っ黒な雄鶏。ともかくこの鶏冠には驚かされます。小さな白い点がたくさん配されている。大きく見開いた目と、牙を剥いているように鋭い嘴、そしてこの爬虫類の皮膚のようにグロテスクな鶏冠。もはや鶏とは思えないような堂々とした勇姿を、大見得を切るかのようにさらけ出しています。肉食恐竜が咆哮する姿。ぶら下がる南天は彼の餌でしょうか。これから襲いかかって引きちぎろうとしているようにも見えました。また、それを横取りするかのように南天を摘む小鳥の存在も見逃せません。ここに若冲ならではの心憎い演出が感じられます。
「雪中錦鶏図」(作品番号2-19)
主役の錦鶏の立場を奪うほどの存在感を見せているのは、画面全体にまるで垂れているように塗られた雪の描写です。それにしてもこれをどう雪と見れば良いのでしょうか。ネバネバとしている砂糖か、飴を溶かしたものが打ちまけられている。まさかこの構図で口の中に甘さを感じるとは思いませんでした。そしてこの作品で最も美しいのは、中央左下にある花が登場する部分です。ここでは砂糖が片栗粉のような質感へと変化し、上からパラパラとまぶされています。そして群がるどこかセクシーな花々。まるで少女漫画のワンカットのようです。ここでも始めの「芍薬群蝶図」の芍薬のように、鶏の生気を超えた存在感を見せつけていました。
「牡丹小禽図」(作品番号2-22)
画面を所狭しと支配する牡丹と、可愛らしいつがいの小鳥。ここでも小鳥は牡丹に飲まれてしまっています。それにしてもこの作品のうるささは一体どこに由来するのでしょう。それぞれの牡丹がスピーカーとなってがなり合っている。今にも牡丹から発せられた音声がやかましく聞こえてきそうです。画面に良いアクセントを与えている深い青がなければやや息苦しいかもしれません。(画像では良く分かりませんが、深いエメラルドグリーンが配されていました。)
「芦雁図」(作品番号2-26)
真っ逆さまになった一羽の大きな雁。彩色のせいか、羽の質感がややベタッとして、胴体がやや平面的に見えてきますが、その分、雁の重量感、まるで鉄の塊のような重たさを感じることが出来ます。驚いたようにパクッと開いた口。まるで「アレレ~」とでも言っているかのような慌てぶりです。それにしても雁は一体何を間違えたのでしょう。すぐ真下にはひび割れた氷の水面が広がっています。自ら身を投げているとしか思えない構図。枯れ枝にネバネバとまとわりつく雪の質感もまた奇異でした。
さて若冲ばかり触れてしまいましたが、展覧会自体は近世(江戸期)の花鳥画にスポットを当てた企画です。と言うことで、当然ながら若冲以外にもいくつか見応えのある作品が展示されています。その中では、屏風に簾を巧みにはめ込んだ狩野常信の「糸桜図屏風」がとても印象に残りました。可愛らしいピンク色の小さな桜。それが屏風と簾の両方へ連なるように描かれています。簾の上にも仄かなピンク色の顔料がたっぷりとのって美しく映えている。また簾の部分に奥行き感が見て取れるのも興味深いところでした。
初めにこの展覧会の予定を見知った際に、「動植綵絵」を6幅ずつとは言わずにまとめて見せて欲しいとも思いましたが、6幅だけでも目がクラクラするほどです。まとめて見たらそれこそ卒倒してしまうかもしれません。(また尚蔵館の展示スペースが非常に狭く、30幅全てを並べること自体が無理かとも思います。)会期は9月までですが、その間に後4回展示替えがあります。(もちろん「動植綵絵」の他の作品も入れ替わります。)皇居東御苑の散歩も兼ねながら、じっくりと楽しんでいきたい展覧会です。
会期:3/25-9/10
第1期3/25-4/23 第2期4/29-5/28 第3期6/3-7/2 第4期7/8-8/6 第5期8/12-9/10
*毎週月、金曜日、もしくは展示替え期間はお休みです。また入館時間が16時までなのでご注意下さい。ちなみに観覧料は無料です!
