都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「オルセーのナビ派展」 三菱一号館美術館
三菱一号館美術館
「オルセーのナビ派展:美の預言者たちーささやきとざわめき」
2/4~5/21

ドニやボナールなど、日本でも人気のあるナビ派の画家たち。しかしながら、系統立てて俯瞰する展覧会は、今まで一度も開催されていませんでした。
国内初の本格的なナビ派展です。タイトルにも記載がありますが、出品作の大半はオルセーのコレクションです。(一部に他館、及び国内所蔵作品を含む。)それ故でしょうか。ともかく全体的に粒が揃っています。小品にも力作が少なくありません。

ポール・ゴーガン「黄色いキリストのある自画像」 1890-1891年 油彩/カンヴァス
冒頭はゴーガンでした。「黄色いキリストのある自画像」です。疑り深い目で前を見据えるゴーガン。自画像の多い画家の中でもよく知られる一枚ですが、彼はナビ派ではありません。一体、何故にゴーガンから始まるのでしょうか。

ポール・セリュジエ「タリスマン(護符)、愛の森を流れるアヴェン川」 1888年 油彩/板
接点はナビ派の画家、ポール・セリュジエでした。彼がポン=タヴァンにてゴーガンに学び、その教えに基づいて「タリスマン(護符)」を描きます。風景は大きく変容。川や木立の存在こそ感じられるものの、色面はもはや抽象性を帯びています。この作品が後にパリへ持ち帰られます。よほど衝撃的だったのでしょう。それが切っ掛けで、同じアカデミーに属していたボナール、ヴュイヤール、ドニ、ランソンらとともにナビ派のグループが結成されました。
ドニの「テラスの陽光」が鮮烈です。色は分割。空と樹木以外はオレンジ色の光で満たされています。「非現実化された色彩表現」(解説より)もナビ派の特徴です。この強いオレンジにドニは何を意図したのでしょうか。

ピエール・ボナール「黄昏(クロッケーの試合)」 1892年 油彩/カンヴァス
色の面による構成は時に奥行きを排除し、画面に装飾的な造形をもたらします。一例がボナールの「黄昏(クロッケー)の試合」です。クロッケーとはゲートボールの原型です。ラケットを持つ人の姿を描いています。上流階級の嗜みでしょうか。皆、ドレスを着飾っていました。表現は確かに平面的です。同一の色面を広げて木立を象っています。震えるような曲線を多用しています。犬が可愛らしい。モコモコしています。ぬいぐるみのようでした。
そのボナールに、衝撃的な一枚がありました。「ベッドでまどろむ女」です。ベッドの上で一人、女性が一糸まとわず、仰向けになって横たわっています。ダブルベッドでしょう。シーツは乱れに乱れています。光の陰影がドラマティックでした。シーツに強い光が当たる一方、女性の手前と床、さらに布団には黒、ないし焦げ茶色の影が差し込んでいます。極めて親密な室内空間です。こうした身近な光景もナビ派の得意とするところでした。

フェリックス・ヴァロットン「化粧台の前のミシア」 1898年 デトランプ/厚紙
ヴァロットンの「化粧台の前のミシア」もプライベートな室内を舞台としています。いささか険しい表情の女性が化粧台の前に立っています。首に手をやっているのは何の仕草でしょうか。色の構成が絶妙です。台の白、衣服のピンク、そして壁の青にカーペットの赤のコントラストが際立っています。覗き込むかのような構図も面白い。彼女はこの空間に一人でいるのでしょうか。どことなくドラマの展開を予兆させる作品でもあります。

ピエール・ボナール「格子柄のブラウス」 1892年 油彩/カンヴァス
チラシ表紙を飾るボナールの「格子柄のブラウス」は思いの外に小さな作品でした。縦60センチに横は30センチほどです。右手で猫を抱き寄せ、左手でフォークを使いながら食事をとっています。トリミングでしょうか。両腕が左右で見切れています。それゆえかピンクの格子柄が引き立ちます。モデルとの距離も近しい。それこそ今、テーブル越しに彼女と食事しているかのようでした。

フェリックス・ヴァロットン「ボール」 1899年 油彩/板に貼り付けた厚紙
かつてのヴァロットン展でも一際目立っていた「ボール」が再びやって来ました。強い日差しが照る公園で女の子がボールを追っかけています。奥には二人の女性が立っています。一人は女の子の母親かもしれません。しかしながら、その距離はあまりにも遠い。さらに女の子の後方へ影が触手のように伸びています。一見、何ら変哲のない日常ながらも、不穏な気配があるのは否めません。女の子は一体、どこへ行ってしまうのでしょうか。
子どももナビ派が得意としたテーマでした。例えばボナールの「ランプの下の昼食」では赤ん坊に食事を与える姿を表現しています。圧巻なのはヴュイヤールの「公園」のシリーズです。一面の公園のパノラマです。子どもたちもいます。筆は緻密です。まるでタペスリーのような独特の質感がありました。パリの邸宅の応接間を飾るために制作されたそうです。本来は9枚揃いです。うち5枚をオルセーが所蔵。全てが展示されています。

