都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「ブルータスの『日曜美術館』。」 BRUTUS
今年、放送開始から40年を迎えたNHKの「日曜美術館」。現在の司会は俳優の井浦新さんとアナウンサーの伊東敏恵さん。井浦さんの美術に対する真摯な姿勢は、一視聴者として共感することも少なくありません。私はいつも再放送ですが、最近、見る機会が増えた気がします。
「ブルータスの『日曜美術館』。」(BRUTUS)
http://magazineworld.jp/brutus/
目次&立読み→http://magazineworld.jp/brutus/brutus-803/
40周年を期しての企画です。雑誌「ブルータス」にて「日曜美術館」の特集が組まれています。
メインの企画は歴代の日曜美術館のピックアップ。全2000回超の放送では「そうそうたる出演者」(*)が登場したこともありました。言わば伝説的とも呼べる放送回を取り上げています。
第1室はかの手塚治虫です。お題は絵巻の鳥獣戯画。先の東京国立博物館の展示でも大いに話題となりました。今から遡ること30年以上も前、1982年の11月の日曜美術館に手塚治虫が出演し、独自の切り口で鳥獣戯画を語りました。
実はこの回、今年の4月にアンコール放送されました。ご覧になった方も多いかもしれません。手塚治虫が理路整然、鳥獣戯画について語る様は、もはや感動的ですらありました。特にうさぎの目、その線の巧みな描写に言及しながら、現代のマンガと関連付ける点などは、同絵巻を見る一つの切り口として、大いに興味深いものがありました。
一つの絵師や作品を複数の著名人が取り上げたこともあります。例えば尾形光琳です。最近では2010年に佐藤可士和が「夢の光琳 傑作10選」に出演。名作「燕子花図屏風」のデザイン性について語りました。
一方でもう一つの名作、「紅白梅図屏風」について語ったのは永井一正です。時は1984年。「紅白梅図 デザイナー 光琳誕生」での放送回です。さらにその7年前、1977年には田中一光が「私の光琳」と題して出演。自らの作品に光琳画を落とし込む田中が、光琳を「江戸中期のバイタリティ、ぬけぬけとした強さを持っている」(*)と評価。三者ともデザイナーではありますが、それぞれに異なった視点が面白いもの。もちろんこういった比較、番組上ではなかなか叶いませんが、今回のブルータス上では実現しているというわけです。
教育テレビ50周年の年に番組名が「新日曜美術館」から「日曜美術館」に戻りました。その第1回目に出演したのが、現代美術家の村上隆でした。
回は奇想、曾我蕭白。村上自身が3本の指に入るというくらい好きだという絵師です。作品の現代性を評価し、蕭白には「画題を持っている本質を暴き出したいという、強い欲望」(*)があったのではないかと述べています。
なお蕭白の特集に関しては1997年、舞踏家の大野一雄が、美術史家の辻惟雄とともに出演したことがあったそうです。しかもその回では蕭白の「柳下鬼女図」の前で大野が踊り出したとか。誌面ではこうした番組上でのエピソードにも触れられています。
日曜美術館を切っ掛けとして話題となった作家も少なくありません。
題して「日曜美術館スター誕生!」です。田中一村、常田健、神田日勝、石田徹也らが取り上げられています。特に田中一村は1984年から2014年までの間、計5回も番組で特集されています。そう言えば千葉市美術館でも一村の展覧会がありましたが、普段、何かと静かな同館が大変に混雑していました。これも日曜美術館あってゆえの集客ということだったのかもしれません。
司会の井浦さんのセレクトによる「空想美術館」も実現したら楽しいのではないでしょうか。
これは架空の美術館を作るとして、館長たる井浦さんが美術作品を幅広く取り上げていくもの。全48件です。古代の奇石や縄文土器に始まり中世美術と続きます。またお好きなのでしょうか。最も多くピックアップされたのは江戸絵画でした。さらに近代日本画に現代美術までを網羅します。うち琳派では唯一、鈴木其一の「朝顔図屏風」が取り上げられていました。かつて東京国立近代美術館で行われたRIMPA展以来、もう何年も日本で公開されていない作品ですが、確かに「咲き乱れる朝顔が美しすぎて、怖さすら感じてしまう」(*)もの。私もまたもう一度、見たい作品の一つでもあります。
ラストの資料室と題した「日曜美術館と日本の美術界の40年。」も有用ではないでしょうか。上段に日曜美術館の放送の年譜、下段に日本の美術界の出来事を記した年表。司会者などに関する記述が少なかったのは残念でしたが、少なくとも美術史とリンクする形で番組の変遷を追いかけることが出来ます。
