都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「第9回恵比寿映像祭」 東京都写真美術館
東京都写真美術館
「第9回恵比寿映像祭 マルチプルな未来」
2/10~2/26
リニューアル後、初めてとなる「恵比寿映像祭」が、東京都写真美術館で開催されています。
会場は美術館の全館です。3階、2階、さらに地下1階の3層のフロアを用い、メディアアートを中心とする様々な現代美術を紹介しています。
冒頭は森村泰昌でした。お馴染みの有名人に扮したポートレートもずらり。森村の参照するウォーホルのシリーズも並んでいます。さらにレイ・レイ、澤田知子、笹本晃と続いています。うち澤田知子が充実していました。セルフポートレイトの連作です。同じ制服を身につけた生徒の一人一人を澤田が演じ、集合写真として写し出しています。またハインツのイエローマスタードをモチーフにした作品も面白いのではないでしょうか。商品のパッケージのラベルに注目、それを56か国の言語に翻訳しています。ラベル自体は同一のデザインです。しかしながら言語が変わることで、「人の顔」(解説より)のように異なった表情が生まれていました。
洗濯機を用いたインスタレーションを手がけたのが笹本晃です。大量の白い洗濯物と乾燥機。さらに洗濯機を模したオブジェも加わります。タイトルは「デリケートサイクル」。洗濯機の低速コースを意味するそうです。この奇妙な空間はいささかシュールです。何らかの舞台装置のようでもあります。実際に笹本はここでパフォーマンスを行ったそうです。(全日程終了。)一体、どのような内容だったのでしょうか。
一番人気があったのはポーランド出身の映像作家、ズビグ・リプチンスキーです。映像の1点、「タンゴ」でした。
1982年の第55回アカデミー短編アニメ賞の受賞作です。古典的な名作ではありますが、何度見ても面白い。35ミリフィルムです。舞台もただ1つ。どこでもありそうな家庭の室内でした。
物語は窓からボールが投げ込まれることから始まります。すると少年が窓を乗り越えて室内へと入り込んできました。以降、人が入れ替わり立ち替わり、同じ行動を延々と繰り返します。それが一人ずつどんどん増えていくわけです。いつしか部屋いっぱい、入り切れないほどの人で溢れかえりました。全部で36人です。荷物を戸棚にしまったり、衣服を着替えたり、何か机で書物をしている人もいます。電球を替え損なっては転倒する男もいました。赤ん坊、子ども、大人、老人の分け隔てはありません。老いも若きも日常をひたすらに反復します。滑稽です。とはいえ、ここには老若男女の一生、いわば人生の縮図が表されているのではないでしょうか。私もつい夢中で2、3回と見入ってしまいました。
まさしく「ゴースト」(解説より)のダンスでした。オープンエンデッドグループ&ビル・T・ジョーンズの「アフター・ゴーストキャッチング」です。映像は3Dです。よって特別な眼鏡を着用する必要があります。ビル・T・ジョーンズのダンスが、モーションキャプチャーによって線、ないし動きそのものに解体。人種や性別すら判然としない骨格のデータに置き換わります。まるで幻影を前にしているかのようでした。
色をテーマとしたのが豊嶋康子です。タイトルは「色調補正」。赤や緑の光が約1秒毎に点滅を繰り返しています。
豊嶋康子「色調補正」 2005年
本作のみ撮影が可能でした。しかもフラッシュ推奨です。スマートフォンをかざし、フラッシュ付きで撮影してみました。するとやや色が変化したのでしょうか。やや分かりにくい面もありましたが、一瞬、変わったようにも映りました。
金氏徹平「White Discharge(公園)」 2016年
さて恵比寿映像祭は美術館の外へも展開。例えばガーデンプレイスのセンター広場です。作家の金氏徹平が、彫刻作品の「White Discharge(公園)」を設置しています。
金氏徹平「White Discharge(公園)」 2016年
テーマは遊園地です。確かに遊具らしき乗り物も見えます。しかしカラーコーンやラックなどの日用品も介在。全てをコラージュした上で、得意の白でコーティングしています。ポップな色とは裏腹に、どこか生々しく、不気味にも映ります。遊園地の廃墟のような世界が広がっていました。
日仏会館
ガーデンプレイスから道を隔てた一つ先の日仏会館も会場です。2階のギャラリーにて空族+スタジオ石+YCAMによる映像インスタレーション、「潜行一千里」が上映されています。
モチーフは、昨年のロカルノ映画祭若手審査員・最優秀作品賞を受賞した映画、「バンコクナイツ」です。その主人公に着目し、彼らの辿ったタイやラオスの旅程をマルチ・チャンネルのスクリーンで映し出しています。時折、現れる夕景が美しい。さり気ない日常の光景がひたすらに続きますが、しばらく追っていくと、かの地の光や空気が伝わってきました。
映像祭のプログラムは何も展示だけではありません。ほか上映、シンポジウム、パフォーマンスも各種開催。立て続けにイベントが行われています。展示自体も思いの外に充実していましたが、イベントに参加しながら見るのも良いかもしれません。
東京都写真美術館
展示プログラムは原則無料です。2月26日まで開催されています。
「第9回恵比寿映像祭 マルチプルな未来」 東京都写真美術館(@topmuseum)
会期:2月10日(金)~2月26日(日)
休館:月曜日。
時間:10:00~20:00 *最終日は18時まで開館。
料金:無料。但し定員制のプログラムは有料。
住所:目黒区三田1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス内
交通:JR線恵比寿駅東口改札より徒歩8分。東京メトロ日比谷線恵比寿駅より徒歩10分。
「第9回恵比寿映像祭 マルチプルな未来」
2/10~2/26
リニューアル後、初めてとなる「恵比寿映像祭」が、東京都写真美術館で開催されています。