エドゥアール・ヴュイヤール「ベットにて」 1891年 油彩/カンヴァス
そのヴュイヤールに興味深い一枚がありました。「ベットにて」です。ひたすらに眠りこける人物。顔以外の全てがリネンに包まれています。ベージュを基調とした単色での構成です。色同士がせめぎあっています。顔の上のTの字は何を意味するのでしょうか。否応なしに十字架を連想しました。この人物は永遠の眠りについているのかもしれません。

モーリス・ドニ「ミューズたち」 1893年 油彩/カンヴァス
全81点。まずゴーガンを参照した上で、「庭の女性」や「親密さの詩情」、「子ども時代」など、ナビ派の性質を表すテーマで作品を紹介しています。繰り返しになりますが、ともかく力作ばかりです。監修のオルセー美術館の学芸員、イザベル・カーン氏をして「コレクションの傑作」との言葉がありましたが、あながち誇張とは思えませんでした。
最後に館内の状況です。2月12日(日)の午後に見てきました。特に入場待機列もなく、全般的にスムーズ。余裕を持って観覧することが出来ました。
しかし何かと会期後半に人出が集中する一号館のことです。春以降は混雑も予想されます。早めの観覧がベストです。金曜、ないし第2水曜の夜間開館も有用となりそうです。

グッズの絵葉書が良く出来ています。全点塗り絵付きです。見て、飾るだけでなく、塗っても楽しめました。
5月21日まで開催されています。おすすめします。
「オルセーのナビ派展:美の預言者たちーささやきとざわめき」 三菱一号館美術館(@ichigokan_PR)
会期:2月4日(土)~5月21日(日)
休館:月曜日。但し祝日の場合は開館。年末年始(12月29日~1月1日)。
時間:10:00~18:00。
*祝日を除く金曜、第2水曜、会期最終週の平日は20時まで。
*入館は閉館の30分前まで。
料金:大人1700円、高校・大学生1000円、小・中学生500円。
*ペアチケットあり:チケットぴあのみで販売。一般ペア3000円。
*3月1日~15日は「学生無料ウィーク」のため大学生以下無料。
住所:千代田区丸の内2-6-2
交通:東京メトロ千代田線二重橋前駅1番出口から徒歩3分。JR東京駅丸の内南口・JR有楽町駅国際フォーラム口から徒歩5分。
「オルセーのナビ派展:美の預言者たちーささやきとざわめき」
2/4~5/21

ドニやボナールなど、日本でも人気のあるナビ派の画家たち。しかしながら、系統立てて俯瞰する展覧会は、今まで一度も開催されていませんでした。
国内初の本格的なナビ派展です。タイトルにも記載がありますが、出品作の大半はオルセーのコレクションです。(一部に他館、及び国内所蔵作品を含む。)それ故でしょうか。ともかく全体的に粒が揃っています。小品にも力作が少なくありません。

ポール・ゴーガン「黄色いキリストのある自画像」 1890-1891年 油彩/カンヴァス
冒頭はゴーガンでした。「黄色いキリストのある自画像」です。疑り深い目で前を見据えるゴーガン。自画像の多い画家の中でもよく知られる一枚ですが、彼はナビ派ではありません。一体、何故にゴーガンから始まるのでしょうか。

ポール・セリュジエ「タリスマン(護符)、愛の森を流れるアヴェン川」 1888年 油彩/板
接点はナビ派の画家、ポール・セリュジエでした。彼がポン=タヴァンにてゴーガンに学び、その教えに基づいて「タリスマン(護符)」を描きます。風景は大きく変容。川や木立の存在こそ感じられるものの、色面はもはや抽象性を帯びています。この作品が後にパリへ持ち帰られます。よほど衝撃的だったのでしょう。それが切っ掛けで、同じアカデミーに属していたボナール、ヴュイヤール、ドニ、ランソンらとともにナビ派のグループが結成されました。
ドニの「テラスの陽光」が鮮烈です。色は分割。空と樹木以外はオレンジ色の光で満たされています。「非現実化された色彩表現」(解説より)もナビ派の特徴です。この強いオレンジにドニは何を意図したのでしょうか。

ピエール・ボナール「黄昏(クロッケーの試合)」 1892年 油彩/カンヴァス
色の面による構成は時に奥行きを排除し、画面に装飾的な造形をもたらします。一例がボナールの「黄昏(クロッケー)の試合」です。クロッケーとはゲートボールの原型です。ラケットを持つ人の姿を描いています。上流階級の嗜みでしょうか。皆、ドレスを着飾っていました。表現は確かに平面的です。同一の色面を広げて木立を象っています。震えるような曲線を多用しています。犬が可愛らしい。モコモコしています。ぬいぐるみのようでした。
そのボナールに、衝撃的な一枚がありました。「ベッドでまどろむ女」です。ベッドの上で一人、女性が一糸まとわず、仰向けになって横たわっています。ダブルベッドでしょう。シーツは乱れに乱れています。光の陰影がドラマティックでした。シーツに強い光が当たる一方、女性の手前と床、さらに布団には黒、ないし焦げ茶色の影が差し込んでいます。極めて親密な室内空間です。こうした身近な光景もナビ派の得意とするところでした。

