「春日大社 千年の至宝」 東京国立博物館

東京国立博物館・平成館
「春日大社 千年の至宝」
1/17~3/12



昨年、60回目の式年造営を迎えた春日大社の神宝が、かつてないスケールで東京国立博物館へとやって来ました。

出展は全250件。一部に展示替えがあります。まさに「千年」とあるように、古くは平安の和琴に弓矢、室町の曼荼羅に鎌倉時代の仏像、さらに南北朝の刀剣から室町、安土桃山の絵馬などを経て、江戸の屏風絵や装束など、実に幅広い文物が展示されています。

鳥居を模したゲートをくぐると鹿がお出ましです。春日大社の草創は、「武甕槌命が鹿に乗り、常陸の鹿島から春日の地に降りた」(解説より)ことに始まると伝えられています。ゆえに神鹿として信仰の対象です。草創期を物語る神影図にも鹿が登場。「鹿島立神影図」には確かに束帯の武甕槌命が鹿に乗る様子が表されています。

神像に代え、神木の榊を立てたのは「春日鹿曼荼羅」です。うち陽明文庫所蔵の作は現存最古作。鎌倉時代に描かれました。すくっと立つ鹿の姿も凛々しい。気高さを感じさせます。

驚いたのは「鹿図屏風」でした。六曲一双の金地の屏風です。名が全てを示すように鹿の群れのみを描いています。背景には何もありません。


「鹿図屏風」 江戸時代・17世紀 春日大社

牡鹿に牝鹿、さらに仔鹿もいるのでしょうか。座ったり、立っていたりと様々。中には後ろを向いている鹿もいます。実寸大かもしれません。思いの外に大きい。解説には愛らしいともありましたが、むしろ眼光鋭く、どこか猛々しくもあります。野性的とも言えるかもしれません。時は江戸時代、宗達に連なる絵師が制作したと考えられているそうです。

「春日権現験記絵」も見どころの一つではないでしょうか。制作は鎌倉時代です。三の丸尚蔵館所蔵の原本でした。うち現在は巻二十が開いています。神の炎が社へと入る場面です。人々が心配そうに話をしています。鳥居の近くには鹿の姿も確認出来ました。描写は繊細です。山々の青みも美しい。2004年頃から修復が行われているそうです。おおよそ700年前の作品とは思えません。


「春日権現験記絵(春日本) 巻第一」 江戸時代・文化4(1807)年 春日大社

なお「春日権現験記」には後世に写された複数の模本が存在します。うち面白いのが紀州本から巻六でした。幕末の絵師、冷泉為恭の写した作品です。何が凄いといえば地獄の場面です。燃え盛る炎の中、地獄へ落ちた人々が責苦にあっています。口が裂け、体からは血が噴き出していました。実に凄惨です。まさに血みどろでした。

春日大社は藤原氏の氏神です。よって同氏が権勢を振るった平安時代に大きく隆盛しました。それゆえか平安時代に奉納された神宝が少なくありません。「平安の正倉院」とも称されているそうです。


その神宝も一定数まとめて展示。中でも素晴らしいのが「金地螺鈿毛抜形太刀」でした。柄や鍔は彫金です。肉眼では判別が難しいほどに細かな文様が施されています。面白いのが鞘の模様でした。竹林で猫が雀を追いかけています。技法は螺鈿です。やはり細密です。なお最近の調査により、彫金の部分が極めて純度の高い金であることが分かったそうです。相当の権力者が奉納したのではないでしょうか。

神仏習合の観点から、いわゆる仏教美術に関する展示があるのも興味深いところです。うち「文殊菩薩騎獅像および侍者立像」が目を引きます。中央が文殊菩薩です。春日大社の若宮と同体だと信じられていました。また侍者の表情も良い。鎌倉時代ならではの迫真性の強い仏像です。

甲冑や刀剣も数多く収めています。「赤糸威大鎧(梅鶯飾)」が見事でした。長いV字の立物も美しい。梅や鶯、それに蝶などの金具で飾っています。奉納品だけに非実用だったのでしょう。すこぶる状態が良いのにも感心しました。欠落した部分がありません。

ラストは春日大社に伝わる神事です。中でも12月に行われる若宮おん祭りに着目。関連する舞楽面や装束などが展示されています。

何よりも目立つのは「鼉太鼓」です。大変に大きい。高さは何と6メートルです。実際にも天井付近にまで達しています。野外の舞楽の際に用いられます。複製品ではありますが、並々ならぬ存在感を見せていました。

キャプションにも要注目です。というのも随所に鹿のマークが付いています。これは作中に鹿のモチーフがあることを意味します。中には一見するところ鹿が見当たらない作品もありました。鹿を探して鑑賞するのも面白いかもしれません。



春日大社の第二殿の復元展示も立派です。左右に広がる壁画は昨年の式年造替時に新たに描かれました。また回廊を飾る釣燈籠を並べた展示もあります。こちらは撮影が可能でした。



最後に会場内の状況です。1月最終週の日曜日に出かけてきました。第1会場の前半部分はやや混み合っていましたが、第2会場以降後半はスムーズ。ごく一部の絵巻を除き、行列は一切ありませんでした。現時点であれば全体的にさほど混雑していません。



しばらく見ていると、春日大社へ何年も行っていないことに気づきました。現地では昨年秋に国宝殿も開館したそうです。近々、改めてお参りしたいものです。

「芸術新潮2017年2月号/春日大社/新潮社」

3月12日まで開催されています。

「春日大社 千年の至宝」@kasuga2017) 東京国立博物館・平成館(@TNM_PR
会期:1月17日(火)~3月12日(日)
時間:9:30~17:00。
 *入館は閉館の30分前まで。
休館:月曜日。
料金:一般1600(1300)円、大学生1200(900)円、高校生900(600)円。中学生以下無料
 *( )は20名以上の団体料金。
住所:台東区上野公園13-9
交通:JR上野駅公園口より徒歩10分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅、京成電鉄上野駅より徒歩15分。
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