またここでは何よりも岡崎乾二郎による解説、「非歴史化しつつある美術館は新しい歴史の扉を開くのか?」が大いに読ませます。他の美術番組やサブカルの動向にも目を向けつつ、70年代以降の美術館の設立やそのコレクション、また近年のビエンナーレや大型展の状況などについて論じていました。
美術館へのお出かけは「40の美術館で見るべき、40の名作。」が参考になりそうです。
全国津々浦々の美術館、全40館をピックアップし、さらに各1点ずつ、コレクションを紹介する特集。さすがに日本中に目を向けているだけあり、私も行ったことがない美術館ばかりですが、うち一つ、この夏にでも訪ねたいと思ったのは埼玉の丸木美術館です。言うまでもなく「原爆の図」で知られる丸木位里と俊夫妻が拠点としていた美術館。ちょうど先日、「原爆の図」の里帰り展示が報道でも取り上げられていました。
「故丸木夫妻の『原爆』里帰り 9点、60年ぶり埼玉へ」(東京新聞)
「原爆展:米ワシントンで始まる 『原爆の図』も初公開」(毎日新聞)
全体のテキストは、ライターで、NHK NEWS WEBのネットナビゲーターでもお馴染みの橋本麻里さん。テキスト量も多く、当然ながら読み応えもあります。しばらく楽しめそうです。
なお日曜美術館では公式サイトの他に、40周年記念キャンペーンサイトも公開中。びじゅつ委員長のツイッターアカウント(@nhk_bijutsu)は既によく知られるところですが、さり気なくブログもなり頻繁に更新されています。そちらもあわせてご覧下さい。
NHK日曜美術館
http://www.nhk.or.jp/nichibi/
日美40|NHK日曜美術館
http://www.nhk.or.jp/nichibi/40/
日美40ブログ(井浦新さん&制作スタッフによるアート日記)
http://www.nhk.or.jp/nichibi-blog/
雑誌BRUTUSによる、その名も「ブルータスの『日曜美術館』。」 。6月15日から全国の書店、もしくはコンビニなどで販売中です。まずはお手にとってご覧下さい。(*印はブルータスからの引用です。)
「BRUTUS(ブルータス)/ブルータスの『日曜美術館』。/マガジンハウス」
「ブルータスの『日曜美術館』。」 BRUTUS(マガジンハウス)
内容:1976年にスタートしたNHK『日曜美術館』。40年も続く番組の中では、さまざまな肩書きを持つ出演者たちが、独自の視点で美術作品や作家を語りました。教科書や専門書には載っていない、彼ら彼女らの視点や言葉を読めば、美術の楽しみ方は無限にあることが分かります。
価格:650円(税込)
刊行:2015年6月15日
仕様:128頁
「ブルータスの『日曜美術館』。」(BRUTUS)
http://magazineworld.jp/brutus/
目次&立読み→http://magazineworld.jp/brutus/brutus-803/
40周年を期しての企画です。雑誌「ブルータス」にて「日曜美術館」の特集が組まれています。
メインの企画は歴代の日曜美術館のピックアップ。全2000回超の放送では「そうそうたる出演者」(*)が登場したこともありました。言わば伝説的とも呼べる放送回を取り上げています。
第1室はかの手塚治虫です。お題は絵巻の鳥獣戯画。先の東京国立博物館の展示でも大いに話題となりました。今から遡ること30年以上も前、1982年の11月の日曜美術館に手塚治虫が出演し、独自の切り口で鳥獣戯画を語りました。
実はこの回、今年の4月にアンコール放送されました。ご覧になった方も多いかもしれません。手塚治虫が理路整然、鳥獣戯画について語る様は、もはや感動的ですらありました。特にうさぎの目、その線の巧みな描写に言及しながら、現代のマンガと関連付ける点などは、同絵巻を見る一つの切り口として、大いに興味深いものがありました。
一つの絵師や作品を複数の著名人が取り上げたこともあります。例えば尾形光琳です。最近では2010年に佐藤可士和が「夢の光琳 傑作10選」に出演。名作「燕子花図屏風」のデザイン性について語りました。
一方でもう一つの名作、「紅白梅図屏風」について語ったのは永井一正です。時は1984年。「紅白梅図 デザイナー 光琳誕生」での放送回です。さらにその7年前、1977年には田中一光が「私の光琳」と題して出演。自らの作品に光琳画を落とし込む田中が、光琳を「江戸中期のバイタリティ、ぬけぬけとした強さを持っている」(*)と評価。三者ともデザイナーではありますが、それぞれに異なった視点が面白いもの。もちろんこういった比較、番組上ではなかなか叶いませんが、今回のブルータス上では実現しているというわけです。
教育テレビ50周年の年に番組名が「新日曜美術館」から「日曜美術館」に戻りました。その第1回目に出演したのが、現代美術家の村上隆でした。
回は奇想、曾我蕭白。村上自身が3本の指に入るというくらい好きだという絵師です。作品の現代性を評価し、蕭白には「画題を持っている本質を暴き出したいという、強い欲望」(*)があったのではないかと述べています。
なお蕭白の特集に関しては1997年、舞踏家の大野一雄が、美術史家の辻惟雄とともに出演したことがあったそうです。しかもその回では蕭白の「柳下鬼女図」の前で大野が踊り出したとか。誌面ではこうした番組上でのエピソードにも触れられています。
日曜美術館を切っ掛けとして話題となった作家も少なくありません。
題して「日曜美術館スター誕生!」です。田中一村、常田健、神田日勝、石田徹也らが取り上げられています。特に田中一村は1984年から2014年までの間、計5回も番組で特集されています。そう言えば千葉市美術館でも一村の展覧会がありましたが、普段、何かと静かな同館が大変に混雑していました。これも日曜美術館あってゆえの集客ということだったのかもしれません。
司会の井浦さんのセレクトによる「空想美術館」も実現したら楽しいのではないでしょうか。
これは架空の美術館を作るとして、館長たる井浦さんが美術作品を幅広く取り上げていくもの。全48件です。古代の奇石や縄文土器に始まり中世美術と続きます。またお好きなのでしょうか。最も多くピックアップされたのは江戸絵画でした。さらに近代日本画に現代美術までを網羅します。うち琳派では唯一、鈴木其一の「朝顔図屏風」が取り上げられていました。かつて東京国立近代美術館で行われたRIMPA展以来、もう何年も日本で公開されていない作品ですが、確かに「咲き乱れる朝顔が美しすぎて、怖さすら感じてしまう」(*)もの。私もまたもう一度、見たい作品の一つでもあります。
ラストの資料室と題した「日曜美術館と日本の美術界の40年。」も有用ではないでしょうか。上段に日曜美術館の放送の年譜、下段に日本の美術界の出来事を記した年表。司会者などに関する記述が少なかったのは残念でしたが、少なくとも美術史とリンクする形で番組の変遷を追いかけることが出来ます。
またここでは何よりも岡崎乾二郎による解説、「非歴史化しつつある美術館は新しい歴史の扉を開くのか?」が大いに読ませます。他の美術番組やサブカルの動向にも目を向けつつ、70年代以降の美術館の設立やそのコレクション、また近年のビエンナーレや大型展の状況などについて論じていました。
美術館へのお出かけは「40の美術館で見るべき、40の名作。」が参考になりそうです。
全国津々浦々の美術館、全40館をピックアップし、さらに各1点ずつ、コレクションを紹介する特集。さすがに日本中に目を向けているだけあり、私も行ったことがない美術館ばかりですが、うち一つ、この夏にでも訪ねたいと思ったのは埼玉の丸木美術館です。言うまでもなく「原爆の図」で知られる丸木位里と俊夫妻が拠点としていた美術館。ちょうど先日、「原爆の図」の里帰り展示が報道でも取り上げられていました。
「故丸木夫妻の『原爆』里帰り 9点、60年ぶり埼玉へ」(東京新聞)
「原爆展:米ワシントンで始まる 『原爆の図』も初公開」(毎日新聞)
全体のテキストは、ライターで、NHK NEWS WEBのネットナビゲーターでもお馴染みの橋本麻里さん。テキスト量も多く、当然ながら読み応えもあります。しばらく楽しめそうです。
なお日曜美術館では公式サイトの他に、40周年記念キャンペーンサイトも公開中。びじゅつ委員長のツイッターアカウント(@nhk_bijutsu)は既によく知られるところですが、さり気なくブログもなり頻繁に更新されています。そちらもあわせてご覧下さい。
NHK日曜美術館
http://www.nhk.or.jp/nichibi/
日美40|NHK日曜美術館
http://www.nhk.or.jp/nichibi/40/
日美40ブログ(井浦新さん&制作スタッフによるアート日記)
http://www.nhk.or.jp/nichibi-blog/
雑誌BRUTUSによる、その名も「ブルータスの『日曜美術館』。」 。6月15日から全国の書店、もしくはコンビニなどで販売中です。まずはお手にとってご覧下さい。(*印はブルータスからの引用です。)
「BRUTUS(ブルータス)/ブルータスの『日曜美術館』。/マガジンハウス」
「ブルータスの『日曜美術館』。」 BRUTUS(マガジンハウス)
内容:1976年にスタートしたNHK『日曜美術館』。40年も続く番組の中では、さまざまな肩書きを持つ出演者たちが、独自の視点で美術作品や作家を語りました。教科書や専門書には載っていない、彼ら彼女らの視点や言葉を読めば、美術の楽しみ方は無限にあることが分かります。
価格:650円(税込)
刊行:2015年6月15日
仕様:128頁
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