「アート・スコープ 2009-2011」―インヴィジブル・メモリーズ 原美術館

原美術館
「アート・スコープ 2009-2011」―インヴィジブル・メモリーズ
9/10-12/11



日独のアーティスト4名が異文化交流プログラムの成果を発表します。原美術館で開催中の「アート・スコープ 2009-2011」―インヴィジブル・メモリーズへ行って来ました。

2003年よりダイムラーのアーティスト異文化交流プログラム、アート・スコープを開催している原美術館ですが、今年も2009年にドイツから招聘した2名、また2010年に日本より派遣した2名の計4名によるグループ展がはじまりました。


アーティスト・トーク(9/10 原美術館にて)

出品作家は以下の通りです。

小泉明郎(1976~)
佐伯洋江(1978~)
エヴァ・ベレンデス(1974~)
ヤン・シャレルマン(1975~)


日独とも男女1名ずつ、いずれも1970年代に生まれたほぼ同世代のアーティストです。それぞれ交換プログラムの後に制作された作品を中心に展示されていました。

さて必ずしも作品に滞在経験が直接露わとなっていない点が、むしろこの展覧会の大きな個性であるかもしれません。

そもそもタイトルに「インヴィジブル・メモリーズ」とありますが、受け手が作品から各作家の背後の「記憶」を探っていくのも鑑賞のポイントではないでしょうか。


エヴァ・ベレンデス「Untitled」 2010年 絹、シルクペイント、スチール、ラッカー、磁石 121×121cm

エヴァ・ベレンデスは来日当初、一見、西洋とあまり変わらない街並みや生活の中にしっかりと根付く日本的なものを探り出し、とりわけ建築においてその融合した形が多く見られることを指摘しました。

ベレンデスの作品はまさに建築的な要素を取り入れているかもしれません。邸宅そのものでもある原美術館の一室には、まるでインテリアの衝立のような金属製のオブジェとカーテン状の平面作品が並んでいます。

衝立と言えば日本の屏風も挙げられますが、ベレンデスはそうした屏風と同様、空間全体の雰囲気を変える力を持っていました。

光や風を通す穴の空いた金属のそれは素材を思わせないほど軽やかです。一点は外光の入り込む空間に置かれていますが、そこでは見る側の視点によって移ろう光と影のコントラストを存分に味わうことが出来ます。

ベレンデス自身は来日の体験が個々の作品へ直接反映されるわけではなく、むしろ作品へとおぼろげに広がったようなイメージがあると述べていましたが、借景の利用、時間などによって変化する繊細な光の移ろい、また簾を思わせる透けの効果などは、どこか日本の美意識を思わせるものがありました。

もう一人の女性アーティスト、お馴染みの佐伯洋江は大小あわせて25点ほどの新作を展示しています。


佐伯洋江「Untitled」 2011年 紙にシャープペンシル、色鉛筆、アクリル 68.5×109.5㎝ 協力:タカ・イシイギャラリー

余白を大きくとり、極めて細かな線にて、生き物や草花をシュールに描く佐伯の作品はいつもながらに魅力的ですが、今回はその中にもっと生々しい、言わば力強いまでの有機的なモチーフが登場しているのを見逃すことは出来ません。

佐伯は三ヶ月半の渡欧を殆ど一人で過ごし、滞在中の時間そのものを大切にしていたそうです。またその経験はこれから表れてくるのではないかとも語っています。

彼女自身、作品を言葉で説明することに疑問も持ち、制作そのものも下絵から描くのではなく、直接鉛筆やシャープペンシルをとって作品へと向かっています。

そうした制作行為を「空間を旅していく体験。」と述べた佐伯ですが、どこかリズミカルな作風も、それこそ今回の旅を踏まえ、さらにまた変化しているのかもしれません。

金属という重い素材を用いながら軽やかな作品を作ったベレンデスに対するのが、ヤン・シャレルマンです。


ヤン・シャレルマン「Happy Hole1」 2011年 エポキシ樹脂、顔料、スタイロフォーム 250×120×110cm

彼はスタイロフォームと呼ばれる発砲スチロール状の素材を使いながらも、どこか塔のように重厚感溢れるオブジェを展開しています。

敢然と起立するボリュームの存在感は強烈です。シャレルマンは作品に反映されているとした子どもの頃の記憶のうち、SFの宇宙船を一例として挙げましたが、確かに近未来を思わせるシャープな造形はそうしたものに由来しているかもしれません。

また内部に塗り重ねられた色にも注目です。こちらは階段をあがった2階部分からも確認出来ますが、その色から放たれた強い光はまるで宝石の輝きのようでした。

小泉明郎の映像2点は非常に見応えがあります。


小泉明郎「若き侍の肖像」 2009年 ヴィデオインスタレーション(2画面) 9分45秒

2009年に発表された「若き侍の肖像」はもちろん、震災後に制作されたという「ビジョンの崩壊」からは、小泉がテーマとする『見えるものと見えないもの関係』を、時に奇妙な形で探ることが出来るのではないでしょうか。

「若き侍」は約10分、「ビジョン」については2画面で13分ほどあります。ここはじっくり構えてそのメッセージを受け止めたいところです。

アート・スコープはちょうど私が現代アートに興味を持った頃に始まったこともあり、第一回展から欠かさず見ている展覧会ですが、今回もお目当ての佐伯洋江はもちろん、多様な作品で楽しむことが出来ました。

なお会期中の10月1日(土)と2日(日)夜、同館中庭にて「白夜-BYAKUYA-」が開催されます。



場所:原美術館中庭
日時:10月1日(土)~10月2日(日) 19:00~
入場料:3800円
作・演出・映像:奥秀太郎
振付・出演:黒田育世
音楽:松本じろ

原美術館の建築と空間を活かしながら、映像とダンスをコラボレーションさせた新しい感覚のイベントとのことです。なお本入場券では公演当日、開演前までアート・スコープ展の観覧も可能です。こちらとあわせて出かけられても良いかもしれません。イベントの詳細は下記リンク先をご参照下さい。

パフォーマンスイベント「白夜-BYAKUYA-」10/1[土]・10/2[日]

12月11日まで開催されています。

「アート・スコープ 2009-2011」―インヴィジブル・メモリーズ 原美術館@haramuseum
会期:9月10日(土)~12月11日(日)
休館:月曜日、但し9月19日と10月10日は開館。9/20(火)、10/11(火)
時間:11:00~17:00。*毎週水曜日は20時まで開館(11/23は除く)
住所:品川区北品川4-7-25
交通:JR線品川駅高輪口より徒歩15分。都営バス反96系統「御殿山」下車、徒歩3分。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )