「新潟市美術館の名品たち」 目黒区美術館

目黒区美術館
「有朋自遠方来(ともありえんぽうよりきたる) 新潟市美術館の名品たちーピカソとクレーもやってきた」
4/11-6/7



目黒区美術館で開催中の「新潟市美術館の名品たちーピカソとクレーもやってきた」を見てきました。

サブタイトルの「有朋自遠方来 (ともありえんぽうよりきたる)」とは、「論語」から「友人が遠くから訪ねてくる。」、すなわち「同じ学を志すものが出会うというのは、なんと喜ばしいことか。」という意味なのだそうです。

友人とはまさしく新潟市美術館のコレクションということでしょう。会場内には同館のコレクションがずらり。その数は60点です。表題のピカソやクレーといった西洋美術だけでなく、瑛九、山口長男らの近代日本美術、さらには布川勝三、佐藤哲三郎、矢部友衛といった新潟に所縁のある作家までを網羅しています。


阿部展也「作品」 1950年 新潟市美術館

1.新潟市美術館の名品たち
2.新潟に息づく作家たち
3.二つの美術館、二つのコレクション

冒頭は「名品たち」。つまり館を代表する作品ということかもしれません。ルドン、カリエールにはじまり、ザッキン、クレー、エルンスト、ニコルソンへ。またあわせて瑛九、李、中西夏之、難波田龍起、辰野登恵子らの作品も展示されています。

作品の配置に工夫がありました。例えばピカソの「ギターとオレンジの果物鉢」とニコルソンの「1932年(ギターと頭像)」はともにギターを両通のモチーフとした静物画。ピカソでは左に見えるのがギターでしょうか。まさしくキュビズム、さも解体したかのように描かれています。一方でニコルソンはキャンバスをくり抜いては板をはめ込み、さらに板を載せているという凝った支持体です。そこにギターと頭像を等しく描いています。それ自体は具象的です。ベージュの色彩には統一感も感じられます。

チラシ表紙に掲載されたクレーの「プルンのモザイク」、思いの外に小さな作品でした。縦60センチ、横1メートル超の画面に広がる色鮮やかなモザイク。ビザンティンのそれを参照したのだそうです。モザイクには赤や青の円や半円、線などのモチーフが差し込まれます。画面は幾何学的ですが、しばらく見ていると不思議にも人の顔が浮かび上がってきました。どことなく可愛らしい作品でもあります。

エーリヒ・ブラウアーの「かぐわしき夜」に魅せられました。青や緑の色面に包まれた小さな人々。星屑のような光が散っています。何かのお祭りを描いたのでしょうか。その様子は幻想的、シャガールを見るようでもあります。絵具には油だけでなく、一部にテンペラを利用していました。

日本の画家はどうでしょうか。ここでも配置に一工夫あります。例えば李禹煥の「点より」と中西夏之の「紫・むらさき13」です。対になって置かれていましたが、李では群青のストロークが画面一杯に広がります。一方、中西の作品では紫や白の粒状の筆致が広がっていました。心地よいざわめきと軽快なまでのリズム感。もちろん表現は異なりますが、どこか共通した印象を感じてなりません。

ご当地の画家を丹念に紹介しています。布川勝三の「北の海(しけ)」は日本海のしけを描いた一枚です。手前には茶色にくすんだ家屋が立ち並び、彼方には白波を立ててはうねる海が表されています。海の随所に引かれた線が屋根を象る線と重なって見えました。闇夜でしょうか。海は深く黒く、溢れ出て、さも街を飲み尽くすかのように荒れ狂っていました。

美術館へ270点もの絵画を寄贈した小林力三のコレクションも目を引きます。彼と交流があったのは矢部友衛、大正の前衛美術活動に参加した画家です。畑仕事に勤しむ農夫を描いた「野良」が出品されています。陽光眩しい大地、健康的な人物の姿。明るい色彩が印象に残りました。

また矢部の盟友だったのが岡本唐貴です。作品は2点、「野菜静物」と「先端にたつ女三態」。うち後者は目黒区美術館のコレクションでした。


末松正樹「群像」 1950年 新潟市美術館

実は本展、作品の全てが新潟市美術館のコレクションではなく、随所に目黒区美術館のコレクションが差し込まれているのもポイントです。新潟市美術館が開館したのは1985年、目黒区美術館は1987年。ともに公立美術館としての歴史を30年ほど有します。二つの美術館のコレクションを特に見比べることで、両館の歴史ないし、コレクションの「意義」(解説より)を振り返ってもいるわけです。

よってラスト、3章の「二つの美術館、二つのコレクション」では、各出展作家を両館のコレクションで紹介しています。


安宅安五郎「ベルサイユ郊外」 1921年 新潟市美術館

ここに並ぶのが安宅安五郎、阿部展也、三上誠に相笠昌義、さらには草間彌生に篠原有司男などです。これが時代が時に異なり、作風もまた違っていたりします。思いの外に多様です。安易に作家の個性なりを表すことは出来ません。

先にも触れたように構成や配置にも一工夫があり、さらに目黒の作品を参照することで、展示全体に奥行きも生まれています。なかなか読ませる展覧会でした。



6月7日まで開催されています。

「有朋自遠方来(ともありえんぽうよりきたる) 新潟市美術館の名品たちーピカソとクレーもやってきた」 目黒区美術館
会期:4月11日(土)~6月7日(日)
休館:月曜日。但し5/4(月)は開館し、5/7(木)は休館。
時間:10:00~18:00
料金:一般700(550)円、大高生・65歳以上550(400)円、中学生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
住所:目黒区目黒2-4-36
交通:JR線、東京メトロ南北線、都営三田線、東急目黒線目黒駅より徒歩10分。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )