「ルオーとフォーヴの陶磁器」 パナソニック汐留ミュージアム

パナソニック汐留ミュージアム
「ルオーとフォーヴの陶磁器」
4/11-6/21



パナソニック汐留ミュージアムで開催中の「ルオーとフォーヴの陶磁器」を見てきました。

ルオーもフォーヴも重要ですが、この展覧会の主人公は、アンドレ・メテだと言えるのではないでしょうか。

メテは20世紀初頭のフランスで活動した陶芸家です。パリ郊外で制作をおこない、当地では「陶磁器の装飾に力強さを復活させた」(キャプションより)人物として名を残しているそうです。


アンドレ・メテ「蓋付丸形小箱 鳥と星座」 1918年頃 高さ5cm 最大径9cm 施釉陶器
ブロ・コレクション


ただし日本では知られていません。ただやむを得ないことなのでしょう。なにせ国内にメテの陶磁器が殆ど所蔵されていないからです。

それは表題の「ルオーとフォーヴの陶磁器」も同様です。そもそも例えばブラマンクが陶磁器制作に熱中していたこと自体、初めて知った方も多いのではないでしょうか。出品は陶器下絵や型紙を含め140件。一部を除き、ほぼ全てがフランスから来ています。ようは日本で初めてメテ、そしてルオーらのフォーヴの作家の手がけた陶磁器を紹介する展覧会というわけなのです。

まずは主人公のメテです。展示でも4割のウエイトを占めています。生まれは1871年、陶芸は独学だったそうです。1902年にパリ郊外に窯を開き、本格的な作陶家としてデビューします。

メテは初期にせっ器、中期にファイアンス(錫釉色絵陶器)、そして後期には施釉陶器と技法を変えながら制作していました。ちなみにこれらの三つの技法、焼物に親しくないと内容が思い浮かばないかもしれませんが、そこは会場のキャプションがカバー。丁寧な解説がついています。


アンドレ・メテ「大皿 アダムとイヴ」 1909-20年 径29cm 施釉陶器
パリ市立プティ・パレ美術館 © Petit Palais / Roger-Viollet


モチーフは多様です。「大皿 アダムとイブ」はどうでしょうか。聖書の主題、メテは後期に人物を好んで描きますが、本作もそのうちの一枚です。中央にはヘビの誘惑によってリンゴを手にする二人の姿が描かれています。ともかく美しいのは目に染み入るような青。藍色とも言ってよいでしょう。輝いています。まるでモザイク画を見るかのようでした。


アンドレ・メテ「卵型花瓶 幾何学模様と野兎」 1910-11年頃 高さ18cm 施釉陶器
ブロ・コレクション


同じく青を基調としています。兎が跳ねる姿を描いたのが「卵型花瓶 幾何学模様と野兎」です。素直に可愛らしい。縁は金でしょうか。同じく動物をモチーフとした「蓋付丸形小箱 鳥と星座」では内側に一面の金が広がっています。図像は総じて装飾的です。ペルシアの花やアラベスクの紋様を巧みに取り込んでいます。


アンドレ・メテ「陶器下絵」 27.5×25.2cm グワッシュ、石墨/トレーシングペーパー
個人蔵、ムードン


陶器下絵も何点か出ていました。こちらは水彩です。また一部には下絵と陶器を見比べる展示もあります。メテがどのように陶器を制作していたのかを見知ることが出来ました。

さて後半です。ここからはルオーとフォーヴ。順から言えばフォーヴが先です。ブラマンクにマティスにドラン、そしてマイヨールにジャン・ピュイ。いずれも師はメテです。有力な画商、ヴォラールが画家たちをメテに紹介しました。1906年頃からメテの工房で陶磁器の絵付けに挑戦していたそうです。


ルイ・ヴァルタ「花瓶 レダ」 1907年頃 高さ54cm ファイアンス 
パリ市立プティ・パレ美術館 © Patrick Pierrain / Petit Palais / Roger-Viollet


それにしてもメテに学んだと言えども、いずれも類い稀な才能を持つ画家たち。まさしく百花繚乱です。陶磁器においても各々に異なった世界を切り開いています。

ブラマンクは5年間で300枚もの絵付けを残しています。タッチはあまり空間にとらわれません。大胆です。太いストロークが草花の模様を象ります。さすがに絵画ほどの濃密さはありませんが、それでも生気に満ちた雰囲気を漂わせていました。

マティスのセンスが絶妙でした。「花瓶 装飾的な花」では限定された線と色を用いて花を開かせています。色は赤と緑のみ。地は乳白色でしょうか。それをキャンバスと見立てれば、まさしく絵画を写したかのような表現です。軽快でかつ素早い筆遣い。無駄はありません。

メテはフォーヴの画家たちにファイアンスを用意したそうです。素焼きの器に顔料を用いては描いています。ドランの「花瓶 幾何学模様」の色彩も華やかで美しいもの。ピュイはやや変わってより具象的なモチーフに取り組みました。「皿 金魚」は花模様の中、可愛らしい金魚の描かれた一枚です。キャプションに「遊戯的」とありますが、確かに遊び心を感じさせる作品でもあります。

ラストがルオーです。おおよそ55点。中には汐留ミュージアムや出光美術館所蔵の絵画も含みます。

このルオー、絵画でも極めて重厚なマチエールを見せますが、まさか陶器でも同じような表現を志向していたとは知りませんでした。

一例がチラシ表紙を飾る「花瓶 水浴の女たち」です。モチーフは文字通り裸婦像。それにしても深く、濃い青い色彩ではないでしょうか。時にガラスの輝きとも評されるルオー画のマチエールを見事なまでに再現しています。

「大皿 オフィーリア」も目を引きました。瞳を大きく開けながらも、どこか憂い、あるいは悲し気な表情を見せるオフィーリアの姿。やはり表面は絵画同様に味わい深いものがあります。色彩が全てを飲み込んでいます。縁にはメテも得意とした金属光沢によるひび焼きを見ることが出来ました。


アンドレ・メテ「花瓶 鳥と植物」 1909-20年頃 高さ38.5cm 施釉陶器
パリ市立プティ・パレ美術館 © Petit Palais / Roger-Viollet


ちなみにメテとルオーは同い年です。彼が陶芸に取り組んだのもほかのフォーヴの画家同様、1906年頃。活動は計7年間。1913年にまで及びます。主題は絵画と同じく裸婦や道化師です。実際の展示でも一部、似たモチーフを絵画と陶磁器の両方で参照していました。

このところ何かと展示設営に巧みな汐留ミュージアムのことです。今回もテーブルセットや効果的な照明など、作品をより美しく見せる仕掛けに事欠きません。魅入りました。



会場内、余裕がありました。6月21日まで開催されています。

「ルオーとフォーブの陶磁器」 パナソニック汐留ミュージアム
会期:4月11日(土)~6月21日(日)
休館:水曜日。但し4月29日、5月6日は開館。
時間:10:00~18:00 *入場は17時半まで。
料金:一般1000円、大学生700円、中・高校生500円、小学生以下無料。
 *65歳以上900円、20名以上の団体は各100円引。
 *ホームページ割引あり
住所:港区東新橋1-5-1 パナソニック東京汐留ビル4階
交通:JR線新橋駅銀座口より徒歩5分、東京メトロ銀座線新橋駅2番出口より徒歩3分、都営浅草線新橋駅改札より徒歩3分、都営大江戸線汐留駅3・4番出口より徒歩1分。
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