フェリックス・ヴァロットン「化粧台の前のミシア」 1898年 デトランプ/厚紙
ヴァロットンの「化粧台の前のミシア」もプライベートな室内を舞台としています。いささか険しい表情の女性が化粧台の前に立っています。首に手をやっているのは何の仕草でしょうか。色の構成が絶妙です。台の白、衣服のピンク、そして壁の青にカーペットの赤のコントラストが際立っています。覗き込むかのような構図も面白い。彼女はこの空間に一人でいるのでしょうか。どことなくドラマの展開を予兆させる作品でもあります。

ピエール・ボナール「格子柄のブラウス」 1892年 油彩/カンヴァス
チラシ表紙を飾るボナールの「格子柄のブラウス」は思いの外に小さな作品でした。縦60センチに横は30センチほどです。右手で猫を抱き寄せ、左手でフォークを使いながら食事をとっています。トリミングでしょうか。両腕が左右で見切れています。それゆえかピンクの格子柄が引き立ちます。モデルとの距離も近しい。それこそ今、テーブル越しに彼女と食事しているかのようでした。

フェリックス・ヴァロットン「ボール」 1899年 油彩/板に貼り付けた厚紙
かつてのヴァロットン展でも一際目立っていた「ボール」が再びやって来ました。強い日差しが照る公園で女の子がボールを追っかけています。奥には二人の女性が立っています。一人は女の子の母親かもしれません。しかしながら、その距離はあまりにも遠い。さらに女の子の後方へ影が触手のように伸びています。一見、何ら変哲のない日常ながらも、不穏な気配があるのは否めません。女の子は一体、どこへ行ってしまうのでしょうか。
子どももナビ派が得意としたテーマでした。例えばボナールの「ランプの下の昼食」では赤ん坊に食事を与える姿を表現しています。圧巻なのはヴュイヤールの「公園」のシリーズです。一面の公園のパノラマです。子どもたちもいます。筆は緻密です。まるでタペスリーのような独特の質感がありました。パリの邸宅の応接間を飾るために制作されたそうです。本来は9枚揃いです。うち5枚をオルセーが所蔵。全てが展示されています。

エドゥアール・ヴュイヤール「ベットにて」 1891年 油彩/カンヴァス
そのヴュイヤールに興味深い一枚がありました。「ベットにて」です。ひたすらに眠りこける人物。顔以外の全てがリネンに包まれています。ベージュを基調とした単色での構成です。色同士がせめぎあっています。顔の上のTの字は何を意味するのでしょうか。否応なしに十字架を連想しました。この人物は永遠の眠りについているのかもしれません。

モーリス・ドニ「ミューズたち」 1893年 油彩/カンヴァス
全81点。まずゴーガンを参照した上で、「庭の女性」や「親密さの詩情」、「子ども時代」など、ナビ派の性質を表すテーマで作品を紹介しています。繰り返しになりますが、ともかく力作ばかりです。監修のオルセー美術館の学芸員、イザベル・カーン氏をして「コレクションの傑作」との言葉がありましたが、あながち誇張とは思えませんでした。
最後に館内の状況です。2月12日(日)の午後に見てきました。特に入場待機列もなく、全般的にスムーズ。余裕を持って観覧することが出来ました。
【ナビ派展/僕たちナビ派】ナビ派結成の経緯をイラストでご紹介します。https://t.co/dIz3wxZdhR pic.twitter.com/yjY1xABlZP
— 三菱一号館美術館 (@ichigokan_PR) 2017年2月21日
しかし何かと会期後半に人出が集中する一号館のことです。春以降は混雑も予想されます。早めの観覧がベストです。金曜、ないし第2水曜の夜間開館も有用となりそうです。

グッズの絵葉書が良く出来ています。全点塗り絵付きです。見て、飾るだけでなく、塗っても楽しめました。
5月21日まで開催されています。おすすめします。
「オルセーのナビ派展:美の預言者たちーささやきとざわめき」 三菱一号館美術館(@ichigokan_PR)
会期:2月4日(土)~5月21日(日)
休館:月曜日。但し祝日の場合は開館。年末年始(12月29日~1月1日)。
時間:10:00~18:00。
*祝日を除く金曜、第2水曜、会期最終週の平日は20時まで。
*入館は閉館の30分前まで。
料金:大人1700円、高校・大学生1000円、小・中学生500円。
*ペアチケットあり:チケットぴあのみで販売。一般ペア3000円。
*3月1日~15日は「学生無料ウィーク」のため大学生以下無料。
住所:千代田区丸の内2-6-2
交通:東京メトロ千代田線二重橋前駅1番出口から徒歩3分。JR東京駅丸の内南口・JR有楽町駅国際フォーラム口から徒歩5分。
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