「王朝の恋」 出光美術館

出光美術館千代田区丸の内3-1-1 帝劇ビル9階)
「描かれた伊勢物語 王朝の恋」
1/9-2/17



これなら伊勢物語の知識のない私でも楽しめます。主に宗達の「伊勢物語図色紙」にて恋物語を追いながら、それに取材した書画や工芸などを一堂に見る展覧会です。出光美術館の「王朝の恋」へ行ってきました。

この展覧会の対象が第一に伊勢物語ファンとされているのなら、第二は琳派ファンと言っても良いのではないでしょうか。実際、上記の宗達の色紙(約30点)をはじめ、伝宗達の「伊勢物語図屏風」、伝光琳、または抱一、芦舟の屏風絵など、かなり見応えのある琳派作品が揃っています。そしてそれらが集中して紹介されているのは、ちょうど展示の第三番目、「東下り」のセクションです。冒頭、「昔、男ありけり」で始まるかの有名な行が、琳派の絵師によって雅やかな絵画へと仕立てられています。



ある男が三河八橋の地に行き着き、そこで「かきつばた」の五文字を句にして歌に詠んだという八橋の主題では、酒井抱一の「八ッ橋図屏風」が白眉です。眩しいばかりの6曲1双の金屏風に配されているのは、右上から左下へと向かって進む橋に沿って繋がる燕子花の群れでした。ここでは、例えば光琳の燕子花に見るような逞しい造形美はなりを潜め、むしろその葉は水にそよぐ草のように、また花びらはあたかも蝶がとまるような姿にて穏やかに描かれています。また、ポスターカラーのような平面的な燕子花と、たらし込みを多用し、苔の緑も滲んだような瑞々しい橋の描写の対比も鮮やかでした。



抱一ではもう一点、光琳百図からそのモチーフを借りたとされる「宇津山図」も出品されています。駿河の宇津山にて男が修行者へ歌を託すという光景が、どこか乾山を思わせる軽妙なタッチにて描かれていました。またここで興味深いのは、伝宗達の「伊勢物語図屏風」との類似です。この屏風は宇津山や住吉行幸等々の場面を、図像的な雲霞によるそれこそ異時同図法にて巧みに表したものですが、宇津山の場面の構図が抱一の作とかなり似ています。ここに、伝宗達の元の屏風、光琳百図、そして抱一作の「宇津山図」と、いわゆる琳派の系譜を辿ることが出来るのかもしれません。



抱一の同名作も名高い、伝宗達の「月に秋草図屏風」も見応えがありました。殆ど地へ溶けて消えゆくかのような金色のすすきがか細く靡き、そこへに粉雪のような白い花々を付けた秋草が風雅に咲き乱れています。これと抱一作にどのような関連があるかは不明ですが、抱一のそれが、空と月を求めて秋草が大きく舞うという、どこか非現実的でシュールな秋の寂寞感を伝えるのに対し、宗達はもっと温かい眼差しを地に向けた、あたかも虫の声が聞こえ出すかのような秋の身近な情緒を巧みに示した作品とも言えるでしょう。見事な一枚でした。

会期末と、期間限定の「伊勢物語絵巻」(和泉市久保惣記念美術館所蔵)の展示が重なったからかもしれません。会場はかなり混雑していました。宗達の色紙の一角は行列です。

次の日曜日、17日まで開催されています。
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