*関連エントリ
「花鳥 - 愛でる心、彩る技<若冲を中心に> 第2期」 5/22
「花鳥 - 愛でる心、彩る技<若冲を中心に> 第1期」
3/25-4/23
伊藤若冲の代表作「動植綵絵」全30幅が、6幅ずつ、5回に分けて、皇居東御苑内の三の丸尚蔵館にて公開されています。若冲ファン必見の展覧会です。
今回出品されていた「動植綵絵」は、展示順に並べると以下の通りです。修復が施された後だからか、ともかくこれでもかと言うほどに彩色が鮮やかでした。ジッと見つめていると目がクラクラしてきます。
「芍薬群蝶図」(作品番号2-1)
ひらひらと舞い降りて来た色とりどりの蝶と、地面から湧き上がって来たような紅白、それにピンクの芍薬(しゃくやく)。蝶がどれも見事に描かれているのはもちろんのこと、芍薬の花びらの透き通った味わいが絶品です。また、蝶よりも芍薬の描写の方が、不思議と生き生きしているように見えます。まるで蝶を食べようとする食虫植物のような芍薬。爛れた花びらに、ざわめく茎と枝。特に後者の生々しさは、草花にないはずの意思すら感じさせます。あたかも動物の手足のようになって、蝶を捕まえようと頑張っているのでしょうか。
「老松白鶏図」(作品番号2-11)
白く輝く二羽の鶏。鷹のように鋭い嘴と目を持っています。大輪の花のように咲き誇る背景の松はやや荒く見えましたが、砂金をまぶしたような黄金色が交じり合う鶏の羽は実に見事です。画面右上の真っ赤な陽と鶏は喧嘩をしているのでしょうか。鶏冠が、煌煌と照る陽の赤みに負けないほどに赤らんでいます。また、鶏の目がしっかりと陽を見据えている様子も構図に緊張感を与えます。思わずこの鶏の視線を追っかけてしまいました。
「南天雄鶏図」(作品番号2-14)
今回出品されていたものの中で一番インパクトのある作品です。どっしりと構える一羽の真っ黒な雄鶏。ともかくこの鶏冠には驚かされます。小さな白い点がたくさん配されている。大きく見開いた目と、牙を剥いているように鋭い嘴、そしてこの爬虫類の皮膚のようにグロテスクな鶏冠。もはや鶏とは思えないような堂々とした勇姿を、大見得を切るかのようにさらけ出しています。肉食恐竜が咆哮する姿。ぶら下がる南天は彼の餌でしょうか。これから襲いかかって引きちぎろうとしているようにも見えました。また、それを横取りするかのように南天を摘む小鳥の存在も見逃せません。ここに若冲ならではの心憎い演出が感じられます。
「雪中錦鶏図」(作品番号2-19)
主役の錦鶏の立場を奪うほどの存在感を見せているのは、画面全体にまるで垂れているように塗られた雪の描写です。それにしてもこれをどう雪と見れば良いのでしょうか。ネバネバとしている砂糖か、飴を溶かしたものが打ちまけられている。まさかこの構図で口の中に甘さを感じるとは思いませんでした。そしてこの作品で最も美しいのは、中央左下にある花が登場する部分です。ここでは砂糖が片栗粉のような質感へと変化し、上からパラパラとまぶされています。そして群がるどこかセクシーな花々。まるで少女漫画のワンカットのようです。ここでも始めの「芍薬群蝶図」の芍薬のように、鶏の生気を超えた存在感を見せつけていました。
「牡丹小禽図」(作品番号2-22)
画面を所狭しと支配する牡丹と、可愛らしいつがいの小鳥。ここでも小鳥は牡丹に飲まれてしまっています。それにしてもこの作品のうるささは一体どこに由来するのでしょう。それぞれの牡丹がスピーカーとなってがなり合っている。今にも牡丹から発せられた音声がやかましく聞こえてきそうです。画面に良いアクセントを与えている深い青がなければやや息苦しいかもしれません。(画像では良く分かりませんが、深いエメラルドグリーンが配されていました。)
「芦雁図」(作品番号2-26)
真っ逆さまになった一羽の大きな雁。彩色のせいか、羽の質感がややベタッとして、胴体がやや平面的に見えてきますが、その分、雁の重量感、まるで鉄の塊のような重たさを感じることが出来ます。驚いたようにパクッと開いた口。まるで「アレレ~」とでも言っているかのような慌てぶりです。それにしても雁は一体何を間違えたのでしょう。すぐ真下にはひび割れた氷の水面が広がっています。自ら身を投げているとしか思えない構図。枯れ枝にネバネバとまとわりつく雪の質感もまた奇異でした。
さて若冲ばかり触れてしまいましたが、展覧会自体は近世(江戸期)の花鳥画にスポットを当てた企画です。と言うことで、当然ながら若冲以外にもいくつか見応えのある作品が展示されています。その中では、屏風に簾を巧みにはめ込んだ狩野常信の「糸桜図屏風」がとても印象に残りました。可愛らしいピンク色の小さな桜。それが屏風と簾の両方へ連なるように描かれています。簾の上にも仄かなピンク色の顔料がたっぷりとのって美しく映えている。また簾の部分に奥行き感が見て取れるのも興味深いところでした。
初めにこの展覧会の予定を見知った際に、「動植綵絵」を6幅ずつとは言わずにまとめて見せて欲しいとも思いましたが、6幅だけでも目がクラクラするほどです。まとめて見たらそれこそ卒倒してしまうかもしれません。(また尚蔵館の展示スペースが非常に狭く、30幅全てを並べること自体が無理かとも思います。)会期は9月までですが、その間に後4回展示替えがあります。(もちろん「動植綵絵」の他の作品も入れ替わります。)皇居東御苑の散歩も兼ねながら、じっくりと楽しんでいきたい展覧会です。
会期:3/25-9/10
第1期3/25-4/23 第2期4/29-5/28 第3期6/3-7/2 第4期7/8-8/6 第5期8/12-9/10
*毎週月、金曜日、もしくは展示替え期間はお休みです。また入館時間が16時までなのでご注意下さい。ちなみに観覧料は無料です!
*関連エントリ
「花鳥 - 愛でる心、彩る技<若冲を中心に> 第2期」 5/22
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