会場は美術館の全館です。3階、2階、さらに地下1階の3層のフロアを用い、メディアアートを中心とする様々な現代美術を紹介しています。
冒頭は森村泰昌でした。お馴染みの有名人に扮したポートレートもずらり。森村の参照するウォーホルのシリーズも並んでいます。さらにレイ・レイ、澤田知子、笹本晃と続いています。うち澤田知子が充実していました。セルフポートレイトの連作です。同じ制服を身につけた生徒の一人一人を澤田が演じ、集合写真として写し出しています。またハインツのイエローマスタードをモチーフにした作品も面白いのではないでしょうか。商品のパッケージのラベルに注目、それを56か国の言語に翻訳しています。ラベル自体は同一のデザインです。しかしながら言語が変わることで、「人の顔」(解説より)のように異なった表情が生まれていました。
洗濯機を用いたインスタレーションを手がけたのが笹本晃です。大量の白い洗濯物と乾燥機。さらに洗濯機を模したオブジェも加わります。タイトルは「デリケートサイクル」。洗濯機の低速コースを意味するそうです。この奇妙な空間はいささかシュールです。何らかの舞台装置のようでもあります。実際に笹本はここでパフォーマンスを行ったそうです。(全日程終了。)一体、どのような内容だったのでしょうか。
一番人気があったのはポーランド出身の映像作家、ズビグ・リプチンスキーです。映像の1点、「タンゴ」でした。
1982年の第55回アカデミー短編アニメ賞の受賞作です。古典的な名作ではありますが、何度見ても面白い。35ミリフィルムです。舞台もただ1つ。どこでもありそうな家庭の室内でした。
物語は窓からボールが投げ込まれることから始まります。すると少年が窓を乗り越えて室内へと入り込んできました。以降、人が入れ替わり立ち替わり、同じ行動を延々と繰り返します。それが一人ずつどんどん増えていくわけです。いつしか部屋いっぱい、入り切れないほどの人で溢れかえりました。全部で36人です。荷物を戸棚にしまったり、衣服を着替えたり、何か机で書物をしている人もいます。電球を替え損なっては転倒する男もいました。赤ん坊、子ども、大人、老人の分け隔てはありません。老いも若きも日常をひたすらに反復します。滑稽です。とはいえ、ここには老若男女の一生、いわば人生の縮図が表されているのではないでしょうか。私もつい夢中で2、3回と見入ってしまいました。
まさしく「ゴースト」(解説より)のダンスでした。オープンエンデッドグループ&ビル・T・ジョーンズの「アフター・ゴーストキャッチング」です。映像は3Dです。よって特別な眼鏡を着用する必要があります。ビル・T・ジョーンズのダンスが、モーションキャプチャーによって線、ないし動きそのものに解体。人種や性別すら判然としない骨格のデータに置き換わります。まるで幻影を前にしているかのようでした。
色をテーマとしたのが豊嶋康子です。タイトルは「色調補正」。赤や緑の光が約1秒毎に点滅を繰り返しています。
豊嶋康子「色調補正」 2005年
本作のみ撮影が可能でした。しかもフラッシュ推奨です。スマートフォンをかざし、フラッシュ付きで撮影してみました。するとやや色が変化したのでしょうか。やや分かりにくい面もありましたが、一瞬、変わったようにも映りました。
金氏徹平「White Discharge(公園)」 2016年
さて恵比寿映像祭は美術館の外へも展開。例えばガーデンプレイスのセンター広場です。作家の金氏徹平が、彫刻作品の「White Discharge(公園)」を設置しています。
金氏徹平「White Discharge(公園)」 2016年
テーマは遊園地です。確かに遊具らしき乗り物も見えます。しかしカラーコーンやラックなどの日用品も介在。全てをコラージュした上で、得意の白でコーティングしています。ポップな色とは裏腹に、どこか生々しく、不気味にも映ります。遊園地の廃墟のような世界が広がっていました。
日仏会館
ガーデンプレイスから道を隔てた一つ先の日仏会館も会場です。2階のギャラリーにて空族+スタジオ石+YCAMによる映像インスタレーション、「潜行一千里」が上映されています。
モチーフは、昨年のロカルノ映画祭若手審査員・最優秀作品賞を受賞した映画、「バンコクナイツ」です。その主人公に着目し、彼らの辿ったタイやラオスの旅程をマルチ・チャンネルのスクリーンで映し出しています。時折、現れる夕景が美しい。さり気ない日常の光景がひたすらに続きますが、しばらく追っていくと、かの地の光や空気が伝わってきました。
今年も雪が舞う中、恵比寿映像祭開催! テーマは「マルチプルな未来」、広場の金氏徹平のインスタレーションは必見‼️ 周辺のギャラリー連携プログラムもお忘れなくhttps://t.co/LbtIZLfd1S #TABapp pic.twitter.com/MsUwUziaSe
— Tokyo Art Beat ⛄️ (@TokyoArtBeat_JP) 2017年2月9日
映像祭のプログラムは何も展示だけではありません。ほか上映、シンポジウム、パフォーマンスも各種開催。立て続けにイベントが行われています。展示自体も思いの外に充実していましたが、イベントに参加しながら見るのも良いかもしれません。
東京都写真美術館
展示プログラムは原則無料です。2月26日まで開催されています。
「第9回恵比寿映像祭 マルチプルな未来」 東京都写真美術館(@topmuseum)
会期:2月10日(金)~2月26日(日)
休館:月曜日。
時間:10:00~20:00 *最終日は18時まで開館。
料金:無料。但し定員制のプログラムは有料。
住所:目黒区三田1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス内
交通:JR線恵比寿駅東口改札より徒歩8分。東京メトロ日比谷線恵比寿駅より徒歩10分。
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